ロック史に燦然と輝くライヴアルバムの大名盤『LIVE IN JAPAN』。かの超傑作を生み出した1972年のDEEP PURPLE初来日でも、唯一の東京公演だった「1972年8月17日:日本武道館」公演のライヴアルバムが最新リマスターを経て復活です。そもそも「ライヴアルバムとはなにか?」。生演奏を題材にした“作品”なのか、それとも真実を伝える“記録”なのか。その答えはどちらも正解なのでしょう。ただ、『LIVE IN JAPAN』は、明らかに“作品”としての超名盤でした。オーバーダブこそないとされてはいますが、大阪2回+東京1回の3公演からセレクトし、精緻に音を整理・磨き上げられた名作中の名作。しかし、その一方、極限的な名演であるからこそ“真実の記録”にも浸りたい。そのための最高峰オーディエンス・アルバムが本作なのです。今さらではありますが、初来日の“奇跡の3日間”を振り返ってみましょう。
・1972年8月15日:大阪フェスティバルホール ・1972年8月16日:大阪フェスティバルホール ・1972年8月17日:日本武道館 【本作】
以上が伝説の初来日のすべて。3日間とも公式に録音され、そこから編集されて『LIVE IN JAPAN』が誕生。歴史を変えたわけです。その“真実の記録”として、3公演のオーディエンス録音を網羅した6枚組の大傑作『LIVE IN JAPAN COMPELETE』も有名で、そこにも日本武道館公演は収録されていました。しかし、本作はその後に登場したまったくの別録音なのです。この新録音の登場は凄まじいものでした。なにしろ、初来日から40年近く、日本武道館のオーディエンス録音は1種類しか知られていなかった。『LIVE IN JAPAN COMPELETE』のディスク5・6に収録された録音だけ。しかも、そのクオリティは大阪2公演よりも一歩譲り、低音のビビリも耳障りなサウンドだったのです。ところが、初来日から39年経った2011年になって突如の2本目が発掘された。歴史的現場にたゆたう空気を直接吸い込んだマスター・カセットの現物から起こされたサウンドは、既発を軽々と凌駕し、これまで日本公演の最高峰サウンドだった大阪初日にも匹敵するクリアさ。しかも、収録時間も遥かに長く、冒頭のチューニング・シーンも終演後の伝説的なDJまでもが完全収録されていた。すべての面で驚天動地の大発掘だったのです。その新録音は『LOUDER THAN EVERYTHING ELSE(本盤と同題)』としてリリースされ、瞬く間に完売・廃盤。当店でも1・2を争う“再発リクエストが絶えないライヴ盤”となっていました。今回、そんな超名盤が最新リマスターを施したうえで復活となったのです。ここで、正直に告白した方が良いでしょう。本作をリリースするにあたり、確かに最新リマスターを行いました。しかし、大きくは変わっていません。当店では、マスタリングの際にも元録音の鳴りや息遣いを大事にしているのですが、本作の元録音は手を加えさせない見事なものだった。無理にイコライジングしてド迫力に仕上げることも不可能ではありませんが、些細な演奏の機微をつぶさず、ナチュラルな鳴りをキープしたままで向上させることは不可能。ヘッドフォンで集中して聴き比べれば、やや鮮やかになったサウンドも感じられますが、その程度が精一杯。それ以上は、マスターを汚すことにもなりかねなかったのです。とは言うものの、本作が史上最高盤であることには変わりない。高みを極める意味でも、再発リクエストにお応えする意味でも、2CDの同タイトル・別アートワークでの登場となりました。そんな本作は、まさに“記録の最高傑作”と呼ぶに相応しい。サウンド面でも大阪初日と拮抗する最高峰ですが、その上に演奏も素晴らしい。初来日公演は3日間とも奇跡的な名演ですが、最終日の本作では、初めての日本という緊張感がほぐれ、最終日ならではの思い切りの良さもたっぷり。公式盤『LIVE IN JAPAN』は、1曲毎の名演をかき集めたために日本武道館から2曲「The Mule」「Lazy」だけの収録となりましたが、ショウ全体を貫くノリの良さはピカイチで、初来日でもベストとも言われる“奇跡の中の奇跡”なのです。そんな名演をノーカットの一気貫通(「Lazy」でのテープチェンジ部も別録音で補完し、シームレスに完全収録しています)で“聴ける”だけでも素晴らしいのですが、本作はそれ以上に“体験”できるから凄い。DEEP PURPLEにとっては日本3公演目ですが、観客にとっては初対面。その衝撃も克明に記録されており、まさに現場に身を置く感覚で浸りきれる。1曲ごとに沸き上がる喝采も超リアルですが、さらにそこから観客の本音も漏れ聞こえる。例えば、「Child In Time」のギターソロの後で「ターギ、最高です」「見事」とつぶやかれ、「The Mule」のドラムソロでは「チューニング高めだよね」等と評しあう。まさか目の前の演奏がロック史に輝く究極の名盤に収められるとは想像だにせず、ただひたすらエキサイティングな演奏に面食らい、なんとも素直で丸裸の空気感が漂うのです。そんな猛烈な現場感に溺れるのががアンコール。口笛と絶叫が飛び交う猛烈な熱狂の中から生々しく「Fireball!」と叫ぶ声も聞こえ、さらに伝説的な有名DJのコメントも完全収録。既発でも「Space Truckin'」「Black Night」後のコメントが聴けましたが、本作ではさらに「Speed King」終演後のDJ再登場シーンまでも収録。ここでそのコメントも書き起こしておきましょう。
●「Space Truckin'」後「どうも、盛大な拍手をね。DEEP PURPLE!」●「Black Night」後 「どうも、ありがとうございます。どうぞ、より盛大なコンサートを。DEEP PURPLE! DEEP PURPLE! なお、DEEP PURPLEの一行は明日から、えー、もう今日、一番最後の演奏会。東京のこの演奏会を最後にしまして、いよいよ日本ともうお別れ。従って大変に今晩の演奏会を、名残惜しそうに演奏を続けまして、多分、もう1曲やってくれるはずです。DEEP PURPLE!」●「Speed King」終演後「どうも大変なご声援ありがとうございました。DEEP PURPLEの演奏会を終わります。ありがとうございました!」
観客が思わず口走る「あーっすげ」「あー疲れた」と共に終了する本作。ロック史に燦然と輝く伝説の刻、その最後の瞬間にまで立ち会える1本です。奇跡の初来日でも名演として知られる日本武道館。その最高峰を更新するサウンドでたっぷりと体験できるドキュメント・アルバムの超名盤。
Live at Budokan, Tokyo, Japan 17th August 1972
Disc 1 (52:29)
1. Intro. 2. Highway Star 3. Smoke On The Water 4. Child In Time 5. The Mule 6. Strange Kind Of Woman
Disc 2 (52:30)
1. Lazy 2. Space Truckin' 3. Black Night 4. Speed King 5. Outro.
Ian Gillan - Vocal Ritchie Blackmore - Guitar Roger Glover – Bass Jon Lord - Keyboard Ian Paice – Drums