YESの……いえ、音楽ジャンル「シンフォニック・ロック」の理想郷であった“海洋地形学の物語ツアー”の序盤。その現場を体験できる傑作ライヴアルバムが登場です。『海洋地形学の物語』と言えば、YESの大作主義が頂点を迎えた歴史的な作品ですが、ツアーはさらに画期的。2大作『危機』『海洋地形学』の全曲を丸ごと演奏するという、ロック史でも希に見る一大スペクタクル・ショウだったのです。ただし、ツアー全体でそのコンセプトが貫かれたわけではありません。さすがに膨大すぎたのか、それとも間延びと感じたのか、ツアー途中で「追憶」がセット落ち。『海洋地形学』は3/4再現と変更されていったのです。確かに、残された記録を聴くと変更された後の方がショウの完成度も高いような気もしますが、そうは言っても超大作は完全形で味わいたい。このツアーはサウンドボードが残されなかった事もあり、その乾きが幾多のオーディエンス録音へと向けられていったのです。そして、本作もまたそうしたマニアの乾きを癒す1本。「1974年2月22日トロント公演」のオーディエンス録音です。先述の事情により、このツアーはショウのポジションが最重要。まずはスケジュールを振り返ってみましょう。1973年《初秋:『海洋地形学の物語』完成》・11月1日-12月10日:英国(26公演)《12月:『海洋地形学の物語』発売》1974年
・2月7日-28日:北米#1(21公演)←★ココ★ =「追憶」がセット落ち=・3月1日-25日:北米#2(22公演)・4月11日-23日:欧州(10公演)《5月:リック・ウェイクマン脱退》 これが世紀の“TALES FROM TOGOGRAPHIC OCEANS TOUR”の全体像。ツアーはアルバム発売前の英国から始まり、年末年始を挟んで北米へ侵攻。その冒頭20公演ほどで「追憶」が落ちます(ただし、これはあくまで概要。「英国」や「北米#1」でも全曲ではない日もあったようです)。本作のトロント公演は、その直前。「北米#1」の15公演目にあたるコンサートでした。そんなショウで記録された本作は、くっきりしたメロディと降り注ぐハーモニーに全身が溶けるような美録音。あくまでもヴィンテージ・オーディエンスではありますが、すっきりとした空気感を貫く演奏音は輪郭までキリッとしており、距離もほとんど感じない。もちろん、サウンドボード的な密着感とは違うわけですが、ホール鳴りが濁りや曇りではなく、芯に厚みを与えるダイナミックなタイプ。その鳴りの力を借りたシンフォニック・サウンドはまさに“降り注ぐ”感覚に溢れ、そのド真ん中をギターやベースがグイグイと切り裂いてくる。ロック的な力強さと、シンフォニー的な没入感の両立。常々、YESはオーディエンス録音の似合うバンドとご紹介してきましたが、その意義を音に変えて表現してくれるような録音なのです。しかも、本作はそんな名録音をブラッシュ・アップ。ネットに登場した原音はところどころプチノイズや音ブレなどが発生していましたが、本作は可能な限り補正。録音そのもののヴィンテージ感を払拭するほど加工してはいませんが、ナチュラル&リアルな鳴りを活かしつつ、音楽作品としての聴き応えも追究致しました。そんなブラッシュアップ・サウンドで描かれるのは、まさにシンフォニック・ロックの桃源郷。セットはシンプルなので分析の必要はないでしょう。下記の曲目をご覧の通り『危機』を逆順で全編演奏し、その後『海洋地形学の物語』を完全演奏。現場ではアンコールとして最後に披露されているはずの「Roundabout」は録音漏れですが、貴重なメインセット7曲が揃っている重要度には替えられません。とにもかくにも、降り注ぐオーディエンス・サウンドで超大曲が連発するシンフォニック・ショウを現場体験する。この醍醐味に尽きます。ロック史にシンフォ・バンドは数あれど、ここまで荘厳で雄大なツアーは他にない。
Live at Maple Leaf Gardens, Toronto, ON, Canada 22nd February 1974 TRULY AMAZING SOUND(UPGRADE)
Disc 1(64:02) 1. Firebird Suite 2. Siberian Khatru 3. And You And I 4. Close To The Edge 5. The Revealing Science Of God Disc 2(64:33) 1. The Remembering 2. The Ancient 3. Ritual
Jon Anderson - Vocals Steve Howe - Guitars Chris Squire - Bass Rick Wakeman - Keyboards Alan White - Drums