全曲BLACK SABBATHナンバーで占められた異形のライヴアルバム『SPEAK OF THE DEVIL』。その大元となる流出サウンドボード・マスターがアップグレードして登場です。
【公式盤の大元となった流出ステレオ・サウンドボード】
『SPEAK OF THE DEVIL』……まさに異形の作品でした。ブラッド・ギルス時代の公式アルバムでありつつ、ソロ・ナンバーは一切なし。すべてがサバスの名曲だけで占められていました。だからと言って、当時のオジーがサバス・ナンバーだけのツアーをしていたわけではありません。当時、ロニー・ジェイムズ・ディオを迎えた本家BLACK SABBATHは『LIVE EVIL』を計画。その動きを知ったオジー側も対抗盤として全曲サバスのライヴアルバムを企画したのです(当初はまだランディが存命中で、乗り気ではなかった彼はバンドを離れることを考え始めたとも言われています)。実際の製作はランディの死後、ブラッドに交代してから実現し、「1982年9月26日+27日ニューヨーク・シティ」の“THE RITZ”で特別公演を開催。その2公演から『SPEAK OF THE DEVIL』が製作されました(ちなみに、リリースは『LIVE EVIL(1982年12月)』に先んじた“1982年11月27日”でした)。本作はその2公演の現場を無修正で伝える大元のステレオ・サウンドボード録音。公式盤ではオジーのヴォーカルが差し替えまくりの修正まみれなのは有名ですが、本作は「真のSPEAK OF THE DEVIL」を2公演丸ごと楽しめるわけです。
【最高峰を更新したアップグレード・サウンド】
しかも、本作はアップグレード盤。大元マスターが流出したのは2013年の事でしたが、そのベスト・マスターを収録した『SPEAK OF THE DEVIL: RITZ 1982 COMPLETE』は衝撃の内容ゆえに瞬く間に完売・廃盤。本作は、かの大名盤を最新・細心リマスタリングで磨き込み、最高峰を更新した決定盤なのです。そのクオリティは究極。実のところ、前回盤も超極上の完全オフィシャル級でしたし、ネット・マスター最大の欠点であった大幅なピッチの狂いも修正されていました。しかし、その鳴りはいかにも流出らしく、生々しさこそ絶大ではあってもやや平板ではありました。しかし、本作は各音域を整理することで1音1音に立体感が感じられ、輪郭もクッキリ。鮮やかに飛び交う3次元サウンドになったのです。そのアップグレードぶりはアンサンブルのすべてで感じ取れますが、一番分かりやすいのはトミー・アルドリッチのドラミング。原音でも左右に思いっきりパンしていましたが、それは右から左へと単に移動する感じ。それに対し、本作はまるでトミー自身とシンクロしているようであり、頭の上下左右あらゆる方向から打音が飛び交うのです。もちろん、流出サウンドボードは2chステレオですし、ミックスは変えられません。つまり、この3次元感覚は大元マスターに宿っていたものであり、1音1音の抜けが格段に良くなった事でしっかりと感じ取れるようになった。そして、その立体感はギターやベース、ド級の密着感を誇るヴォーカルからも感じられる。クリアさとレンジの広さ、そして立体感。大元マスターの可能性を限界まで引き出した究極サウンドなのです。
【真のSOTDと、もう1つのSPOTD】
●真のSPEAK OF THE DEVIL:2日目(ディスク2)そうして生まれ変わったサウンドで描かれるのは「真のSPEAK OF THE DEVIL」と、「もう1つのSPEAK OF THE DEVIL」。前述の通り、本作には丸ごと2公演が収録されているわけですが、公式盤の大元になったのは「2日目(ディスク2)」の方。シャロン・オズボーンはメンバーに対し「失敗しても合成できない」とプレッシャーを掛けていたそうですが、その完成度の高いテイクが2日目だったわけです。しかし、ヴォーカルはまるで違う(苦笑)。公式盤からして枯れ気味のMCやかけ声と、艶やかなメイン・ヴォーカルがあまりにも違っており「絶対、差し替えているはずだ」と長年言われ続けてきましたが、案の定。ただし、その元ヴォーカルの厳しさは想定外。流出マスターが登場した時も「ここまでとは……」と絶句されましたが、その豪快にラフな元声も最高峰クオリティで楽しめてしまいます。もう1つ、実は演奏も公式盤とは部分的に異なっています。楽器ごとの差し替えと言うよりは曲の入れ替え。プロデューサーであるマックス・ノーマンによれば「3曲でサウンドチェック(26日の昼間で音源は出てきていません)のテイクを用いた」とのことですが、「Iron Man」等、演奏でも大きなミスの曲は差し替えられているようです。さらに大きな違いは「Sabbath Bloody Sabbath」。本作は2日間の完全収録ですが、この超名曲はどちらでも演奏していない。ノーマンの言うリハーサル・テイクが公式盤に採用されたわけです。
●もう1つのSPEAK OF THE DEVIL:初日(ディスク1)
話は前後してしまいましたが、初日はオフィシャル盤に採用されなかったライヴ。こちらは演奏もヴォーカルも公式では聴けない「もう1つのSPEAK OF THE DEVIL」なのです。採用されなかったのは、演奏のミス。さすがに名手揃いだけにアンサンブルが崩壊するようなことはありませんが、慣れない曲だらけの初日だけにおっかなびっくりな演奏ぶりであり、細かいところでミスが頻発してしまう。むしろ「翌日にあそこまで上達するのか!」と驚くようなライヴです。とは言え、まったくの駄目ステージでもない。実は、オジーのヴォーカルは初日の方が調子が良い。もちろん、差し替えられた公式盤ほど整ってはいませんが、だからこそのライヴ感が絶品で、オフィシャル盤のように声質ごとコロコロ変わる不自然さもない。70年代には演奏されなかった「The Wizard」、再編サバスでは演奏しなかった「Never Say Die」や歌入りの「Symptom Of The Universe」も本生100%のライヴ・パフォーマンスで楽しめるのです。目論み通り、本家の『LIVE EVIL』を凌駕し、全米でプラチナ・ディスクに輝いた『SPEAK OF THE DEVIL』。しかし、全曲サバスという内容はオジーにとっても不本意であり、再発事業からも度々外されてきました。本作は、そんな異形の名作の「本生」を伝える2枚組なのです。しかも流出マスターの欠点を整えるだけに留まらず、マスターの可能性を最大限に追及したサウンドで描かれる「もう1つのSPEAK OF THE DEVIL」であり、「真のSPEAK OF THE DEVIL」。50年のキャリアでも2晩しかなかった「全曲サバスのソロライヴ」を全部丸ごと無修正で味わえる決定盤。
The Ritz, New York City, New York, USA 26th & 27th September 1982 STEREO SBD(UPGRADE)
Disc 1(63:51) Live at The Ritz, New York City, New York, USA 26th September 1982
1. Intro 2. Symptom Of The Universe 3. Snowblind 4. Black Sabbath 5. Fairies Wear Boots 6. War Pigs 7. The Wizard 8. N.I.B. 9. Sweet Leaf 10. Never Say Die 11. Iron Man 12. Children Of The Grave 13. Paranoid
Disc 2(67:31) Live at the Ritz, New York City, New York, USA 27th September 1982
1. Intro 2. Symptom Of The Universe 3. Snowblind 4. Black Sabbath 5. Fairies Wear Boots 6. War Pigs 7. The Wizard 8. N.I.B. 9. Sweet Leaf 10. Never Say Die 11. Iron Man 12. Children Of The Grave 13. Paranoid
STEREO SOUNDBOARD RECORDING Ozzy Osbourne - Vocals Brad Gillis - Guitars Rudy Sarzo - Bass Tommy Aldridge - Drums