ジャコ・パストリアスが去り、最終章へと突入した1982年のWEATHER REPORT。その現場を伝える新発掘ライヴアルバムが登場です。そんな本作に収められているのは「1982年7月9日シカゴ公演」。その一部始終を記録した極上オーディエンス録音です。1982年と言えばジャコが参加した最終作『WEATHER REPORT』がリリースされたわけですが、彼とピーター・アースキンはその後のツアーには不参加。代わってヴィクター・ベイリーとオマー・ハキムが加入し、パーカッションにはホセ・ロッシーも参加。早くも『PROCESSION』の陣容を固めていました。その辺の事情をイメージするためにも、まずは当時のスケジュールを振り返ってショウのポジションを確かめてみましょう。1982年《1月『WEATHER REPORT』発売》・6月29日:デンバー公演・7月9日:シカゴ公演 ←★本作★・7月19日:DR. PEPPER SUMMER MUSIC FESTIVAL出演 1983年《2月『PROCESSION』発売》・3月3日-4月9日:北米(6公演)
・4月30日-6月3日:欧州(8公演)・7月29日:日本公演(LIVE UNDER THE SKY '83) これが1982年/1983年のWEATHER REPORT。1982年始には『WEATHER REPORT』がリリースされていたわけですが、ジャコとアースキンはそれ以前に離脱。新体制でステージに立ったのはアルバム発売から半年が過ぎた頃でした。そして、新ラインナップでの『PROCESSION』へと突き進んでいくわけですが、その合間に行われたショウは3公演のみ。本作のシカゴ公演は、その2公演目にあたるコンサートでした。まさにターニング・ポイントの現場で記録された本作は、あまりにも素晴らしい極上オーディエンス録音。本作は話題沸騰の“COVID-19 RELEASE!”シリーズの最新作でもある。これは、現在世界を苦しめている新型コロナ渦による外出規制を耐え抜くために公開された秘蔵マスター・シリーズ。80年代初期のシカゴを中心として、とんでもない極上録音の数々が初公開されているのです。当店でもさまざまなバンド/アーティストの“COVID-19 RELEASE!”シリーズをお届けしてきましたが、その中でも本作は群を抜いて美しい。実のところ、サウンドボード的なド密着感ではなく、ややホール鳴りも拾ったタイプなのですが、その空気感が絶妙な艶を演出し、開けた見渡しに演奏が充満する。真っ直ぐ目の前に突き進んでくる芯だけでなく、広がる鳴りにも遮るものがなにもなく、細やかなヴァイヴが美しい一方でディテールをまったく隠さないのです。その美音の要因は、恐らくポジショニングにある。本作はステージ中央の最前列で録音されているのですが、これが普通の最前列とはチョット違う。目の前には約10列分のオーケストラ・ピットが横たわり、ステージとの距離を生む代わりに遮蔽物を一切排除してくれる。もちろん、最前ですから曲間で沸き立つ周囲の喧噪も背中から背負い込む立体感であり、演奏と自分との間には、本当に何ひとつ入ってこない。これこそ、クリアさとビビッド感を損なわず、それでいて厚みと艶を生む鳴りの旨みだけを美味しく味わえるサウンドの秘訣なのです。そして、そんなサウンドで描かれるのはジャコ時代を総括しながら新章へと踏み出したWEATHER REPORTのフルショウ。ベイリー&ハキム加入後のライヴと言うだけでも貴重ですので、ここでセットも整理してみましょう。ジャコ・パストリアス時代(11曲)
・BLACK MARKET:Black Market/Elegant People・HEAVY WEATHER:A Remark You Made/Birdland・8:30:8:30・NIGHT PASSAGE:Fast City/Rockin' In Rhythm・WEATHER REPORT:Dara Factor One/Dara Factor Two/Speechless/Volcano for Hire
それ以外(5曲)・TALE SPINNIN’:Badia・PROCESSION:Procession/Where The Moon Goes/Plaza Real/Two Lines ……と、このようになっています。『MR. GONE』以外のジャコ時代5作品から満遍なくセレクトし、そこに「Badia」や『PROCESSION』に収録されるナンバーの初期バージョンを散りばめていくスタイル。特に新曲はオープニングや序盤の畳みかけ、そしてアンコール・ラストといった要所に配されており、未来に向かって踏み出していく矜持が感じられます。もちろん、その意識はショウ構成だけでなくアンサンブルにも刻まれている。結果として『PROCESSION』は後期を代表する最高作ともなったわけですが、そんな傑作を生み出す意欲とイマジネーションが演奏からも溢れ出し、過去のレパートリーも見事に染め変えられている。彼欄限らず、音楽は変節の刹那がもっともフレッシュで刺激的なことが多いものですが、本作はそれを音で証明するようなライヴアルバムなのです。ジャズ/フュージョン・シーンそのものが大きく変動し、結果として終焉へと向かって行った80年代のWEATHER REPORT。しかし、その現場で奏でられる音楽は極めて芳醇で、決して黄金期に引けを取るものではありませんでした。本作は、そんなステージを極上の“目の前サウンド”でフル体験できる新発掘ライヴアルバムなのです。聴けるだけで貴重なショウを特等席でたっぷりと味わえる2枚組。
Live at the Auditorium Theater, Chicago, IL, USA 9th July 1982 ULTIMATE SOUND
Disc 1 (66:00) 1. Introduction (Terri Memmert, WXRT) 2. Procession 3. Fast City 4. Where The Moon Goes 5. Plaza Real 6. Dara Factor One 7. Dara Factor Two 8. Rockin' In Rhythm 9. Dara Factor Two
Disc 2 (57:14) 1. Speechless 2. Volcano for Hire 3. Tenor Saxophone Solo 4. Tenor Saxophone & Keyboard Duet 5. 08:30 6. Band Introduction by Wayne Shorter 7. Black Market 8. Elegant People 9. Badia 10. A Remark You Made 11. Birdland 12. Two Lines
Wayne Shorter - soprano and tenor saxophones Joe Zawinul - keyboards Victor Bailey - bass Omar Hakim - drums, percussion Jose Rossy - percussion