振り返ってみればヤードバーズはずっと過度期であり続けたバンドだと言えるのではないでしょうか。一番の要因はバンドに絶大なるソングライターが存在しなかったこと。グループの中でもっともソングライター的な資質を持っていたポール・サミュエル=スミスが抜けたことで、バンドは自然とサウンドの方向性をギタリストに頼るようになる。グループが輩出したいわゆる三大ギタリストの中ではずば抜けた作曲能力を持つジミー・ペイジ在籍時のヤードバーズが一番活動期間が長かったというのも当然の結果でしょう。その結果ライブ音源や映像がもっとも豊富に存在するのもペイジ時代ということになるのですが、この8月に突如として1967年と68年それぞれのアメリカでのステージを捉えた二公演分の新発掘オーディエンス録音がネット上に現れて世界中のマニアの話題をさらいました。どちらもヤードバーズのキャリアにおいて大変に貴重な音源の発掘であることは言うまでもありませんが、まず驚かされるのは1960年代後半のオーディエンス録音としては驚くほど音質が良いということ。ヤードバーズのオーディエンスと言えば68年のシュライン・オーディトリアム(遠い音像)あるいは同年フィルモア(音が割れる)など、音源として存在することに価値があり、音楽として聞きこむにはマニア向けなレベルな音源を思い浮かべられることかと。ところが今回の音源ときたら、演奏やボーカルのバランスが驚くほど良好であり、なおかつペイジのギターの生々しさなどは圧巻。ヤードバーズのオーディエンス録音の中では他に類を見ないほどの聞きやすさを誇ります。これほどのクオリティを誇るテープが50年以上も眠っていたとは。まず一枚目に収められているのはフィルモアでのヤードバーズを捉えたもの。同じフィルモアでも以前から出回っている68年ではなく67年という点がマニアを大いに驚かせた超貴重な発掘でもある。先にも触れましたが、67年のヤードバーズは4月のストックホルムのラジオ音源、より近年に発掘されたフランスのフェスでのライブ映像などがよく知られていますが、今回のフィルモアは7月10日から始まったアメリカ・ツアーの一環として行われたもの。特筆すべきは先に触れたラジオ音源や映像がジェフ・ベック時代のサウンドを引きずっていたのに対し、このフィルモアでは発売を直前に控えたアルバム「LITTLE GAMES」、あるいはペイジ時代の到来を告げるサウンドへと一気に豹変しているところでしょう。中でも驚かされるのは同アルバムからのサイケナンバー「Glimpses」が演奏されているという。実のところ、この貴重な一曲だけが7年前からYouTube上に出回っており、その時に「この音源の全長版はないのか?」というコメントが寄せられたほどマニアを驚かせていた。その「全長版」がようやく登場したということになります。しかもこの「Glimpses」、アルバム・バージョンと同様に後半のセリフ部分までステージで再現している点が驚かされるのですが、それはテープを使っていると思われ、そうした演出まで試みていた点にも驚きを禁じえません。さらに「Smokestack Lightning」が67年の段階で一気に「How Many More Times」化している点にも驚かされます。68年のライブ音源は何かと「ZEP前夜」感が漂っているものですが、ペイジ時代が本格的に始まった67年の7月の時点でも彼が本領を発揮しはじめたことがよくわかる場面でしょう。おまけに音質が良いので、そうしたサウンドの進化ぶりがしっかりと伝わってくるのもイイ。二枚目に収められたのは68年5月コンコードでのステージの模様なのですが、その前に行われたのがフィルモアで、この後に行われたのがLP時代から末期ヤードバーズ音源の古典であるシュライン・オーディトリアム。つまりこの時期にオーディエンス録音が複数存在しているということは、いかに彼らがアメリカでの人気を獲得していたのかという何よりの証拠。そして先にも申しましたように、それら二つの音源よりもはるかに音質がいいという点が大きな魅力。もっともシュライン・オーディトリアムの方は初期ZEPのアメリカにおけるオーディエンス録音と似たクオリティであり、マニアなら十分に楽しめるレベル。そちらは是非CD-R「FOUR LIVE YARDBIRDS」にてお楽しみください。そんなシュライン・オーディトリアムがマニアに重宝されてきたのは、解散直前のヤードバーズの最末期オーディエンスというだけでなく、二回行われたショーをフルに捉えてくれていた点が大きい。一方、今回の音源はセットリストから推測するに二回行われたショーから一回目のすべてを捉えているように思えます。こちらの音源、一枚目の67年フィルモアよりは僅かに音質が劣るのですが、それでも先に挙げた過去の68年オーディエンスよりはずっと聞きやすい。今や「YARDBIRDS 68」にて歓声のオーバーダビングなしで楽しめるようになった「LIVE YARDBIRDS」こと3月のアンダーソン・シアターでも碇石だった「Train Kept A-Rollin'」から「Heart Full of Soul」まで立て続けに演奏するオープニング・パターンをサラリとこなし、いよいよZEPの足音と言うべき曲はキース・レルフも「Dazed and Confused」という曲名で紹介している。あるいは「YARDBIRDS 68」には未収録だった「Happenings Ten Years Times Ago」の末期ヤードバーズによる演奏が高音質で聞けるのもポイント高い。結果としてヤードバーズにとって最後の日々となってしまったアメリカ・ツアー5月末から6月の頭という時期ですが、後にペイジが証言していたように、彼は当時のグループの状態とアメリカのオーディエンスの反応に満足していて、むしろペイジはヤードバーズをネクスト・レベルに引き上げることにやる気満々だった。ところがR&Bバンド時代からヤードバーズを続けてきたレルフとドラマーのジム・マッカーティは長すぎるアメリカ・ツアーに疲れ、それが終わって一週間もしない内に脱退を表明。あっけなくヤードバーズが解散します。確かに「Dazed and Confused」などは「YARDBIRDS 68」の時よりも完成度が高く、ヤードバーズの進化を十分に予測できます。しかし本来ジェントルな歌い方を身上としていたレルフは変化についてゆけず、彼やマッカーティが抜け、またクリス・ドレヤもミュージシャンを引退。そしてとりあえず秋にニュー・ヤードバーズとして継承された新たなグループはロック史に大きな足跡を残すビッグな飛行船となる。やはりヤードバーズは終わるべくして終わったのですね。「永遠の過度期バンド」が最後に記した完成形が捉えられたコンコードのステージ。ビート・グループから脱皮し、ペイジがやる気満々でバンドに新しい息吹を吹き込んだ67年のフィルモア。どちらも驚くほどの高音質。そのリリースに際しては、ビンテージ・オーディエンス特有なピッチの狂いやノイズを緻密にアジャスト。特にフィルモアの方は序盤数曲が録音できなかったようで、代わりにコンコードから冒頭の二曲を拝借した編集で公開されましたが、もちろん時代も場所も全く違う音源はカット。歴史的な発掘ビンテージ・オーディエンスを正にベストの状態へと磨き上げました。これは凄い!
Fillmore Auditorium, San Francisco, CA, USA July 1967 PERFECT SOUND(NEW SOURCE) Concord Coliseum, Concord, CA, USA 29th May 1968 PERFECT SOUND(NEW SOURCE)
Disc 1(67:31) Fillmore Auditorium, San Francisco, CA, USA July 1967 1. Introduction 2. Heart Full of Soul 3. I Wish You Would-Hey Gyp 4. My Baby 5. You Go Your Way, I'll Go Mine 6. Shape of Things 7. I'm a Man 8. Smokestack Lightning 9. Bye-Bye Bird
10. Happenings Ten Years Time Ago 11. Smile on Me 12. Glimpse 13. Ain't Done Wrong 14. Over Under Sideways Down ★ランダムに大きく低いピッチをなるべく修正。
Disc 2 (53:08) Concord Coliseum, Concord, CA, USA 29th May 1968 1. Introduction 2. Train Kept A-Rollin' 3. Mr. You're a Better Man Than I 4. Heart Full of Soul 5. Dazed and Confused 6. Shapes of Things 7. White Summer 8. Happenings Ten Years Times Ago 9. I'm a Man ★半音の30%程度高いピッチを修正。Keith Relf - vocal Jimmy Page - guitars Chris Dreja - bass Jim McCarty - drums