ライヴアルバム『RUNNING ON EMPTY』が天文学的成功を収め、一大全盛の真っ直中にいた1978年のジャクソン・ブラウン。その現場を伝えるミラード・コレクションが登場です。マイク・ミラードと言えば、説明不要な伝説中の伝説テーパー。もはや録音史の象徴ともなっている偉人ですが、本作に収められているのは彼が記録した「1978年6月8日ロングビーチ公演」。その超絶級オーディエンス録音です。本作最大のポイントは、大名盤『RUNNING ON EMPTY』さえ凌駕しかねない凄絶なまでのサウンドにあるわけですが、まずはショウのポジション。70年代最後の大規模ツアーとなった“RUNNING ON EMPTY TOUR”の全体像から振り返ってみましょう。1977年《12月6日『RUNNING ON EMPTY』発売》・12月31日:イングルウッド公演 1978年・1月14日-29日:北米#1(9公演)・2月22日:ナッシュヴィル公演・3月18日-4月21日:北米#2(21公演)・6月8日-11日:北米#3(3公演) ←★ココ★
・8月5日-9月2日:北米#4(15公演)これが『RUNNING ON EMPTY』リリース以後の歩み。「北米#1」「北米#2」「北米#4」の3レッグをメインとしつつ、合間にも単発的なショウで繋ぐスタイルでした。その中で「北米#3」は“MOUNTAIN AIRE 1978”をメインに据えた3連続公演のミニ・セクション。本作のロングビーチ公演は、その中でウォームアップ的な初日にあたるコンサートでした。そんなショウで記録された本作は、まさに輝きの美録音。ミラードの1stジェネ・カセットからダイレクトにデジタル化されているのですが、その美しさには呼吸が止まる。ヘッドフォンで耳を澄ますまでもなくホール鳴りを拾ったオーディエンス録音には違いないものの、機微までキリッとしたディテールの細やかさ、距離を感じない芯の力強さには大気の存在を忘れる。顕微鏡的に分析すれば、鳴り成分もあるわけですが、その空気感感が曇らせるどころかクリアさを増強している。視覚的に喩えるなら、グラスに注いだ赤ワイン。クリスタル・グラスは透明に透き通りながらも確実に存在し、そこに注がれたワインの透明度まで高めて見える。本作のサウンドも、その透明感があるのです。本作の現場でもPAから丸出しの演奏音と歌声が出力されているのわけですが、それをミラードが空間録音すると距離が生まれずに輝きだけが増す。そのマジックがこれ以上なく見事に発揮された美録音なのです。しかも、本作はそんな意匠の最高峰を更新するもの。本作の大元になっているのは発掘の名門「JEMS」によって公開されたものですが、原音は「マスターの真実」には忠実でも「演奏の真実」には則しているとは言い難かった。ピッチが(最大で)半音ほど1/4ほど狂っており、中高音の伸びに対して低音にわずかな塊感が発生。更に言えば、デヴィッド・リンドレーとのデュオ・セクションでは静かなムードの中で咳き込むお客さんもいました(冒頭セクションの数曲だけですが、1曲に2-3回くらい咳き込んでいます)。もちろん、原音でも十二分に極上なのですが、本作はバランスを徹底的に整え、咳き込みも緩和。原音の持つ可能性を最大限に引き出し、「演奏そのもの」に肉薄する音楽作品としての完成度を追究したのです。そんな最高峰の更新サウンドで描かれるのは、70年代を総括した栄光のフルショウ。前述のようにリンドレーのデュオでしっとりと開演しますが、しばらくするとバンド形態に移行する。ここで、その内容を整理してみましょう。JACKSON BROWNE(6曲)・Jamaica Say You Will(★)/Looking Into You(★)/Something Fine(★)/Song For Adam(★)/Rock Me On The Water/Doctor, My Eyes FOR EVERYMAN(3曲)・The Times You've Come(★)/These Days/For Everyman
LATE FOR THE SKY(4曲)・Fountain of Sorrow/Before the Deluge/For A Dancer/The Road And The Sky THE PRETENDER(5曲)
・Linda Paloma(★)/The Fuse/Here Come Those Tears Again/Your Bright Baby Blues/The Pretender RUNNING ON EMPTY(8曲)・Cocaine/Rosie/Running on Empty/Love Needs A Heart/Nothing But Time/You Love the Thunder/The Load-Out/Stay
※注:「★」印はデヴィッド・リンドレーとのデュオ。他の曲はバンド形態での演奏。……と、このようになっています。初期5枚すべてから満遍なくセレクトされており、各アルバムに散りばめられた名曲が1つのショウに組み直されている。『RUNNING ON EMPTY』が新曲やカバーでなく、通常のライヴ盤だったとしたら……そんな妄想がそのままカタチになったようなフルショウなのです。そして、そんな名曲ラッシュを目の当たりにしたムードが凄い。何度か繰り返していますが、冒頭はアコースティックなデュオ・スタイルなものの、その1曲1曲が終わると凄まじい大歓声がブワッと吹き出す。実のところ、その歓声のピークでは音が割れ気味になるほど盛大でして、録音を通していても風圧を感じるほど。あくまでもミラード録音なのでノイジーで聴きづらくなることはないものの、その人気ぶり、熱中ぶりは普通じゃない。『RUNNING ON EMPTY』が大ヒットした事は史実として分かっていたものの、その現場の人気ぶりの凄まじさは想像を遙かに超えている。成功は天に愛された時と場所に降りてくるものですが、その現場がいかに特別で奇跡的なのか。それをミラードの輝きサウンドで実体験できるライヴアルバムでもあるのです。ジャクソン・ブラウン栄光の70年代を2時間28分に濃縮したフルショウ。それを伝説の録音家がクリスタル・クリアに輝くサウンドで真空パックしたライヴアルバムの大傑作です。それこそ、大名盤『RUNNING ON EMPTY』と同等……いえ、それ以上とさえ言える世界の音楽遺産となる2枚組。
Live at Terrace Theater, Long Beach, CA, USA 8th June 1978 ULTIMATE SOUND
Disc 1 (74:33) 1. Intro 2. Jamaica Say You Will 3. Looking Into You 4. Something Fine 5. Linda Paloma 6. The Times You've Come 7. Song For Adam 8. The Fuse 9. Fountain Of Sorrow 10. Here Come Those Tears Again 11. Before The Deluge 12. Your Bright Baby Blues
13. Rock Me On The Water
Disc 2 (74:01) 1. Cocaine 2. Rosie 3. For A Dancer 4. Doctor My Eyes 5. These Days 6. For Everyman 7. Running On Empty 8. Love Needs A Heart 9. Nothing But Time 10. Band Introductions 11. You Love The Thunder 12. The Load-Out / Stay 13. The Pretender 14. The Road And The Sky
Jackson Browne - guitars, piano, lead vocals David Lindley - guitars, fiddle, backing vocals Craig Doerge - keyboards Bob Glaub - bass Jim Gordon - drums Rosemary Butler - backing vocals Doug Haywood - backing vocals