当時の最新かつ傑作アルバム「THE WHO BY NUMBERS」を引っ提げて行われたツアーは映画版「TOMMY」が大ヒットした相乗効果もあって実質的に一年にも及んだ、キース・ムーン存命時における最後のライブツアーでもありました。一見するとこの時期はアイテムが豊富な印象を受け、なおかつ良質な音源に恵まれている時期であるかのように思えます。ところが、アイテムのリリースが集中しているのは1976年レグのものばかり。実際10年近く前にリリースされたチャールトン、近年ではジャクソンビルにラーゴ、シアトルにウィニペグ、そして長いツアーを締めくくったトロントが昨年リリースされましたが、どれも76年のステージを捉えていたのです。ツアーの前半戦であった1975年レグに関しても過去にプロヴィデンスをリリースした実績がありましたが、それ以前のヨーロッパやイギリスの音源を当店がリリースしたことは一度もありません。そもそも「BY NUMBERS」ツアーの序盤を収めたアイテムと言うのは極端に少なく、今から20年前に11月7日のルートヴィヒスハーフェン公演を収めた「BORIS THE SPIDER」というCDがあったのみ。これがまずまずのオーディエンス録音でピッチの狂いなどもあったことから、一部のマニアにしか評価されなかったというもの。75年のイギリスやヨーロッパ・ツアー自体は音源がトレーダー間に出回っていましたが、先の紙ジャケCDの件が証明したように、どれも音質が今一つなものばかり。そんな中で今回リリースされる11月3日のシュツッドガルト公演ですが、実は75年ヨーロッパ・ツアーの中では別格の高音質を誇るオーディエンス録音として以前から存在していたのです。モノラル録音ながらも、はっきり言って7日のルートヴィヒスハーフェンよりもはるかに高音質であり、なぜこれほどまでのクオリティを誇る音源が今までリリースされてこなかったのか不思議なほど。演奏は驚くほどオンなバランスで捉えられており、中でもキースの「踏みまくり」バスドラを始めとした彼のドラムの音が生々しく捉えられているという、フー・マニアにはたまらない録音状態。それに負けじと、全編を通して素晴らしい歌声を聞かせる絶好調のロジャーの存在感も絶妙なバランスで捉えられている。このツアーから、ザ・フーのお抱えエンジニアであるボブ・プリデンによってステージ上に積み上げられたスピーカーの一部をロジャーのボーカル・モニターに転用するPAシステムを開発。ザ・フー他のメンバーの爆音サウンドに惑わされずに歌い込めるシステムの威力が発揮され「Dreaming From The Waist」以降は文字通りロジャーの熱唱が冴え渡ります。ただし、この日はショー開始直後からシュツッドガルトのオーディエンスが騒がしく、新曲「Squeeze Box」の途中からいよいようるさい。そして「Behind Blue Eyes」が終わるとしびれを切らしたピートが「いいかげん静かにしろ!一分でいいから黙ってみろ!ボトルを投げるのもやめるんだ、これから一個でも投げたら俺は帰るからな!」ときつーく叱っている。もっとも、フーのライブでピートが観客に向かって怒鳴ると言うのはそれほど珍しくない光景なのですが。さすがに効いたのか観客はみるみる大人しくなり、ピートも「よし、ありがとう」とすぐに落ち着きを取り戻しているから面白い。そんなピートの姿を頼もしく感じたのか、以降テーパーの近くでひたすら「ピート・タウンゼント!」と叫び続ける輩は苦笑モノ。そうした観客とのテンションも相まって、この日の短縮「TOMMY」セットの出来は最高。1971年以降は同アルバム単位でのステージ演奏を避けていたフーが映画版の大ヒットを受け、ステージ用にダイジェスト・アレンジでこのツアーから復活。それがどの日の観客を沸かせた訳ですが、この日の「TOMMY」セットを一言で表すなら「強靭」。1969年や70年にあった「TOMMY」の勢いの代わりに、やたらと骨太でストロングな演奏が凄まじい。先のも触れたロジャーの歌は特に壮絶で、「The Acid Queen」のワイルドな歌いっぷりが際立ちます。それに続けて演奏されるべき「Fiddle About」ではキースの酔いが回ってしまったのか、彼が危うい調子で歌っています。それでもなお他の三人によって演奏が一切乱れないのがこの日らしい。また「TOMMY」セットでは「I’m Free」終了後でテープをかけ替えたことから「Tommy's Holiday Camp」の冒頭が欠損してしまったのですが、その補填として、ここでは敢えてプロショット映像でおなじみ11月20日のヒューストン公演の音声を使用。もちろん別公演からの補填となってしまう訳ですが、それは他のヨーロッパやイギリスの音源の音質が劣っていたからに他ならない。しかし、その編集が間違っていないことは、この仕上がりを聞いてもらえれば解るかと。極めてなめらかにつながっており、パッと聞いた感じでは気付かないほど自然な仕上がりでアジャストされているのです。ライブ後半の相変わらず強靭な演奏が連発。「Summertime Blues」になると今度はジョンが観客の騒ぎを気に入らなかったようで、同曲の台詞パートで何と「fuck the whistle」と替え歌して抗議しています。いつも無表情に激烈ベースを弾くジョンがそうした感情を露わにするという珍しい場面でした。また「Bargain」は「BY NUMBERS」ツアーとしては75年だけのレパートリーでしたが、これまた71年の頃から進化した非常に強靭な演奏が圧巻。「TOMMY」セット以上にザ・フー全員が一丸となった最高の演奏が繰り広げられています。そして今回のリリースに当たってはマスター・カセットから収録(おかげでピッチは始めから正確でした)し、ヨーロッパ75のベスト・レコーディングをベストな状態で収録。これまでまともなタイトルが存在しなかった時期、遂に現れた文句なしの決定版アイテム。素晴らしい音質で名演をじっくりと味わってください。75ヨーロッパを代表する絶品タイトルがここに登場!
Live at Messehalle, Stuttgart, Germany 3rd November 1975 PERFECT SOUND(from Original Masters)
Disc 1 (56:55)
1. Substitute 2. I Can't Explain 3. Squeeze Box 4. Baba O'Riley 5. Behind Blue Eyes 6. Dreaming From The Waist 7. Boris The Spider 8. Amazing Journey 9. Sparks 10. The Acid Queen 11. Fiddle About 12. Pinball Wizard 13. I'm Free
14. Tommy's Holiday Camp 15. We're Not Gonna Take It
Disc 2 (36:34)
1. Summertime Blues 2. Bargain 3. My Generation 4. Naked Eye 5. Join Together 6. Won't Get Fooled Again 7. 5.15