元々演奏の素晴らしさ、そしてラジオ音源であることからも人気であった本公演ですが、今回は近年発掘のロウ・ジェネレーションのブロードキャスト・マスターからリマスタリング収録。マスターは高音質ながらやや低域に締まりがありませんでした。おさがりの運動靴を履かされて体育館に立った少年が感じるぶかぶか感ように。今回のリマスタリングで新たに靴ひもを通しキュッと引き締めたことで、マイケル・ヘンダーソンのファンク・ベースの輪郭が浮かび上がっています。1970年前後のマイルス・バンドと言えばキモになるのは鍵盤奏者で、チック・コリアとキーズ・ジャレットですが、今回リリースのこのツアーではキース・ジャレットがエレピとオルガンを兼用しています。さて、この流れで本アルバムの意味深なタイトルに触れるわけですが“キースはそれを弾いたのか”というもの。もちろん歴戦のマイルス・コレクターの間では周知のネタですが改めて書くと以下の通り。北欧の前衛ジャズ・レーベルとして知られるECMでキース・ジャレットが初ソロ作『フェイシング・ユー』を録音したのが1971年の11月10日で、このコンサートの二日後。つまり、アルバム収録を直前に控えたキースはステージで長いソロ・セクションのうちにアルバム『フェイシング・ユー』の曲のフレーズを弾いたのかどうか?という訳です。マニアの間では「あのフレーズがあった」等いろいろ意見がありますが、ここは是非各自改めて思いを巡らせ研究結果をSNSに投稿してみてはいかがでしょう。話題となっているそのキースのソロ・パートは“イエスターナウ”と“イナモラータ”の間を繋ぐ形であるわけですが、今回は“キース・ジャレット”としてクレジットし、トラックIDを設けてあります。補足として曲名クレジットですが、“イナモラータ”も元は“ファンキー・トンク”として広く流通ておりましたが再調査し“イナモラータ”が最も的確であると結論付けました。そしてディスク1にクレジットの“シヴァド”。これはマイルスがワウワウ・トランペットで“ホワット・アイ・セイ”の合図らしきフレーズを繰り出すもリフが変わらずインプロヴィゼイションが長く続くシーン。その後改めて示されたフレーズで狂乱の“ホワット・アイ・セイ”になだれ込むのです。従って厳密には“ホワット・アイ・セイ”に繋がるインプロヴィゼーションなのですが、“シヴァド”と題してトラックIDを設けたわけです。そもそも“シヴァド”とはアルバム『ライヴ・イーヴル』収録のテオ・マセロが1970年セラー・ドア12月19日の公演を編集して生み出したタイトル(DAVISを逆さ読み)。従って厳密に“曲”というわけではないのですが、世界的マイルス・コレクターPeter Losin氏の説に敬意も込めて、“シヴァド”としました。“イッツ・アバウト・ザット・タイム”も『イン・ア・サイレントウェイあたりのものとは似ても似つきませんが、まあそもそもセットリストなんてマイルスに言われれば「Call It Anything(何とでも呼んでくれ)」と言うわけで、とにかくこの素晴らしいコンサートを素晴らしい音質でお楽しみくださいませ。
Recorded Live at Tivoli Konsertsal, Copenhagen, Denmark, November 08, 1971 24bit Digitally Remastering from Radio Broadcast Master.
DISC 01. DIRECTIONS 02. HONKY TONK 03. SIVAD 04. WHAT I SAY 05. SANCTUARY DISC 2 01. IT'S ABOUT THAT TIME 02. YESTERNOW 03. KEITH JARRETT 04. INAMORATA - SANCTUARY (Closing Theme)
Miles Davis – trumpet Gary Bartz - soprano saxophone, alto saxophone Keith Jarrett - electoric piano, organ Michael Henderson - electoric bass Leon "Ndugu" Chancler – drums Charles Don Alias - conga, percussion James Mtume Forman - conga, percussion