本人が過去に頓着しない性格だからでしょうか、ボブ・ディランのアルバムは現在のテクノロジーを使ったリミックスが未だに実現しません。唯一「STREET LEGAL」だけが20年前にリミックスを施されるという栄誉を授かりましたが、それ以外はさっぱり。彼ほどのアーティストでそうしたリミックスが行われていないという事実に驚かされます。例えばビートルズやキング・クリムゾンなどはここ10年の間にリミックスバージョンがどんどん登場していることを考えれば、なおさらディランの各アルバムで実現しないことが惜しまれます。ところがディランがエレクトリックなバンド・サウンドに転身を遂げた1960年代「BRINGING IT ALL BACK HOME」から「BLONDE ON BLONDE」まで三枚の絶頂期アルバムに関しては、ひっそりと収録曲のリミックスが実現していたのです。これら三枚のアルバムのセッションのすべてを網羅した2015年リリース、世界中のマニアをアッと言わせた、あの驚愕ボリュームの超限定コレクターズ・エディション。そこでセッションが網羅された際、当然アルバムに採用された最終テイクも新たなミックスが施されて収録いたのです。つまり、それをアルバムの曲順にまとめればリミックスバージョンが出来上がる。しかしコレクターズ・エディションは先のような超限定リリースで高価、おまけにボリュームが膨大すぎるというハードルの高さもあり、そうした新たなリミックスが作られたこと、あるいは聞いたことのある人は多くないと思われます。中でも稀代の名曲「Like A Rolling Stone」を含んだ大傑作アルバム「HIGHWAY 61 REVISITED」はリミックスが渇望されていたアルバムでしょう。1965年辺りにコロンビア・スタジオで録音されたアルバムはどれも音のスカスカしたステレオ・ミックスである場合が多く、それは本アルバムだけでなくサイモン&ガーファンクルやザ・バーズしかり。確かに同年代のビートルズのアルバムなどと比べると録音機材が発達していたアメリカのレコーディング・スタジオらしくクリアネスは素晴らしい。そんなステレオ感が魅力であった反面、どうにも音が薄っぺらく、なおかつ“古臭い”印象があった。そこで最初にも述べたように、ひっそりと作られていた2015年版リミックスをまとめることで、まさかの「HIGHWAY 61 REVISITED」最新リミックス・バージョン・アルバムが実現してしまう。何と言っても魅力なのが2015年版リミックスの仕上がり。このバージョンのエライところ、それはオリジナル・ミックスのイメージを損なわず、それでいて圧倒的に音の迫力や力強さを増してくれたところでしょう。さらに極めつけは何と言っても音質。何とオリジナル・ミックスよりもアナログチックなフィーリングをたたえた丸みを帯びた音質が本当に素晴らしい。この聞き心地のよさだけでもオリジナルとの違いを実感してもらえるはずで、その辺りのセンスも2015年に作られたミックスならでは。何と言っても名曲「Like A Rolling Stone」を聞き比べてみただけでも、その違いがありありと。1965年当時のクリアーだが線の細いステレオ・ミックスがどっしりとした力強い音質に生まれ変わっている。それでいてステレオのイメージはオリジナルに近い。反対に、いい意味でミックスのイメージを変えているのが「It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry」。オリジナルで加えられていたエコーを排し、絶頂期ディランの力強い歌声を押し出したミックスの素晴らしさといったら。アルバム・タイトル曲はオリジナル・ミックスの中でも一番古臭いステレオ感のあるミックス(それこそビートルズなどと共通する)でしたが、今回はずっと自然なバランスかつ骨太な迫力へと進化。こうした魅力たっぷりな2015年版リミックスの中でも極め付けと言えるのがアルバムの最後を締めくくった「Desolation Row」。収録曲の中でも一番ざらついた音質で聞かれた大作が見事にクリアーな状態へと生まれ変わっています。ところがそれだけではありません。あのコレクターズ・エディションではセッションマンによってリード・ギターがオーバーダビングされる前、ディランとウッドベース奏者の二人だけで演奏されたベーシックトラックが収録されていたのです。アルバムのフィナーレを締めくくった名曲を音質が向上しただけでなく、最もシンプルかつ生々しい状態で聞けるというのが魅力的。ギター・プレイヤーなら、これに合わせて自分でリードを弾いてみるのも一興かと。生々しさという点では「Like A Rolling Stone」や「Tombstone Blues」がフェイドアウトせず、ミュージシャン各人がプレイを止めるまで収録されている点もスリリング。以前、本アルバムのモノラル・ラフミックス音源を集めた古の名盤「HIGHWAY 61 REVISITED AGAIN」にてそうしたフェイドアウトのない状態を楽しめましたが、今回はそれがステレオで聞けるというのもマニアには大きな魅力のはず。よって「Ballad Of A Thin Man」に関してもミュージシャンがベースを外してしまった箇所を修正パッチ用テイクに差し替える前の状態で収録。そう、単にリミックスされただけでなく、演奏そのものの“生っぽさ”まで伝えてくれる。とどめのボーナス・トラックもあの超弩級コレクターズ・エディションでしか聞かれないレア・テイクやセッションを凝縮という、あまりに美味しい内容。「Sitting On a Barbed Wire Fence」のリハーサル風景ではリリース当時にマニアの間で話題となった、セッション・ピアニストが当時の最新シングルだったビートルズ「Ticket To Ride」のリフを弾く場面が!またマイク・ブルームフィールドのボックスセットにも収録された「Tombstone Blues」のバックコーラス入りバージョンにしても、コレクターズ・エディションでしか聞かれない、コーラスを一部間違えた別テイクで収録という念の入りよう。ウォーミーな音質でありながら、一方で力強い2015版ミックスと絶頂期のレアな別テイクが一つに。初心者からマニアまで楽しめる最高の内容と音質。ディランの名盤が遂に生まれ変わりました。だからこそ、タイトルは「REVISITED」でなく「REMIXED」。
Columbia Studio A, 799 Seventh Avenue, New York, June - August 1965 (77:08)
1. Like A Rolling Stone - Take 4 remake (16th June 1965) 2. Tombstone Blues - Take 12 (29th July 1965) 3. It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry - Take 4 (29th July 1965) 4. From A Buick 6 - Take 5 (30th July 1965) 5. Ballad Of A Thin Man - Take 3 unedited (2nd August 1965)
6. Queen Jane Approximately - Take 7 (2nd August 1965) 7. Highway 61 Revisited - Take 9 (2nd August 1965) 8. Just Like Tom Thumb's Blues - Take 16 (2nd August 1965) 9. Desolation Row - Take 5 (4th August 1965) without acoustic guitar overdub
Bonus Sessions and Alternates 10. Sitting On A Barbed-Wire Fence - Take 1 (15th June 1965) Rehearsals 11. Sitting On A Barbed-Wire Fence - Take 6 (15th June 1965) 12. Positively 4th Street - Take 8 (29th July 1965) breakdown 13. Can You Please Crawl Out Your Window? - Take 12 (30th July 1965)
14. Queen Jane Approximately - Take 6 (2nd August 1965) 15. Tombstone Blues (3rd August 1965) vocal overdub session take 2 Session Personnel 15th June 1965 Bob Dylan (harmonica, vocals, piano, guitar) Michael Bloomfield (guitar) Al Gorgoni (guitar) Al Kooper (guitar) Frank Owens (organ)
Bobby Gregg (drums) Joseph Macho Jr. (bass).16th June 1965 Bob Dylan (guitar, piano, harmonica, vocals) Michael Bloomfield (guitar) Paul Griffin (organ) Bobby Gregg (drums) Joseph Macho Jr. (bass) Al Kooper (organ) 29th July 1965 Bob Dylan (guitar, piano, harmonica, vocal). Michael Bloomfield (guitar)
Frank Owens (piano) Bobby Gregg (drums) Joseph Macho Jr. (bass) Al Kooper (organ). Paul Griffin (piano) Russ Savakus (bass) 30th July 1965 Bob Dylan (guitar, piano, harmonica, vocal) Michael Bloomfield (guitar) Al Kooper (celeste) Paul Griffin (piano) Harvey Brooks (bass) Bobby Gregg (drums)
2nd August 1965 Bob Dylan (guitar, piano, harmonica, vocal) Michael Bloomfield (guitar) Paul Griffin (piano) Frank Owens (piano) Sam Lay (drums) Harvey Brooks (bass) Al Kooper (organ). Bobby Gregg (drums) 2nd August 1965 (vocal overdub only) The Chamber Brothers (background vocals)
3rd August 1965 Bob Dylan (guitar, harmonica, vocal) Russ Savakus (bass)