昨年、他界した英国ロックの重鎮ジョン・ハイズマン。彼を偲ぶ特別公演の極上オリジナル録音が登場です。ハイズマンが亡くなったのは2018年6月12日のこと。COLOSSEUMの盟友クレム・クレムソン&マーク・クラークと最後のバンドJCMを立ち上げてツアーを行っておりましたが、脳腫瘍のために入院。手術の甲斐もなく、帰らぬ人となりました。この4月からJCMとしてのツアー“IN MEMORY OF JON HISEMAN”も発表されていますが、本作はその前に行われた特別公演。「2019年2月2日ロンドン」で行われたトリビュート・コンサートです。このショウは大きく5つで構成。ハイズマンの娘アン・グレーシーのソロ、妻バーバラ・トンプソンのPARAPHERNALIA、JCM、セッションのVARIATIONS、COLOSSEUMのステージが行われました。本作は、そのうちアンとPARAPHERNALIA以外の3ステージを記録した2枚組オーディエンス録音です。まずは、ショウと本作の構成を整理してみましょう。
・ANA GRACEY・BARBARA THOMPSON’S PARAPHERNALIA・【ディスク1】JCM・【ディスク1】VARIATIONS(クレムソン)・【ディスク2】COLOSSEUM
……と、このようになっています。アンとバーバラのステージは著名人の参加がなかったために録音が見送られたわけですが、肝心のJCMやVARIATIONS、COLOSSEUMのステージはたっぷりと楽しめるわけです。そんな本作は、サウンドも極上。骨太で肉厚な芯がグイグイと目の前に迫り、ディテールも超鮮明。その鮮やかさは「まるでサウンドボード」と呼べるものの、ヘッドフォンで耳を澄ますと気づくレベルの会場音響が美しく彩り、むしろ「リハーサル・ルームに同席したような感覚」と言った方が相応しいかも知れない。そんな高音質と密室感に溢れる名録音なのです。それだけのサウンドになったのも、実は当然。当店では“英国の巨匠”でお馴染みの名手による録音なのです。しかも、現場となった伝統会場“シェパーズ・ブッシュ・エンパイア”はまさに巨匠の庭。数々の名作を生み出してきたわけですが、本作をご紹介するに当たって避けて通れないのはCOLOSSEUMの『THE LAST CONCERT: SHEPHERDS BUSH EMPIRE 2015』でしょう。タイトル通り、COLOSSEUM最後のショウを極上サウンドで味わわせてくれた名盤でしたが、本作はその続編でもあるわけです。
【ディスク1:JCM】
そんなサウンドで描かれるショウは、ハイズマンの軌跡を祝福するよう。本作は彼の息子マーカスと妻バーバラによるスピーチで幕を開け、かのピート・ブラウンの紹介に導かれてJCMが登場。バンド名はジョン・クレム・マークの頭文字だったわけですが、ハイズマンの代わりにスツールに座るのはラルフ・サルミンズ。THE WATERBOYSのドラマーですが、他にもポール・マッカートニーやヴァン・モリソン、アレサ・フランクリン、エルトン・ジョン、ジェイムズ・ブラウン等々、錚々たる超大物との共演でも知られる名手。彼は“IN MEMORY OF JON HISEMAN”にも参加する事になっており、そのドラミングは手数も幅広さも素晴らしい。もちろん、ハイズマンの代わりになれる人間などいないわけですが……。セットは遺作『HEROES』の収録曲ばかり。そもそも『HEROES』はハイズマン縁の名曲を復刻したアルバムでもあったわけで、それがそのまま栄光のキャリアへのトリビュートとなり得る。「Yeah Yeah Yeah」以外の全曲がほぼアルバム通りの曲順で披露され、そこにボーナストラックだった「Grease The Wheels」「The Inquisition」が差し込まれる。ほとんどの曲は新トリオで演奏されますが、最後の2曲「Rivers」「The Inquisition」では、元COLOSSEUM IIのドン・エイリーも参加しています。
【ディスク1:VARIATIONS】
JCMに続くのは、クレムソン&エイリーがTHE NATIONAL YOUTH JAZZ ORCHESTRAとも共演するセッション“VARIATIONS”。ここでの主役は、実は演奏に参加しないアンドルー・ロイド・ウェバー。ミュージカル『ジーザス・クライスト・スーパースター』『キャッツ』『オペラ座の怪人』でも有名な大作曲家ですが、彼の1978年作『VARIATIONS』には、ハイズマンやバーバラの他、エイリー、ゲイリー・ムーア、フィル・コリンズ、ロッド・アージェント等、錚々たる顔ぶれが参加していました。このセクションでは、まずウェバーがビデオ・メッセージで登場し、ハイズマンの偉業を賞賛。そして、『VARIATIONS』に収録されていた「Theme (Paganini Caprice In A Minor No. 24) And Variations 1-4」を演奏するのです。ロック/ジャズ的な演奏の面白さというよりは、ハイズマンの多彩極まるキャリアの幅を感じるセッションです。
【ディスク2:COLOSSEUM】
そして、最後はいよいよ本命のCOLOSSEUM。ただし、再結成というよりはこの日だけの特別編成。クレムソン&クラークの他、ジェイムス・リザーランド、トニー・リーヴスといった元メンバー、息子のビリー・トンプソン、ドン・エイリー、GENTLE GIANTのマルコム・モルティモアなど、総勢11人が演奏。彼らをバックにしてクリス・ファーロウ、アン・グレーシー、HAMBURG BLUES BANDのガート・ラングもヴォーカルで参加します。ショウは初期の代表曲「Elegy」「Walking In The Park」「Theme From An Imaginary Western」を軸としつつ、最終作『TIME ON OUR SIDE』に収録された「Morning Story」「Blues to Music」も披露。そこにTHE BLUESBREAKERSの「No Reply」やスタンダード「Stormy Monday Blues」といったブルースカバーも織り交ぜられます。1曲1曲にハイズマンのキャリアが脳裏に甦るのですが、極めつけは10分以上に及ぶドラムソロ。苛烈にして鮮やかなソロを叩きまくっているのはハイズマン本人。実はこのとき、会場には1994年ケルン公演のライヴ映像が流されており、そのラストでは間髪入れず「Lost Angeles」の熱い生演奏が入り、会場は沸きに沸く。その凄まじくもカラフルなドラミングに失ったものの大きさを実感しつつ、ハイズマンの音楽が受け継がれていく瞬間が感動的でもあるのです。最後に、余談をもう1つ。先述の通り、本作はCOLOSSEUMの最終作『THE LAST CONCERT』の続編でもあります。しかし、ぜひご紹介しておきたい傑作がもう1本ある。それはJCMの名作『MILTON KEYNES 2018(Uxbridge 829)』。会場こそ違いますが、こちらも“英国の巨匠”の作であり、ハイズマン最後のバンドの熱演を記録したライヴアルバムなのです。しかも、JCMのショウはハイズマンのキャリア総決算という色合いが濃厚。彼がいつ脳腫瘍を知ったのかは断言しかねるものの、自らの手で締めくくるような熱演ぶりがあまりにも胸に迫る。COLOSSEUMの『THE LAST CONCERT』、JCMの『MILTON KEYNES 2018』、そして本作。ぜひ、三部作として味わって頂きたいのです。ハイズマン縁のミュージシャン達による、素晴らしい追悼公演。その現場に極上サウンドで居合わせられるライヴアルバムです。本作だけでも2つとない名作であり、三部作でハイズマンの歩みを味わうとさらに深い。英国ロックの重鎮を愛したすべての方に触れていただきたいメモリアルな大傑作です。
Live at Shepherds Bush Empire, London, UK 2nd February 2019 TRULY PERFECT SOUND(from Original Masters)
Disc 1(64:27)
1. Opening Speech by Marcus Hiseman 2. Barbara Thompson Speech JCM 3. Pete Brown introduction to JCM 4. JCM Tune Up 5. The Kettle 6. Strangeher 7. Weird Of Hermiston 8. Grease The Wheels 9. Four Day Creep 10. Rivers (with Don Airey) 11. The Inquisition (with Don Airey)
VARIATIONS 12. Andrew Lloyd Webber Video Screen Speech 13. Variations Tune Up 14. Variations (Theme and Variations 1-4 with Don Airey and Rachel Lander)
Disc 2(73:08)
COLOSSEUM 1. Introduction and Tune Up 2. Morning Story (with Pete Brown) 3. Clem Clempson Introduction 4. No Reply (with Gert Lange) 5. Elegy (with James Litherland) 6. Blues to Music (with Chris Farlowe and Ana Gracey) 7. Walking In The Park (with Chris Farlowe)
8. Theme From An Imaginary Western (with Chris Farlowe and Mark Clarke) 9. Jon Hiseman Drum Solo (Cologne 1994 Video Screen) 10. Lost Angeles (with Chris Farlowe) 11. Stormy Monday Blues (with Chris Farlowe and Gert Lange)
JCM Clem Clempson - Guitar, Vocals Mark Clarke - Bass, Vocals Ralph Salmins - Drums Don Airey - Keyboards (tracks 10 & 11)
VARIATIONS Clem Clempson - Guitar Don Airey - Keyboards Rachel Lander - Cello Phil Mulford - Bass Drums - Alex Temple Heald The National Youth Jazz Orchestra
COLOSSEUM Clem Clempson - Guitar, Vocals Mark Clarke - Bass, Vocals (tracks 5-8,10-11) Malcolm Mortimore - Drums (tracks 5-8, 10-11), Percussion (track 4) James Litherland - Lead Vocal, Guitar, Harmonica (track 5, 7, 11) Tony Reeves - Bass (tracks 4 and 5)
Tom Ridout - Saxophone (tracks 5-8,10-11) Dave Moore - Keyboards (tracks 5-8, 10-11) Don Airey - Keyboards (track 11) Alex Temple-Heald - Drums (track 2 and 4) Billy Thompson - Violin (track 11) Phil Mulford - Bass (track 2) Chris Farlowe, Ana Gracey, Gert Lange - Lead Voc