デビュー40周年の節目に来日を果たしたリッキー・リー・ジョーンズ。その最新オリジナル録音が登場です。今回の来日では東京・大阪で1公演ずつ行われましたが、本作に収められているのは、そのうち「2019年5月17日オーチャード・ホール公演」。その極上オーディエンス録音です。リッキーと言えば、近年ではクラブ規模のショウが多かったのですが、今回は違う。15年前に同会場で行われて以来のホール公演となりました。それだけに注目度も高かったショウを記録した本作は、まさに絶品のオーディエンス録音。何よりも素晴らしいのは、クリアさと品格さえ漂わせる鳴りを兼ね備えた美のバランス。演奏や歌声の芯がクリスタル・クリアな空気感を真っ直ぐ貫き、ホール鳴りも仄かに立ち上るオーラのように輝いている。今回はシンプルなトリオ編成だったのですが、その1音1音が立ち上がりから消音の刹那まで事細かに感じ取れ、綺麗に分離しているおかげで絡みも立体的。その上で、オーチャード・ホールならではの鳴りが艶と美を引き立てているのです。しかも、極めて端正。演奏・歌声が端麗なのは当然として、観客の存在感まで美しいから恐れ入る。もちろん、リッキーのショウがバカ騒ぎになるはずもないのですが、曲間では盛大な喝采が沸き上がり、人気曲ではビシッと揃った手拍子の波が起こる。その拍手の1粒1粒まで異様にクリアで、遠くの小さな1打まで鮮明。それが遠近感を描いており、見事な会場の空間感覚まで伝えてくれるのです。そのサウンドの要となっているのは、録音家の腕とポジションでしょう。本作の記録家は多産家ではないものの、一発必中で名作を手掛けてきた人物。近年の作品を挙げるならジェフ・ベック『YOKOHAMA 2017』やスティングの『BUDOKAN 2017 2ND NIGHT』といった大傑作が代表的。しかも、今回はポジションも特等。1階センターの2列目なのです。だからこそ、しっかりとした芯を真正面から受けながら、後ろから背負い込むような鳴りが間に入ってこない。そんな美音で描かれるショウがまた美しい。セットの軸になっているのは40周年を迎えたデビュー作『RICKIE LEE JONES』。アルバム全11曲の約半分となる6曲が披露され、終盤には2ndアルバムの「Living It Up」「We Belong Together」「Pirates (So Long Lonely Avenue)」も畳みかけられる。初期の名曲群をたっぷりと聴かせてくれるわけですが、それだけでもない。『FLYING COWBOYS』の「The Horses」「Love Is Gonna Bring Us Back Alive」や近作の「Lap Dog」「I Wasn't Here」、さらには最新カバーアルバム『KICKS』からも「Bad Company」「Lonely People」が散りばめられるのです(BAD COMPANYのカバーは意外でしたが、ちょっとハスキーでセクシーなハイノートが見事にハマっています。もしロバート・プラントがカバーしてもこんな感じなるのでしょうか)。「満遍なく」とは言えないものの、各時代のハイライトとなる名曲で長いキャリアをさらっと自然体に総括するショウなのです。とにかく、美しい。64歳にして今なお美しい歌声もさることながら、シンプルなトリオのアンサンブルは息を飲むムードを醸し、15年ぶりとなるオーチャード・ホールを優しく、たっぷりと満たしていく。その美の空間に全身を包まれつつ、センター2列目という特等席のクリアさを存分に味わえる大傑作です。クラブの密室感とはまたひと味違ったフルショウを極上サウンドで楽しめる2枚組。
Live at Orchard Hall, Tokyo, Japan 17th May 2019 TRULY PERFECT SOUND(from Original Masters)
Disc 1 (52:12)
1. Intro 2. Weasel and the White Boys Cool 3. Young Blood 4. Easy Money 5. The Last Chance Texaco 6. Lap Dog 7. Bad Company 8. Lonely People 9. Chuck E's in Love
Disc 2 (43:12)
1. I Wasn't Here 2. The Horses 3. Living It Up 4. We Belong Together 5. Pirates (So Long Lonely Avenue) 6. On Saturday Afternoons in 1963 7. Love Is Gonna Bring Us Back Alive
Rickie Lee Jones - Vocal, Guitar, Piano Cliff Hines - Guitar Mike Dillon - Percussion, Vibraphone, Drums