『DREAMBOAT ANNIE』でデビューし、世界に羽ばたこうとしていた1976年のHEART。その超極上ライヴアルバムが登場です。そんな本作が記録されたのは「1976年10月10日ボストン公演」。その超絶級オーディエンス録音です。ウソをつくわけにもいかないので「オーディエンス録音」と書くしかありませんが、本作のクオリティはその言葉から想像されるものとはまったく違う。とんでもない極上サウンドの1枚なのです。そのクオリティが気になるところですが、まずはショウのポジション。HEART初のワールド・ツアーが実現した1976年のスケジュールから振り返ってみましょう。
・1月1日+13日:北米#1(2公演)・4月9日-6月28日:北米#2(13公演)・7月21日-9月4日:北米#3(11公演)・9月24日-11月6日:北米#4(18公演)←★ココ★・11月13日-14日:欧州(5公演)・12月9日:イングルウッド公演 これがHEARTの1976年。前年1975年秋に『DREAMBOAT ANNIE』がリリースされましたが、その直後はショウケース的なギグを数公演行ったのみ。その後、少しずつペースを上げながら全米を巡っており、連日連夜ショウと移動を絶え間なく繰り返すようになったのは「北米#4」あたりから。本作のボストン公演は、その10公演目にあたるコンサートでした。そんなショウで記録された本作は、耳を疑う極上録音。とにかくオンでダイレクト、そして端麗。耳元に流れ込む芯はどこまでも力強く、それに伴って微細部まで超・鮮明。まったく距離感を感じないものの、単にサウンドボード的なだけではない。わずかなホール鳴りが恐ろしくきめ細かく、芯に輝く艶と厚みを与えつつ、まったくディテールを隠さない。実のところ、この録音が初登場したのは2007年なのですが、その際も専門誌から「全編1976年のオーディエンス録音とは思えない超高音質」「この音質は下手なサウンドボードよりも断然素晴らしい」「必聴の価値がある」と激賛。実際、初期HEARTと言えば1975年6月のシアトル公演や1976年8月のシカゴ公演のサウンドボードも残されておりますし、“THE SECOND ENDING”のプロショットも定番。そうしたライン録音の数々と比較しても、この録音の方が断然上なのです。しかも、本作はそんな奇跡録音を最新マスタリングで磨き上げた最高峰更新盤。もちろん、原音の美しさを汚したら元も子もありませんので、そこは最大限に保持。その上で各音域を整理し、メリハリを向上させました。艶やかな美音の中で芯の間近さが一層鮮やかになり、輪郭もクッキリ。ナンシーのギターソロもグッと聴きやすく、美しく鳴っている。元からFMサウンドボードを凌駕するサウンドだったわけですが、本作は「まるでオフィシャル・アルバム」と呼べるほどの鮮やかさと気品を両立しているのです。そんなサウンドで描かれるショウは、貴重にしてひたむきさが眩しい初期HEART。冒頭からして「初めてのボストン公演だ。シアトル“MUSHROOM”レコードのHEART!」のアナウンスが時代感満点ですし、そこから繰り広げられるショウがとにかく素晴らしい。この日はジェフ・ベックの前座だったためにショート・セットで、約45分の持ち時間に若きパッションを濃縮している。アンのフルートとハワード・リースのキーボードが織りなすアンサンブルはJETHRO TULLやFOCUSを想起させ、ZEPの影響が香り立つヴォーカルやギターがパワフルに轟く。セットはデビュー作『DREAMBOAT ANNIE』の半分となる5曲が軸となっているわけですが、中でも耳を惹くのがオープニング。プログレッシヴなインスト曲から「Sing Child」へ雪崩れ込む流れなのですが、この「Sing Child」だけでも途中にフリーキーなギターソロを盛り込んで10分超えの大熱演。1976年と言えば欧州プログレの勢いに陰りが見えてきたころですが、北米ではRUSHの『2112』やKANSASの『LEFTOVERTURE』が一世を風靡していた。そんな時代だからこその大胆さ。開演時には「ジェフ・ベック!」との叫び声も聞こえるのですが、そんな客さえもものの見事にねじ伏せているのです。デビュー作しか出ていないだけに「生演奏版DREAMBOAT ANNIE」かと思いきや、そこに割って入る「Magazine」も聴きどころ。「今度出る新曲」と紹介されてもいますが、その冒頭には『BEBE LE STRANGE』で正式レコーディングされるギターソロ「Silver Wheels」が付せられ、「Crazy On You」のアコギ・イントロへ。そのまま『GREATEST HITS/LIVE』のように「Crazy On You」が炸裂……とはならず、「Magazine」へと入っていくアレンジ。「Crazy On You」自体も最後のハイライトでキチンと演奏されるわけですが、まだまだレパートリーが限られている初期ならではの流れが面白いのです。未だレーベル移籍の裁判も「Barracuda」の大ヒットもなかった1976年のHEART。純粋無垢に突っ走るハードなロックバンドの姿をサウンドボード超えの超極上クオリティで味わわせてくれるライヴアルバムです。もはやHEARTのファンか否かといった次元を超え、70年代ロックそのもの文化遺産となる1枚。
Live at Boston Music Hall, Boston, MA, USA 10th October 1976 ULTIMATE SOUND(UPGRADE)
1. Intro. 2. Instrumental 3. Sing Child 4. Dreamboat Annie 5. Silver Wheels 6. Crazy On You Intro. 7. Magazine 8. White Lightning & Wine 9. Magic Man 10. Crazy On You
Ann Wilson - Vocals, Flute Nancy Wilson - Guitar, Vocals Roger Fisher - Lead Guitar Michael Derosier - Drums Steve Fossen - Bass, Vocals Howard Leese - Keyboards, Guitars, Vocals