オアシスはもとより1990年のロックアルバム稀代の名盤といっても過言ではない「(WHAT'S THE STORY) MORNING GLORY?」の作業を終えたグループが6月から7月にかけてフェス巡りを中心としたライブ活動こそ、1995年における最初のピークと呼べるのでは。この時期には何といってもグラストンベリーという極めつけの名演があり、さらにはロスキルデ・フェスティバルというもう一つの名演もマニアによく知られるところ。まさに「脂の乗った時期」という表現がぴったり当てはまります。それらがどちらも95年6月のステージの記録だったのに対し、7月にはREMの前座をいくつかの公演で務めていました。前座という性質上、この時期の放送用音源などは存在しないのですが、幸いにも抜群に音質の良いオーディエンス録音が存在しています。それが今回リリースされる7月22日のスレーンにあるスレーン城でのライブ。数々のビッグネームがコンサートを開いた野外会場ですので、ロック好きなら一度は耳にしたことのある会場名ではないでしょうか。ここでの演奏を収めたさまざまなアーティストのアイテムには時としてダブリンのクレジットが記載されることが多々ありますが、実のところ所在地はダブリンではなかった。もっとも、ほとんどの人はこの会場へダブリンを経由して行くと思われますので、例えるなら東京から千葉を経由して東京ディズニーランドに行く感覚に近いものがあります。実を言うと今回のリリースに際しても当初はダブリンだと勘違いしていました(苦笑)。それにしても、この日のオーディエンス録音は抜群に音質がいい。DATレコーダーを用いて録音されたことも功を奏し、とにかく音像がオン。これぞ「サウンドボードのような」と形容されるべき録音状態なのです。それだけでも聞きやすさは保証されたようなものですが、もう一つの大きなメリットとして、他アーティストの前座であったことから、オアシスのライブにありがちな大合唱がまったく生じていないという。音像が近くて周囲の音が煩わしくないという環境が功を奏し、1995年オアシスのオーディエンス録音の中でも格別の聞きやすさ。それほどのクオリティを誇る極上音源でありながら、今まで2002年ライブ放送のアイテム「ARE YOU GONNA BE THE ONE WHO SAVES ME?」のおまけCDとしてだけしかリリースされた実績がないという事実には驚きを禁じえません。これまでキニー・マスター以外の音源提供と監修を務めてくれているイギリスのオアシス研究家からも「私のフェイバリット・ショウ。これは是非リリースしてほしい」と念を押されたほど。もちろん今回のリリースに際してはネット上に出回っていたDATマスター・コピー・バージョンから改めて収録。元々の音質が非常に優れてはいたものの「Acquiesce」の前半には録音時の音量が下がってしまうトラブルがあり、この個所を丁寧にアジャスト。そうした問題がなかったかのような自然な状態へと修復しました。こうした音質の素晴らしさはもちろんですが、この日のオアシスの演奏がまた素晴らしい。REMの前座、なおかつ合唱も起きないオーディエンスを前に演奏しているから盛り上がらないかと思いきやとんでもない、この時期ならではのテンション高めな演奏で彼らを熱狂させているのです。その証拠として、当時まだリリース前だった「Hello」を始めたところ、オーディエンスが前に押し寄せてきてしまいバンドはすぐに演奏を中断。ノエルが強い調子で注意を呼び掛けており、かなり鬼気迫る場面となっています。それはまるで10年後のマンチェスターでの自身たちのライブで起きたハプニングを予言するかのような場面でもありました。それ以上に何といってもリアムの声が絶好調。そもそも不調な日の方が少なく、どの日も面白いように声が出ていた時期ですので、聞いていて本当に気持ちがイイ。グラストンベリーやロスキルデにも負けない胸のすくような快演が繰り広げられている。仕切り直しで演奏された「Hello」に「Roll With It」、そしてまだアンセムと化していない「Don't Look Back In Anger」といった「MORNING GLORY」収録曲が初々しく映える。そんな中でフィナーレ「I Am The Walrus」の歌い出しで「カモーン!」と煽るリアムのかっこよさ。やはりこの時期は特別。そして「Don't Look~」や「Rock 'n' Roll Star」の前ではアラン・ホワイトがおどけたリズムを叩いてみせる場面があり、ツアーの経験を積むにつれて黙々とリズムを刻むドラム職人となる彼の加入直後ならではの初々しさも垣間見られます。こうした聞きどころも多く存在するという名音源かつ名演。1995年における最初のピークたる夏のオアシスを捉えた極上音質のオーディエンス・アルバムです!
Slane Castle, Slane, Ireland 22nd July 1995 TRULY PERFECT SOUND (66:59)
01. The Swamp Song 02. Acquiesce 03. Supersonic 04. Hello (1st attempt) 05. Liam & Noel "Move Back!" "Calm Down" 06. Hello 07. Shakermaker 08. Liam complaining 09. Roll With It 10. Some Might Say 11. Slide Away 12. Cigarettes And Alcohol 13. Rock 'n' Roll Star
14. Don't Look Back In Anger 15. Live Forever 16. I Am The Walrus Liam Gallagher - lead vocals, tambourine Noel Gallagher - lead guitar, vocals Paul Arthurs - rhythm guitar Paul McGuigan - bass Alan White - drums