“モービル・フィディリティ”と並んでカリスマ的人気を誇る高音質CDレーベル“DCC Compact Classics”。その『GZS-1071』から復刻されたエルトン・ジョン最大のヒット作『GREATEST HITS』がリリース決定です。
【カリスマ・エンジニアによる高音質CDシリーズ“DCC”】
90年代から2000年代にかけて様々に登場した高音質CD。しかし、ひと口に「高音質CD」と言っても手法は多種多様。各社が競い合うようにリリースするようになって優劣や人気にも差が出るようになりました。種々雑多な手法を大きく分けると3つ。1つは「素材系」とでも呼ぶべきもの。通常CDは信号を記録したアルミ蒸着膜をポリオカーボネイトで挟み込む構造となっていますが、その素材を反射率の高い金属膜や透明度の高い樹脂に代え、読み取りエラーを減らすもの。「SHM-CD」や「Blu-spec CD」があたります(ただし、これは記録されたデータ自体は通常のものと変わらず、プレイヤー側の読み取りチューニングによっては逆にエラーが増える恐れもあるとも言われています)。2つめは言わば「デジタル技術系」。CD規格は16ビットなのですが、高音質のデジタル・リマスタリングはアナログ・マスターから20ビット以上の高音質でデジタル化し、16ビットに変換します。その変換の際に新技術でデジタル劣化を抑えるタイプのこと。「SBM CD」「HDCD」等が代表的です。そして、3つめはさしずめ「エンジニア系」。レコード会社からアルバムの大元マスター・テープを借り受けてデジタル化していくもので、そのテープ再生環境や行程に徹底的にこだわり抜く。もちろん、メーカーそれぞれに独自のノウハウがあり、仕上げにも細心の注意が払われ「マスターテープの音そのもの」の再現に注力される。これの代表格は“Mobile Fidelity”や“DCC Compact Classics”なのです。そして、このタイプで重要なのは「誰がリマスタリングしたか」。デジタル技術や素材による音質向上ではないため、その行程1つひとつが職人の技量やセンスに左右され、誰がやっても同じとはならない。その中で人気のエンジニアも登場し、巨匠ボブ・ラディックやRhinoレーベルのビル・イングロット等、数々のエンジニアがカリスマとなった。彼らが手掛けた名盤は数ある高音質CDの中でも格別の人気を誇り、物によっては中古でも数万円で取引されているほどなのです。そして、その1人がスティーヴ・ホフマン。マスタリング機材に真空管を採用したアナログ・サウンドはマジックとさえ呼ばれ、“DCC Compact Classics”のブランドを世界に広めたカリスマなのです。
【編集盤だからこそエンジニアの才気が光る『GREATEST HITS』】
そして、本作はそんなホフマン・サウンドで甦った編集盤の歴史的名作『GREATEST HITS』。60年代後期から音楽シーンにはオリジナル・アルバム至上主義が定着し、通常「名盤」として語り継がれるのもオリジナル・アルバムです。しかし、何事にも例外は付きもの。マディ・ウォーターズやイーグルス、QUEENのように編集盤が大ヒットして代表作の地位を確立したアーティストもいる。エルトンの『GREATEST HITS』もそんな歴史的な1枚であり、高音質CD化が実現したのです。本作は編集盤ゆえに各曲で録音時期やプロダクションが異なるわけですが、だからこそホフマンの意匠が感じられる。現行リマスター盤はバラバラな録音にも関わらず画一的に音圧のかさ上げが行われており、ギンギンとキツいサウンド。その結果、頻繁にオーバーピークも起こり、やや乱暴とも言えるサウンド。レコ社やエンジニアの無意識下に「所詮はベスト盤」の偏見があるんじゃないかと思ってしまうような仕上がりなのです。しかし、職人ホフマンは違う。トータルでは現行リマスター盤に比べると音圧が低めではありますが、だからこそサウンド幅に余裕があり、マスターテープに残された機微がしっかりとCDに移し替えられている。それは冒頭の「Your Song」「Daniel」から明らか。現行リマスター盤では穏やかな曲想を補助するはずのスネアがキツく、ピークは潰れて残響も削られて耳に突き刺さる。しかし、本作は自然な鳴りがしっかりと残され、アンサンブルの中に自然と溶け込み、それでいて1音1音には余韻もある。リマスター盤が曲想を破壊していたのに対し、本来エルトンが狙っていたであろう情感が見事に表現されているのです。さらに強烈なのが「Saturday Night's Alright For Fighting」。前曲「Goodbye Yellow Brick Road」の感動から突然アップに転換するダイナミズムが醍醐味なのですが、現行リマスター盤はこれが台無し。元々の録音もややノイジーではあるのですが、それが増幅されてワイルドを超えて「汚い」。鳴りが極端に削られ、ギザギザな芯だけが突きつけられる。このサウンドにはガッカリどころか苦痛さえ感じる。それに対し、本作は1音1音の鳴りが消音の刹那まで綺麗に残り、“突き出し感”がない。前曲「Goodbye Yellow Brick Road」のエンディングで鳴る壮大なオーケストレーションからエレキへ美しいままに転換する。『GREATEST HITS』がなぜ歴史的名盤となり得たのか、なぜ後発ベスト盤が溢れてもなお復刻され続けるのか。ホフマンはその意味をしっかりと理解し、1曲1曲だけでなく編集の妙味や名盤の気品まで描ききっているのです。デジタル媒体CDとは言え、やはり音楽は人の手と感性の賜。特にアナログ時代に手作りされた作品なら尚のことです。デジタル新技術や素材も素晴らしいですが、最後はマスター・テープ自体の鮮度とエンジニアの“カン”こそが頂点を極める。本作は、そんなカリスマ:スティーヴ・ホフマンの全盛期にデジタル化された希代の大名盤。
Taken from the original DCC Compact Classics CD(GZS-1071) Mastered by Steve Hoffman
1. Your Song 2. Daniel 3. Honky Cat 4. Goodbye Yellow Brick Road 5. Saturday Night's Alright For Fighting 6. Rocket Man (I Think It's Going To Be A Long Long Time) 7. Bennie And The Jets 8. Don't Let The Sun Go Down On Me 9. Border Song 10. Crocodile Rock
Plus 11. Candle In The Wind