キャリア50周年を祝うジャパンツアーでも、たった一夜だけ実現したアコースティック・ナイト。その極上ライヴアルバムが登場です。特別な一夜となったのは「2019年1月24日:神田明神ホール」公演。そのフル・オーディエンス録音です。今週はエレクトリック・ショウの大名盤『OSAKA 2019』も同時リリースとなりますので、まずは日程で整理しておきましょう。
・1月21日:中野サンプラザ・1月22日:名古屋ダイヤモンドホール・1月23日:心斎橋BIGCAT『OSAKA 2019』・1月24日:神田明神ホール 【本作】
以上、全4公演。64歳を迎えたウリに移動込みで4日連続というのはちょっと大胆にも思えましたが、無事に完遂。本作の神田公演は、その最終日にあたるコンサートでした。特別すぎるショウを記録した本作は、サウンドも特別。録音家本人から譲られた本作だけのオリジナル・マスターなのですが、アコースティックの繊細な鳴りがとにかく美しい。神社境内というシチュエーションはいかにもスピリチュアルなウリ好みですし、アコースティックにもぴったり。もちろん、ボワボワと遠い音では台無しですが、本作はむしろ逆。ポジションはPAの直近だったそうで、会場鳴りは後頭部の後ろに広がりつつも芯はドストレートに間近。その芯は実に図太く、逞しく、ささやかなディテールに至るまで鮮やか。荘厳でありながら華美ではなく、素朴でありながら流麗。そんなアコースティックの調べを全身で感じられる美録音なのです。そして、そのサウンドで描かれるショウこそが素晴らしい。冒頭25分はいきなりウリの独演会となる「Awakening The Dragon」「Passage To India」の2連発。この日はクラシックギター音色の8弦スカイギター“SUNSET SKY”を使用しており、その美しい鳴りをたっぷりと見せつけるよう。しかも、鳴りだけでなく紡がれる旋律が素晴らしすぎる。フラメンコギター的なカッティングまで飛び出し、幻想的でありつつ、熱いパッションが迸る。ロック的ではないものの、この強烈なビート感は「アコースティック=単調」とは真逆の世界。浮世離れしたイメージのあるウリですが、その根っこにはストレートな激情の発露がある。だからこそロック・ファンの心を捕らえて放さない……そんな事にまで改めて気付かされる名演なのです。3曲目「Mediterranean Sundance」からはバンドも参加し、ステージはさらに熱気を帯びる。ただし、バンドとは言ってもドラムレス。ギター3本+ベース1本という構成です。そのスリリングな事と言ったら! 「Mediterranean Sundance」はアル・ディ・メオラのレパートリーですが、フラメンコギターの偉人パコ・デ・ルシアや技巧派ジョン・マクラフリンと共演した超絶トリオを彷彿とさせるアンサンブルが凄い。そして、そのテンションのまま「Fire Wind」「They Need A Million」といったオリジナル(どちらもこの日だけ!)まで演奏されていくのです。ここで気付かされるのは、ヴォーカルまで凄い。もちろん、ウリも歌いますが、メインはむしろギターのニクラス・タールマンと、ベースのサイモン・フォスター。エレクトリックな他公演ではフィル・Xが見事でしたが、この2人もめちゃくちゃ巧く、3声コーラスも美しく決まる。しかも、続く「Don't Tell The Wind」「Starlight」では、マイケル・フレクシグまで登場! ぶ厚いコーラスの中を、あの伝説の歌声が突き抜ける。エレクトリック日は荒れも感じましたが、アコースティックのせいか、この日はかつてを思い起こさせるほどの美声。ウリのショウですからギター目当てなのは当然なのですが、ここまで見事なヴォーカリゼーションまで浴びられるとは、正直予想外でした。ゲストと言えば、忘れてはいけないのがウリの愛娘アカーシャ。他公演でキーボードを務めたコーヴィン・バーンは別の仕事とかで先に抜け、代わって彼女が鍵盤を担当しているのです。10年ほど前の来日でもコーラスで出てきましたが、あの頃はまだ幼女。あの彼女が母親似の美しい女性に成長し、しかも演奏にまで参加するとは……。あくまでゲストであり、圧倒的な技法を見せつけるわけでありませんが、彼女の存在自体が会場を沸かせ、熱気が演奏にフィードバックしていく。そんな歓喜はライヴアルバム本作でもじっかりと感じられるのです。そして、ショウは目玉のSCORPIONSラッシュ。メインを歌うニクラスの歌がとにかく巧い。アコースティックのアンサンブルに繊細な歌声が映えまくる。当初参加予定だったドゥギー・ホワイトだったらパワー押しになっていたかも知れないと思うと、むしろキャンセルしてくれて良かった(失礼!)とさえ感じる美しさです。そして、この蠍団パートでは「荒城の月」も登場。ここでは日本語で歌ってくれ、観客の大合唱へと続く。40周年となる『TOKYO TAPES』の世界が一気に甦るのです。ジミヘンの「All Along The Watchtower」でセットを締め、アンコールはこの日だけのビートルズ・カバー「Yesterday」と「Send Me An Angel」。「Yesterday」をメインで歌うのはサイモン。彼もまた巧いのなんの。伸びに伸び、会場に響き渡る歌声の美しく、力強いこと……。今回の来日ではフィル・Xやニクラスも意外な収穫でしたが、実はサイモンが一番巧い!?かも知れません。そして、フレクシグも再登場しての「Send Me An Angel」で大団円を迎えるのです。お楽しみの特別公演かと思いきや、ギターもヴォーカルも圧倒的なまでの美。オマケどころではない美世界を繰り広げたアコースティック・ナイトを素晴らしいサウンドで完全収録した1本です。
Live at Kanda Myoujin Hall, Tokyo, Japan 24th January 2019 TRULY PERFECT SOUND(from Original Masters)
Disc 1 (60:28)
1. Intro 2. Awakening The Dragon 3. Passage To India 4. Mediterranean Sundance 5. Fire Wind 6. They Need A Million 7. Don't Tell The Wind
Disc 2 (63:07)
1. MC 2. Starlight 3. We'll Burn The Sky 4. In Trance 5. The Sails Of Charon 6. Kojo No Tsuki 7. All Along The Watchtower 8. Yesterday 9. Send Me An Angel
Uli Jon Roth - Guitar, Vocals Niklas Turmann - Guitar, Vocals David Kloskinski - Guitar Simon Foster - Bass, Vocals Michael Flexig - Vocals Akasha Dawn Roth - keyboards