解散の危機を乗り越えて日本に戻ってきた2003年のMETALLICA。その現場を記録した傑作ライヴアルバムが登場です。そんな本作に収められているのは「2003年11月13日:大阪城ホール」公演。その極上オーディエンス録音です。復活後の彼らと言えばlivemetallica.comの公式ダウンロードが一般化したわけですが、2003年はその設立前。まだアンダーグラウンド記録が重要だった時代のライヴアルバムです。まずは、当時最長だった5年半のブランクを超えて再訪した日程の中でショウのポジションを確かめてみましょう。
・11月6日+7日:国立代々木競技場・11月9日:真駒内アイスアリーナ・11月11日:さいたまスーパーアリー・11月13日:大阪城ホール 【本作】・11月14日:名古屋レインボーホール以上、全6公演。5年半ぶりにも関わらず各地の巨大会場を巡業。本作の大阪公演は、その終盤にあたるコンサートでした。そんなショウを記録した本作は、なんともクリアでリアルな極上のオーディエンス録音。サウンドボードと間違えるようなド密着タイプでこそないのですが、逆にクリアさは空間を挟んでの録音というのが信じられないほど。真っ直ぐに届く芯はどこまでも逞しく、透き通った空気感によるディテールも超クリア。ギターリフが凄まじい勢いで押し寄せながら、その1つひとつはヴァイヴまで鮮明。もちろん、ヴォーカルは歌詞の一語一語までクッキリとしており、バスドラの連打も1打1打まで質感レベル。音色こそ間違いなくオーディエンス録音ではあるものの、鮮やかさは客録の常識外となる名録音なのです。さらに素晴らしいのがオーディエンス・ノイズ。怪物の復活に歓喜する大歓声が超リアルに刻まれているのですが、それが物凄く端正。「Harvester Of Sorrow」のイントロでは「Hey! hey!」のかけ声が大阪城の巨大空間を揺るがし、曲中でも突如として盛り上がる山脈のようなどよめきも超スペクタクル。それにも関わらず、間近な声援や絶叫はほとんどなく、演奏や歌声をまったく邪魔しない。無数のかけ声や叫びが微粒子となった集まり、それが大きなうねりとなる。その巨大で繊細な塊をスラッシュ・メタルがねじ伏せ、切り刻む……。このスケール感とサウンド・クオリティの両立は奇跡的。いかにlivemetallica.comがサウンドボード音源を排出しようとも、このスペクタクルはオーディエンス録音でなければ、決して味わえない。それも超極上のやつでしか。本作は、そんな客録の醍醐味を存分に味わわせてくれる名録音なのです。そんなサウンドで描かれるのは、復活の狼煙を上げた怪物METALLICAの大熱演。当時は映画『SOME KIND OF MONSTER』にも描かれた危機を乗り越えての復活だったわけですが、それだけでもなかった。彼らは『BLACK ALBUM』の歴史的代ヒット以降、ひたすらグルーヴとミッドテンポの重量感を追究。一時はどこまで冗談だったのか分かりませんが「ロックタリカに改名しようか」とまでのたまう時代が長く長く続きました。しかし、それもこの2003年を契機に一転し、“速いメタル”に回帰。アグレッションと爆走感覚を取り戻したメタル・ショウをたっぷりとブチまけてくれたのです。その姿勢はセットからも明らか。あれほど自画自賛していた『LOAD』『RELOAD』ナンバーを完全排除(他公演では「Fuel」のみ取り上げられました)し、『BLACK ALBUM』以前+新曲で押しまくる。その清々しいまでの疾走感がえらく心地良いのです。その『ST. ANGER』ナンバーも貴重。METALLICAはオール・キャリアを肯定するタイプのバンドだけに現在でも封印はしないものの、それでも演奏するのは極々希。しかし、本作ではリリース直後だけに「Frantic」「The Unnamed Feeling」「St. Anger」の3曲を披露しているのです。中でも特に貴重なのは「The Unnamed Feeling」。この曲だけは後年の復活もなく、当時でも十数公演のみというレア・ナンバーです。そして、それ以上となるのがRAMONESのカバー「Commando」。それこそ現在に至るまで片手で数えられるほどしか演奏していない激レア・ナンバーであり、もちろん日本ではこの日のみ。それを極上サウンドで楽しめるわけです。また、セット以外にも本作にはリアルな聴きどころかがたっぷり。例えば、序盤の「Harvester Of Sorrow」。超重サウンドがミッドでグイグイと押してゆくのですが、その途中で突然PAがぶっ飛ぶ。ギターが完全に死に、かろうじてベースのうねりとドラミングで曲が進む。30秒弱で回復するのですが、METALLICA自身は何事もなかったように動じない一方、会場は突然の出来事に騒然となる。そのムードも超リアルに体験できるのです。トラブルとは逆に嬉しいサプライズなのが終演後。3度のアンコールに応える熱演も「Breadfan」で終わるのですが、それでも盛り上がり続ける観客にメンバーは4度目の登場。さすがに曲は演奏しませんが、1人ひとりがマイクを執って挨拶するのです。これこそ、5年半ぶりの現場。観客たちはMETALLICAの再訪を待ちわび、そのブランクをものともしない歓待に感激したメンバーの「アリガトウ」「すぐ戻ってくるぞ!」の言葉も熱い。本作は、その一言一言までもが超クリアに味わえる極上録音なのです。現在は、本作の現場から16年。前回の来日は2013年であり、本作を超える6年の月日が経ってしまいました。しかも、今に至るまで次の来日はメドも立っていない。SLAYERとは違って引退を仄めかしているわけでもないので、また来てくれると信じていますが、それにしても長く長く待ち続けています。だからこそ、本作から流れ出る歓喜に次回の来日を想像せずにはいらない。そう、本作は単にライヴアルバムの大傑作なだけでなく、今だからこそ胸に迫る1本なのです。
Live at Osaka-Jo Hall, Osaka, Japan 13th November 2003 TRULY PERFECT SOUND(from Original Masters)
Disc 1(67:46)
1. Ecstasy Of Gold 2. Blackened 3. The Four Horsemen 4. Harvester Of Sorrow ★PAが飛ぶ(2:15-2:41) 5. Sanitarium (Sanitarium) 6. Robert Trujillo Bass Solo 7. For Whom The Bell Tolls 8. Frantic 9. Sad But True 10. The Unnamed Feeling 11. Seek And Destroy
Disc 2(70:35)
1. One 2. Battery Encore 1 3. St. Anger 4. Nothing Else Matters 5. Master Of Puppets Encore 2 6. Creeping Death 7. Enter Sandman Encore 3 8. Commando ラモーンズカバー 9. Breadfan
James Hetfield - Guitar, Vocal Lars Ulrich - Drums Kirk Hammett - Guitar Robert Trujillo - Bass