今年に入ってからZEPの新音源がコンスタントに発掘される状況には驚かされるばかりですが、家で過ごす時間が増えた分、世界中のマニアが音源整理に勤しんでくれているのでしょう。1969年の新音源と言えば「ATLANTA POP FESTIVAL 1969」が記憶に新しいところですが、今度は11月7日のウインターランドが発掘されたのです。マニアならご存じの通り、この日は古くからオーディエンス録音が存在していましたが、それとはまったくの別録音。従来の音源「recorder 1」は音像が近い割に音がモコモコにこもっているというビンテージ・オーディエンス丸出しな状態で、マニアをもってしても「もう少し音が良ければ…」と思わせるような音質でした。そのせいでアイテムのリリース数も限られていたほど。それどころか2010年代を迎えてからは一切のリリースがなく、完全に見過ごされた音源という状況にまで堕ちてしまいました。しかし今月発掘された「recorder 2」は録音状態がまるで違う。「recorder 1」のような音像の近さの代わりに奥行きのある音像であり、なおかつ50年以上に渡って眠っていたとは思えない鮮度とクリアーな質感。しかも驚いたことにステレオで録音されており、これがまた奥行きやクリアーさと相まって非常に聞きやすく感じる。演奏のディティールだけなら「recorder 1」の方が近かったにもかかわらず、トータルな聞きやすさは今回の音源が圧勝。また「recorder 1」はカット個所が多く、中でもライブ終盤の「How Many More Times」でプラントが「The Hunter」パートを歌い始めると録音が終わってしまうという大きな欠点がありました。今回の音源はカットそのものが少ない上、「How Many More Times」は遂に完全収録。まだ「Whole Lotta Love」がレパートリーとして本格投入される前の時期ですので、その分この曲のメドレー展開がエスカレートするという69年後半らしい演奏。それは「recorder 1」と比べて倍近い収録時間となっており、20分を超えるもの。この「How Many~」完全収録というだけでも世界中のマニアを驚かせるに十分な快挙だったのですが、今回の音源の真価は別のところにあった。同曲を終えた後にフィナーレとして別の曲が演奏されていたのです。69年最後のアメリカ・ツアーと言えば前日のウインターランドがもっとも収録時間が長く、なおかつ聞きやすい音源としてマニアに認知されています。そこではエディ・コクランのカバーがフィナーレに演奏されており、この日もカバーで締めくくり…かと思いきや、披露されたのは何と「Bring It On Home」!これまで69年のライブ演奏が一切存在しておらず、ステージ・レパートリーに加えられたのが翌年だとばかり思われていた曲が何と69年の内に演奏されていたとは。秋のツアーからはセカンド・アルバムのリリースに伴い新曲が徐々に投入されていったのですが、始めからレギュラー扱いだったのは「Heartbreaker」に「What Is And What Should Never Be」、そして「Moby Dick」の三曲だけ。後にライブを締めくくる定番と化す「Whole Lotta Love」はどのようにレパートリーに取り込むかの思案中であり、「Bring It On Home」まで69年に投入されているとは到底考えられなかったのです。その演奏にも驚きを禁じえません。既にライブのアレンジが完成されていて、イントロは始まるとすぐに観客の手拍子を求めるあのスタイル、そして何より演奏の後半でボンゾとジミーの掛け合いとなる展開が既に仕上がっている。そこから推測するに、本曲はこの日より前からステージで演奏されていたのではないか。というのも秋のアメリカ・ツアーは元から音源の存在が希少で、なおかつライブのフィナーレまで捉えた音源となると先に触れた6日のウインターランドだけ。それ以前の公演で存在しない音源、あるいはフィナーレまで録音されていない音源を合わせるとトータルで11公演となります。それらのどれか一日でも「Bring It On Home」が試されていたとしても何ら不思議はない。そんな風に勘ぐってしまいたくなるほど今回発掘された最古のライブ演奏の完成度は高いものでした。こうした大きなトピックがあったことからライブ終盤の内容を先に触れてしまいましたが、今回の録音はZEPの前座を務めたアイザック・ヘイズの演奏で客席からの録音を試している断片から始まっているのも貴重。ZEPも短期間でしたが後に彼の「黒いジャガーのテーマ」を盛り込んだ時期があった訳で、ある意味貴重な邂逅と呼べるのでは。それに69年の初頭にアメリカをツアーしていた時期にはカバーも含めてブルース色の強い演奏を披露していたバンドがセカンド・アルバムのリリースを機にハードロック寄りなレパートリーやサウンドへと変化し始めた様子をステレオかつクリアーな音質で捉えてくれているのもポイントが高い。そうした変化を表すかの如く「Babe I'm Gonna Leave You」はこの日が最後の演奏となっただけでなく、69年初頭の演奏と比べ明らかにハードに演奏されている点もサウンドの進化を物語っている。そして「Heartbreaker」に「What Is And What Should Never Be」といったセカンド・アルバムからの新レパートリーは実に初々しい演奏ぶりで、特に前者は「お約束感」のまったくない雰囲気をこれほどの高音質で聞かれるのが実に貴重。音質だけでなくカットが少ない点でも長けた今回の音源に生じたカットがもう一つの新レパートリーでドラムソロの「Moby Dick」だったというのは不幸中の幸い(笑)ですが、そこは「recorder 1」をパッチしてありますので、なおさら今回の音源のずば抜けた鮮度とクリアーさを実感してもらえるでしょう。世界中のマニアを驚かせる「新ソース」の発掘というだけでなく、音質が良くてしかも歴史的に貴重な場面まで捉えた衝撃の発掘。なかなか音源に恵まれなかった69年最後のアメリカ・ツアーから「まずはこれ」という定番の誕生でもあります!
Winterland Ballroom, San Francisco, CA, USA 7th November 1969
Disc 1 (58:25) 1. Walk On By (Isaac Hayes) 2. Intro 3. Good Times Bad Times (intro)/Communication Breakdown 4. I Can't Quit You Baby 5. Heartbreaker 6. Dazed and Confused 7. White Summer/Black Mountain Side
Disc 2 (63:48) 1. Babe I'm Gonna Leave You 2. What Is And What Should Never Be 3. Moby Dick 4. How Many More Times 5. Bring It On Home