一昨年はグラスゴーの初日が発掘されて話題を呼んだZEP1972年冬のイギリス・ツアーですが、今度はグラスゴー二日目の別音源が発掘されました。この日は古くからオーディエンス録音が存在しており、それを収めたTDOLZの「STUCK ON YOU」で記憶しているマニアがおられることかと。とはいっても記憶しているのは、あくまで「マニア」であって、聞いたことのない人の方が圧倒的に多いのでは。何しろ従来から存在する音源(以降「recorder 1」と称します)は音質があまりに悪かった。モノラルのオーディエンス録音というのはいいとしても、音が遠く、しかも全体的にバリバリ歪んだ音。それこそマニアでないと聞けない、いやマニアですら聞きこむのに難儀するような音源でした。ところが最近になって二日目の別なオーディエンス録音が登場。初日が発掘された時もそうですが、今になってこのような音源が登場してくるとは本当に驚き。しかも今回の音源ですが、やはりモノラル録音であり、さすがにエクセレントなレベルとは言えなくとも、あの「recorder 1」とは比べ物にならないほど聞きやすい。そういう意味でも今回の発掘は世界中のマニアを狂喜させることでしょう。距離感のある音像ではありますが、「recorder 1」のようないびつな音の歪みがなく、なおかつ50年近く眠っていたとは思えないほど鮮度がいいのも驚き。ところが「recorder 1」とは別種の問題が今回の音源(以降「recorder 2」と称します)が抱えていたのです。それは細かいカットが演奏中でも頻発するということ。これは到底そのままの状態ではリリースできません。そこで久しぶり脚光を浴びるのが「recorder 1」。これを補填要員とすることでカットを埋められるという。とはいえ初めて登場した別音源です、そうした処理を施したアイテムが他にも登場するのは間違いでしょう。その点、本タイトルは今回の「recorder 2」の問題点に踏み込んだ、新たなアプローチで音源のレストアに取り組みました。「recorder 2」はカットがあるだけでなく、録音されている箇所でも50年の歳月で劣化してしまったと思われる個所が散見される。通常でしたらこの個所もカットして「recorder 1」で埋めてしまうのでしょうが、何しろ音質に関しては「recorder 2」の圧勝です。そこで録音されながらもテープ劣化による音質の問題がある個所に関しては二つの音源をミックスさせるという処理を施しました。これを「補填」でなく「補強」と呼びます。例えば「Dancing Days」が2分を過ぎた辺りで初めて補強を導入しているのですが、これによって「recorder 1」の荒くれ音質に埋まることなく演奏が聞き通せるようになった訳です。演奏が長い「Dazed And Confused」ではカットと劣化の両方が頻発しており、なおさら「補填」&「補強」両方の処理が最大限に活かされることになりました。そのあまりに緻密な編集ぶりだけでも今回のリリースの意義を理解してもらえるはず。また「recorder 1」ほど極端な荒れくれ感はないもの、それでもビンテージ・オーディエンスにありがちな歪みの気になる箇所がちらほらとありましたので、その元凶となる低域を抑えたイコライズを施したことで、演奏の輪郭がよりくっきりとした点もアドバンテージかと。そして「recorder 1」よりはるかに聞きこめるようになった今回の音源で際立つのは、前日以上に好調なプラントの歌声。そもそも声質自体が一か月後の風邪で完全に失われてしまうツヤやハリをしっかり保っており、正に72年モードのプラントの末期なのだと痛感させられます。随所で彼が「歌えて」おり、その攻めてる感じが音質の向上によって映えること。このツアーからリズムのインプロヴィゼーションの駆け引きに開眼した他の三人のストロングなプレイに付いてくるプラント…その限りある時期の新たなドキュメントとしても聞き応えは十分。例えば当時の新曲「The Song Remains the Same」でもアルバム・バージョンに近い旋律で歌えていて、これがまた実にステージ映えする。かと思えばコンサート前半でMCの最中でも騒がしい観客に「うるさい!俺の話を聞けってば!」と怒り、挙句の果てには「Stairway to Heaven」の前でイギリスの音楽誌メロディ・メイカーに載ったクリス・チャールズワースによるレビューに対して「ツェッペリンは落ち目だとぬかしやがる、ありがとよ!」とジャーナリストへの当て擦りを発するほど。そんな苛立ちすら、この日のプラントの声にプラスに作用としか思えません。何しろこの時期のお楽しみでもある「Dazed And Confused」ですら三人のインタープレイ以上にプラントの存在感が際立っているから面白い。序盤からして彼の歌声が素晴らしく、所謂サンフランシスコ・セクションは前日に続いてニール・ヤングの「Cowgirl In The Sand」を歌っていたことが今回の音源で初めて解りました。このパートのディティールを「recorder 1」で聞き取るのは至難の業だったのです。また先のような怒りを露わにした「Stairway to Heaven」ですが、ペイジのギターソロがやたらとハンマリングを多用したフレーズを連発しているのが面白く、まるでプラントの苛立ちをフレーズで表現してみせたかのよう。こんな調子で終始アグレッシブだったプラントがフィナーレに相応しい炸裂ぶりを見せつけてくれるのが「Whole Lotta Love」メドレー。「Let's Have A Party」まではこの時期の定型と呼べる展開なのですが、それが一段落してプラントが歌い出したのがエルヴィス・プレスリーの「Stuck On You」。そう、いにしえTDOLZ盤のタイトルになったカバーですが、この日の目玉とも呼べる部分がこれまた「recorder 1」だと聞きづらかった。しかし格段に聞きやすくなった今回の音源によって、この日のアグレッシブなプラントだからこそ歌えた選曲だったのだと痛感。こうしてバンドを彼が引っぱり、他の三人がそれに応えるのがZEPの真骨頂。今までは完全にハードコアなマニア限定音源だったグラスゴー二日目、それが今回はコアでなくともマニアなら最高に楽しめる名演ドキュメントへと昇格。それでいて貴重ながら問題が多い音源を緻密にレストアしたことでいよいよ聞きこめる。そして何より前日とは演奏の表情が随所で違うので、昨年リリースされた「GLASGOW 1972 1ST NIGHT」との聞き比べがいよいよ楽しめる。やはりこの時期のプレイは特別です!
Green's Playhouse, Glasgow, Scotland 4th December 1972
Green's Playhouse, Glasgow, Scotland 4th December 1972 ★新発掘のRec 2をメインで使用し、欠落部分をRec 1で補填。★これでも既発より圧倒的に音質が良いがラウド過ぎるので低音を削りましたが、それでもラウドな印象。★テープ状態が悪く劣化ポイントが複数あり、その劣化ポイントもテープは走っているがのこぎり状に劣化している。★劣化の酷い箇所は既発を被せてなるべく聴きやすくしました。*補強 = 既発を被せた個所 / 補填 = 欠落の為補填した個所 *既発の音質が劣悪なので、入れ替えると質感が大きく異なる為の苦肉の策*既発補填/補強は場面により適時イコライズしています。★劣化が短い個所は修正していません。
Disc 1 (55:26) 1. Introduction ★全部補填 2. Rock And Roll (cuts in) ★0:00 - 2:55 補填 3. Over The Hills And Far Away 4. Black Dog ★1:29 - 1:44 補填 5. Misty Mountain Hop 6. Since I've Been Loving You ★2:37 - 2:44 補強 7. Dancing Days ★2:04 - 2:17 補強 8. Bron-Y-Aur Stomp
★0:50 - 0:53 補填&補強 ★5:15 - 5:21 補填 9. The Song Remains The Same 10. The Rain Song ★2:33 - 3:16 補強
Disc 2 (67:27) 1. MC 2. Dazed And Confused ★2:58 - 3:02 補強 ★5:41 - 5:37 補填 ★16:23 - 16:27 補填&補強 ★16:49 - 16:58 補填&補強 ★25:54 - 26:38 補填 3. Stairway To Heaven ★3:21 - 3:25 補強 ★9:31 - 最後まで補填 4. Whole Lotta Love ★0:00 - 0:02 補填 ★6:11 - 6:15 補強
■11:22 既発も欠落 ★18:05 - 18:18 補填 ■22:27 既発も欠落 5. Heartbreaker ★5:01 - 最後まで補填