「ブリティッシュ・ロックの1つの極み」……そんな大仰な言葉さえも躊躇なく贈れるとんでもない1枚が登場です。英国ロックの歴史は、星の数ほどの名バンドの名前で埋め尽くされていますが、そんな中でも“もっとも英国らしい”と感じさせてくれるバンド、それがWISHBONE ASHではないでしょうか。本作は、そんなWISHBONE ASH永遠の大名盤「ARGUS」の発売から1ヶ月も経たない「1972年5月25日ロンドン」で録音されたBBCライヴです。このライヴは、WISHBONE ASHでももっとも古くから知られる超有名録音で、幾多のブートレッグはもとより、「BBC RADIO 1 LIVE IN CONCERT」として公式リリースもされている代名詞的なもの。現在まで、その頂点バージョンと言われてきたのは、10年ほど前にリリースされた「POP SPECTACULAR(Wardour-044)」でした。極上のBBC放送のトランスクリプション・ディスクからダイレクトに起こされたサウンドはもちろん、モノラルだったオフィシャル盤をものともしないステレオ・サウンドの美しさは、まさに究極的。その衝撃は海を越え、IRON MAIDENのスティーヴ・ハリスをはじめ、このCDを手に入れたくて足を運ぶミュージシャンもいたほどなのです。本作は、それほど究極的だった「POP SPECTACULAR」を超えてしまった1枚。世界の音楽家が愛した「POP SPECTACULAR」は放送原盤から起こされたものですが、本作の元になったのは原盤よりさらに源泉に迫ったリールマスターからデジタル化されたものなのです。放送版の曲間は各トラックをフェイド処理してDJのバンド紹介・曲紹介が挿入されていましたが、このバージョンにはそれさえなく、曲間処理の荒っぽさも生々しい。そして、それ以上に鮮烈なのがサウンド。アナログ盤起こしとは次元が違い、豊かな鳴りは一層深く、マイルドで厚みを感じさせながら、音の1粒1粒は一層鮮やか。まるで極上のビロードのように滑らかで艶やかなサウンドが耳に注がれるのです。また、「ARGUS」のデラックス・エディションでもDJも丸ごとステレオ放送版で再オフィシャル化されてはいるものの、その際に施されたエコーなどの音処理が不自然だった。本作はそれもなく、生演奏そのものが耳へ、脳の中へ飛び込んでくるのです。放送用の6曲以外の「Jailbait」「The Pilgrim」は、「POP SPECTACULAR」と同じく別マスターからボーナス収録しました。もちろん、こちらも現存するベスト・マスターを使用しており、精緻なマスタリングで違和感を最小限に抑えています。そんなサウンドの主がWISHBONE ASH。これがなんとも素晴らしい。ピッキングの妙味から克明なツイン・ギター、シンプルなようで多彩でジャジーなビート、派手でも超絶名ハイトーンでもないヴォーカルが幾重にも織りなすハーモニー。枯れていながら豊かという不思議な音楽の深み……。まさに英国でしかあり得ない深い森のようなロック。その極みです。そして、その滋味溢れるサウンド・演奏で繰り広げられる大名盤「ARGUS」の世界。リリース直後のプロモーションということもあり、アルバム全7曲中5曲を冒頭から畳みかけている。成功を手中にした「LIVE DATES」に比べると、やや堅めの演奏でもありますが、その分スタジオ作「ARGUS」により近い。まさに、あの大名盤の生演奏バージョンでもあるのです。 ピーター・ガブリエル時代のGENESISやJETHRO TULL、QUEENなど、“純英国”を感じさせてくれるバンドはいくつかあります。しかし、歌詞やヴィジュアル、コンセプトの力がなくともノート1つ、ハーモニー1つで「あぁ、これが英国なんだ」と魂に刻んでくれるバンドは、WISHBONE ASHをおいて他にない。その頂点たる「ARGUS」時代、その英国BBC録音をまさかのマスター・クオリティで伝えてくれる1枚です。“全世界的”ではなく、あくまでも、どこまでも“英国的”なライヴアルバム。ブリティッシュ・ロックの1つの極み、今週末あなたのお手元へお届けします。
Paris Theatre, London, UK 25th May 1972 STEREO SBD(UPGRADE) (71:01)
1. Time Was 2. Blowin' Free 3. Warrior 4. Throw Down The Sword 5. The King Will Come 6. Phoenix (Bonus Track) 7. Jailbait 8. The Pilgrim
Andy Powell - Guitar, Vocals Martin Turner - Bass, Vocals Ted Turner - Guitar, Vocals Steve Upton - Drums
STEREO SOUNDBOARD RECORDING