
晩年のジミ・ヘンドリックスはクライ・オブ・ラブ・ツアーと言う名の下で多くの名演を生み出してきました。それだけではなく、音源が非常に恵まれているのもジミ晩年ライブの大きな特徴。それを証明するがごとく昨年リリースしてみせたのが極上オーディンス・アルバム「NEW YORK POP FESTIVAL 1970 COMPLETE AUDIENCE RECORDING」でした。他にも音源が恵まれており、そのいくつかはオフィシャルでリリースまでされている。つまりマルチトラック・レコーダーを使って正規に収録されたステージも多く存在しているということ。5月30日に行われたバークレー公演もそんな一日であり、二回行われたステージはどちらもリリースを前提としてマルチトラックにて収録されました。セカンド・ショーに関しては15年以上前にオフィシャルの「LIVE AT BERKELEY」がリリースされていますが、ファースト・ショーに関しては昔から切り売りされてばかりな状態。こちらの回は「Johnny B. Goode」が演奏されたことで非常に有名。同曲が名ライブ編集盤「IN THE WEST」に収録されたことで広く知れ渡ったのですが、その後公開された映画「JIMI PLAYS BERKELEY」も二回のショーの混成でした。結局ファースト・ショー全体のリリースは未だに実現せず。しかしマニアやコレクターズ方面においてファースト・ショーは花形音源となっていて、「THE BERKELEY CONCERTS」がファースト・ショーの全貌を初めて解き明かしてくれました。それに輪をかけて流出マルチトラック音源というインパクトも大きかったかと。その後リリースされた「PROTEST SONGS FROM BERKELEY!」も新たな決定版と呼ばれたもの。もちろんそれらは骨董品であり、今となってはそれぞれに問題を抱えていました。どちらもまずジェネ落ちカセット・コピーを元にしていたというのはもちろんピッチの問題がありレーベル特有のイコライズが施されてしまっていた。おまけにそれのリリースから間もなくしてセカンド・ショーのオフィシャル・リリースが実現してしまい、今となっては価値が半減してしまったというのも事実。そのせいでバークレーの流出マルチ音源自体がマニアの間で話題に上ることもなく、一時は定番中の定番だった名演が見過ごされてしまうという由々しき事態へと陥ってしまいます。そんな状況が一気に解消されたのが2010年代。そもそも元になったバージョンを広めるきっかけとなったのは、一人のコア・トレーダーが所有していた音源でした。ボブ・テリーという名の人物が遺した音源。つまり先に触れたアイテムの元になった音源で彼の所有していたロウジェネレーション・バージョンが一気に広まったのです。それはちょうど今年に入ってマイク・ミラードのマスターが発掘されたのと似た状況でもありました。その中に含まれていたのが今回のバークレー、ファースト・ショー。さすがに大本のロウジェネ・バージョンということもあって、音質は最高。それをジミ鉄壁のトレーダー・ネットワークである「ATM」がレストア。元々マルチトラックで録音された音源のラフミックスだったのですが、それのロウジェネ・バージョンということで音質はいよいよオフィシャル級。これこそがマルチトラック音源というものでしょう。それだではありません、ジミはこの日最初のステージだったというのに、オープニングの「Fire」からしてエンジン全開。ギターだけでなく歌いっぷりも余裕に溢れている。そこから「Johnny B. Goode」のハイパーな演奏に結び付いたのですね。先に触れた映画では激しいアクションと共にこの曲を弾き倒すジミの姿が捉えられていましたが、これら序盤二曲だけでも彼が絶好調であったのだと思い知らされます。当時のジミを奮い立たせていた新曲群の中では「Ezy Rider」が傑作。ジミが途中で音を外して弾いてしまうと、何とビリー・コックスがそれに合わせてしまい、結果として演奏の途中で転調するというスリリングな展開に。そこからミッチ・ミッチェルのドラム・ソロを挟んで曲に戻ると元の調には戻ったものの、今度はギターのチューニングが狂ってしまう。こうしたトラブルをものともせずに駆け抜けたのがこの日のジミらしいところ。
フィナーレの「Voodoo Child (Slight Return)」になるとさらにチューニングの狂いがジミの足をひっぱっており、これらのハプニングこそオフィシャルで完全版がリリースされない原因なのでしょう。ところが、こうしたトラブルをねじ伏せてみせるのだからお見事。とにかく文句のつけようがない音源ですので、今回のリリースに当たっても微調整レベルのアジャストしか加えていません。この回を代表する名演「Johnny B. Goode」ですが、現在CD版「IN THE WEST」や「JIMI HENDRIX EXPERIENCE」ボックスなどでオフィシャルにリリースされています。それらがジミ以下トリオの演奏を丹念に振り分けたミックスとなっていたのに対し、こちらではそこまで極端な分離感はない。むしろラフミックス自然なステレオ感が俄然好ましい。そしてデジタルのテクノロジーにてリマスターやリミックスが施されたそれらと違い、はるかにナチュラルでウォーミーな音質も魅力的。中でもビリーのベースのふくよかな存在感は現在の断片的なオフィシャル・リリースのミックスとは比べ物にならない聞き心地の良さ。むしろ生のままのアナログライクな音の魅力が全開なのです。それでいて間違いなく演奏も音質も極上。こうなるとジミヘン・マニアだけでなく全ロックファンに胸を張って推したい極めつけのマルチトラック・サウンドボード・アルバム!
Berkeley Community Theatre, Berkeley, CA, USA 30th May 1970 First Show STEREO SBD
Disc 1 (43:26) 1 Intro 2 Fire 3 Johnny B. Goode 4 Hear My Train A Comin’ 5 Foxy Lady 6 Machine Gun
Disc 2 (48:27) 1 Freedom 2 Red House 3 Message to Love 4 Ezy Ryder 5 Star Spangled Banner 6 Purple Haze 7 Voodoo Child (slight return) Jimi Hendrix - vocals, guitar Billy Cox - bass, vocals Mitch Mitchell - drums STEREO MULTITRACK SOUNDBOARD RECORDING