カーク・ハメットを迎え、盤石の体制で世界制覇に乗り出した1983年のMETALLICA。そのスタートダッシュを極上体験できるライヴアルバムが登場です。そんな本作に収められているのは「1983年12月15日シカゴ公演」。夕・夜の1日2公演をセットした傑作オーディエンス録音です。1983年と言えば、デイヴ・ムステインからカークへ交代したことで次々と新曲も誕生。METALLICAの個性を確立する次作『RIDE THE LIGHTNING』の萌芽も見え始め、1日1日で急速に成長していく時期でもありました。まずは、そんな当時のスケジュールを振り返り、ショウのポジションを確かめてみましょう。1983年《4月11日:デイヴ・ムステイン解雇》
・4月16日-5月7日:ウォームアップ(5公演)《5月10日-27日『KILL 'EM ALL』制作》・7月27日-9月3日:北米#1(32公演)・10月31日-11月26日:北米#2(8公演)・12月14日-31日:北米#3a(6公演) ←★ココ★ 1984年・1月7日-22日:北米#3b(6公演)・2月3日-12日:欧州(6公演)
《2月20日-3月14日『RIDE THE LIGHTNING』制作》 これが劇的なムステイン解雇から『RIDE THE LIGHTNING』制作までの歩み。 RAVENやVENOM、TWISTED SISTER WHILEといった先人たちのサポートとして、初めてライヴと移動を毎晩繰り返す「ツアー生活」に乗り出したわけです。本作のシカゴ公演は、そんな初々しい1983年の終盤「北米#3」の2日目にあたるコンサートでした。前述のように、この日は夕・夜の1日2公演が行われ、本作はそれぞれのオーディエンス録音をディスク1枚ずつに配した2枚組です。そのクオリティがまた絶品のリアル・オーディエンス。どちらも熱狂が濃縮するクラブで録音された大元マスターからダイレクトにデジタル化され、ダビング劣化も見られた既発バージョンとは異なる銘品。その瑞々しいリアルさが素晴らしいのですが、その個性は2公演で大きく異なります。まずディスク1(夕公演)ですが、こちらは爆裂したクラブの凄まじい熱気がスピーカーから吹き出すタイプ。開演直後から凄まじい盛り上がりで、大合唱と絶叫と悲鳴(?)がスラッシュ・ビートに乗ってブチかまされる。パッと聴くと怒号めいた叫びがほとんどケンカのようにも聞こえ、あまりに危険なムードに薄ら寒くなる。曲が進むとサビで歌詞を叫んでいるのでケンカではなく、盛大に盛り上がっていると分かるのですが……。もちろん、METALLICAの爆裂スラッシュは、そんなヤバいムードに掻き消されることなく、むしろ制圧してしまうド迫力。そうですね、「バンド:観客=7:3」くらいの超リアル・アルバムなのです。ディスク1がクラブならではの「密室感」だとすれば、代わってのディスク2(夜公演)は「密着感」の銘品録音。同じ会場ですので観客のノリは同じだと思われますが、明らかにバンドの間近から録音され、超極太でクリアな芯が顔面をブン殴ってくる。おっと、殴るとは言っても決して爆音ではありません。むしろ、逆。ジェイムズが全力で吠え、当代きってのスラッシュリフが前回でブチかまされてもまったくビビらない。ただひたすら鋭利なリフの輪郭と距離感ゼロの破壊力が鮮烈であり、それこそ腕を伸ばせば届きそうな間近感が殴りつけるような迫力を生み出しているのです。そんな個性派2本で描かれるショウは、セットも微妙に異なる。ここでその内容を整理しておきましょう。KILL ‘EM ALL(9曲・15テイク)・2公演共通:Hit the Lights/The Four Horsemen/No Remorse/Seek & Destroy/(Anesthesia) Pulling Teeth/Whiplash・夕の部のみ:Jump in the Fire/Phantom Lord・夜の部のみ: Motorbreath
●RIDE THE LIGHTNING(4曲・6テイク)2公演共通:Fight Fire With Fire/Ride the Lightning・夕の部のみ:The Call of Ktulu・夜の部のみ: Creeping Death ……と、このようになっています。リリースされたばかりの『KILL ‘EM ALL』は勿論のこと、早くも『RIDE THE LIGHTNING』の新曲も演奏され始めています。「Fight Fire With Fire」「Ride the Lightning」「Creeping Death」の3曲は「北米#2」から演奏されるようになった新曲で、本作でもおおよそ5-6回目という初期のパフォーマンス。レアな「The Call of Ktulu」はもう少し前の「北米#1」の終盤から演奏されていますが、いずれにせよ10回前後です。普通なら初期というとこなれていないと感じるかも知れませんが、スラッシュメタルは初期衝動こそが至高の音楽。その凄まじい勢いは絶大で、思いっきり叩きつけられた観客たちは最初茫然としており、そのうち感嘆の声を漏らしながらサビの唱和に挑んでいく……。まさにこの時期だけのノリが最高に面白いのです。MERCYFULL FATEを愛するカークの叙情と壮大趣味が注ぎ込まれ、METALLICAの個性が確立した『RIDE THE LIGHTNING』。その萌芽となった時期のショウを極上体験できる2枚組です。スラッシュ熱狂の密室感にむせ返るような「夕の部」と、演奏の破壊力を間近席で浴びる「夜の部」。個性派違えど、クラブギグでしかあり得ないド迫力の2公演。
Broadway Jack's, Chicago, IL, USA 15th December 1983
Disc 1 (66:34) EARLY SHOW 1. Introduction 1. Hit the Lights 2. Four Horsemen 3. Jump in the Fire 4. Fight Fire With Fire 5. Ride the Lightning 6. Phantom Lord 7. The Call of Ktulu 8. No Remorse 9. Seek & Destroy 10. Anethstesia (Pulling Teeth) 11. Whiplash
Disc 2 (65:29) LATE SHOW 1. The Ecstasy of Gold 2. Hit the Lights 3. The Four Horsemen 4. Jam 5. Fight Fire with Fire 6. Ride the Lightning 7. Motorbreath 8. Seek and Destroy 9. Creeping Death 10. Anethstesia (Pulling Teeth) 11. Whiplash 12. No Remorse
James Hetfield – Vocals, Guitar Kirk Hammett – Guitar Cliff Burton – Bass Lars Ulrich – Drums