隠居生活中のディランとザ・バンドによる珠玉の作品集であるベースメント・テープスは2014年のオフィシャル「THE BOOTLEG SERIES VOL. 11 - THE BASEMENT TAPES COMPLETE」において現存する音源のすべてが網羅(過去のブートなどと比べると若干の編集違いが見受けられますが)されて決着のついた感があります。LPからCDに至るまで、あれほどレア音源界の花形であったベースメント・テープスも今やそれ1セットでことが足りてしまうのではないでしょうか。しかしベースメント・テープスにもミックス違いというものが存在します。元はステレオ録音なのですが、1968年になって音楽出版社がベースメント・テープスに収められた曲を他のアーティストにカバーしてもらうべく、アメリカとイギリスでアセテート盤が作られた際のミックスはモノラルだったのです。そのアセテートから派生して無数のブートレグが生み出されることになる訳ですが、オフィシャルでこれらのモノ・ミックスは数曲を除いてほとんどリリースされじまいでした。ところが「THE BOOTLEG SERIES VOL. 11」のリリース時、アナログ・オンリーの超限定にてモノラルのリリースも実現します。その希少LPから奇麗にトレースしてくれたマニア制作のファイルを元にまとめた名盤が「MORE MONO MIXES」でした。ところが2014年の最新技術にてリマスターされた上でリリースされたLPバージョンは数値的な意味では飛躍的な音質の向上を遂げていたものの、68年当時のアセテートと比べると音質がクリアすぎるのでは?と感じるマニアがいたのも事実。同年の音楽界に旋風を巻き起こし、果ては「GREAT WHITE WONDER」を始めとしたブートレグの元になったアセテートの雰囲気とはちょっと違っていたのです。実は「THE BOOTLEG SERIES VOL. 11」のリリースから遡ること数年前、68年当時に出回っていたアセテートを元にしたファイルを上げてくれたイギリスのマニアがいたのです。既にその頃には「TREE WITH A ROOTS」といった名作がマニアの間に浸透していたこともあって思いのほか話題になりませんでした。確かに元がアセテートですのでスクラッチノイズがバチバチいってますし、「Lo And Behold!」などには音飛びも生じている。しかしこれこそがアセテートの証というもの。そんな貴重なバージョンであっただけでなく、この音源がアップロードされていたディランに強いサイトが閉鎖されてしまい、今やネット上のこのアセテートを見つけるのが難しくなってしまいました。そして何より驚かされるのが、後の「GREAT WHITE WONDER」を始めとした各種初期ブートレグよりも音質がいいということ。それらはアセテートの枝分かれコピーを入手した上でのリリースだったことから大なり小なり音質が劣化していたのですが、こちらは大本のアセテートだけあって俄然クリアーなのはもちろん、音の鮮度が抜群。さらに1968年当時の空気までも刻み込まれた「ビンテージ感」がモノラルと相まって絶妙の味わいを生み出します。2014年のオフィシャル・リリース時には「音がクリアーになったものの、生々しさが薄れてしまったのではないか」という声もちらほら聞かれていました。それでもやはり「THE BOOTLEG SERIES VOL. 11」がベースメント・テープスの決定版であることに異論はありません。しかしベースメントといえばあの独特のほのぼのとした雰囲気があればこそ。
Big Pink, West Saugerties, New York 1967 (41:19)
1. Tears Of Rage 2. Quinn The Eskimo 3. Million Dollar Bash 4. Yeah Heavy And A Bottle Of Bread 5. Please Mrs. Henry 6. I Shall Be Released 7. Too Much Of Nothing 8. Crash On The Levee (Down In The Flood) 9. Lo And Behold 10. Tiny Montgomery 11. Open The Door, Homer
12. Nothing Was Delivered 13. This Wheel's On Fire 14. You Ain't Going Nowhere