マイク・ミラードによるロッド・スチュワートの録音と言うと「L.A. FORUM 1977: MIKE MILLARD MASTER TAPES」が記憶に新しいところですが、せっかくの極上音質だったにもかかわらず、いかんせんショーの途中からの録音という点が惜しまれました。その点、今回のミラードによる新たなロッド音源はしっかりコンプリート。それ以上に音質が素晴らしい。ロングビーチ・アリーナというLAフォーラムと並んでミラードにとって勝手知ったる他人の家レベルの会場です、いかにも彼らしい「奇跡がデフォ」クオリティが炸裂。ロッドのボーカルはもとよりバンドの演奏も見事な音像で捉えてくれている。このレベルならマニアでなくとも存分に堪能できるレベルかと。何より77年の雪辱を見事に晴らしてくれたウルトラ・レコーディングなのです。ロッド流エイティーズ・サウンドへのアプローチが功を奏して大ヒットを記録した名盤「TONIGHT I'M YOURS」を引っ提げた1982年ツアーはライブアルバム「ABSOLUTELY LIVE」という副産物を生み出しましたが、この日も同アルバム用の収録が行われた日。ロッド自身も「Sweet Little Rock and Roller」を歌い終えたところで「ライブアルバム用にレコーディングしてるからね」と語りかけています。ただでさえ盛り上がっていたロングビーチのオーディエンスはこの知らせに対して大興奮。ここでミラード録音の真価が発揮されます。そう、演奏の音像が抜群にオンなバランスでありながら、それでいてライブならでは「場の空気」と「盛り上がり」をストレスにならない絶妙のバランスで捉えてくれている。これぞミラード録音でしか味わえない醍醐味というもの。それがスターダムの絶頂期にあったロッドのライブの熱狂や興奮もあますことなく伝えてくれるという。それと同時に、今回ショーすべてを捉えた音源が登場したことによって「ABSOLUTELY LIVE」では少なくとも「Hot Legs」、「You're In My Heart」、「Young Turks」そして「Maggie May」がロングビーチから採用されていたことが判明しました。おまけに「Hot Legs」はバンドメンバーが短いソロ回しを展開させていた間奏が短く編集され、「Maggie May」は途中でロッドの声が疲れをみせていたことから差し替え、あるいは別公演との編集という形で収録されていたことも判明したのです。こうした驚きの新事実を明らかにしてくれたのも全長版ならでは。さらに「ABSOLUTELY LIVE」は10年前にExpanded Editionがリリースされたものの、途中でクラプトンの「Layla」にメドレーするこの時期ならではの「(I Know) I'm Losing You」の収録は同曲の楽曲使用料が発生することから叶いませんでした。つまりオフィシャルでは複数の公演からまとめられたというだけでなく、そのせいでどうしてもセットリストを完全再現できない事情があった。この点においても今回のリリースの価値たるや計り知れないものがある。その上、先のようなオフィシャルのライブアルバムにありがちな編集や手直しが加えられたということまで今回の音源が暴いてくれたのだから、やはりオーディエンス録音がドキュメントとしても重要であることを再認識させられる思いです。それでいて音質や臨場感が絶妙のバランス。そうなると「Tonight I'm Yours (Don't Hurt Me)」の序盤で一瞬だけ音がモノラルになるトラブルも微塵な問題でしかない。これはもうマニアだけでもなく一般のリスナーにも体験していただきたい最高のオーディエンス・アルバム。
Long Beach Arena, Long Beach, CA, USA 24th March 1982 ULTIMATE SOUND
Disc 1 (58:38) 1. Intro 2. Tonight I'm Yours (Don't Hurt Me) 3. Sweet Little Rock & Roller 4. Hot Legs 5. Tonight's The Night (Gonna Be Alright) 6. Passion 7. She Won't Dance With Me 8. Little Queenie 9. You're In My Heart 10. Rock My Plimsoul 11. How Long 12. Young Turks
Disc 2 (62:57) 1. (If Loving You Is Wrong) I Don't Want To Be Right 2. You Wear It Well 3. (I Know) I'm Losing You 4. Drum Solo 5. (I Know) I'm Losing You (reprise) 6. Gasoline Alley 7. Maggie May 8. Da Ya Think I'm Sexy? 9. I Was Only Joking 10. Tear It Up 11. Stay With Me
Rod Stewart - vocals Jim Cregan - guitar, backing vocals Robin Le Mesurier - guitar, backing vocals Wally Stocker - guitar Jay Davis - bass, backing vocals Kevin Savigar - keyboards, piano Jimmy Zavala - harmonica, saxophone Tony Brock - drums, backing vocals