レッド・ツェッペリン1975年アメリカ・ツアーの序盤の音源と言えばシカゴ公演の印象が非常に強いかと思われますが、実際のツアーで初日を飾ったのは3月18日のブルーミントン、メット・センター。今は存在しないミネアポリスのアリーナで行われたツアー初日は長いこと音源が発掘されず、ベールに包まれたままの一夜となっていました。そんな幻のツアー初日の音源がようやくほのめかされたのは昨年のこと。いきなり「The Wanton Song」の断片を捉えたPAアウトのサウンドボードがYouTube上に出現。世界中のマニアが色めきだったものでした。その後もツアー序盤もう一つの目玉である「When The Levee Breaks」を始めとしていくつかの曲のPAアウトのサウンドボードがほんのさわりだけ公開。今までオーディエンス録音すら発掘されていなかった日ということから、いかにも「ブルーミントンのSBD秘匿してます」的な状況は衝撃を与えたと同時に、むしろマニアを苛立たせる状況となってしまったのも事実。何しろロバート・プラントが風邪をこじらせてしまう前のステージを捉えている、なおかつツアー序盤だけの極度にレアなレパートリーも含んでいるとなれば、全貌を聞いてみたくなるのが当然でしょう。ところがSBDの公開に関して事態が進展する兆しはなく、むしろ今年に入ってから驚くほど充実した初期ZEPライブ音源の発掘が続くという夢のような状況の中、昨年のSBD小出しインパクトはあっという間に薄れてしまった感が否めません。マニアにとってフラストレーションが溜まるだけでしかなかった75ブルーミントンですが、そこに衝撃的な救いの手が差し伸べられたのです。今月に入った途端に突如ネット上に現れた同日のオーディエンス録音。これまで客席からの記録も一切確認されていなかっただけに、これは新たな衝撃を与えてくれました。この驚きの音源を発掘してくれたのは、かの1969年アトランタ・ポップ・フェスティバルの発掘も記憶に新しい” The Dogs of Doom”チーム。これぞマニアが聞きたかったというような音源を発掘してくれるものだから彼らは本当に心強い。考えてみればアメリカで人気の絶頂に達していた時期であり、なおかつ多くの人が詰めかけるアリーナでのコンサート。これ程まで長い間オーディエンス録音が発掘されなかったのが不思議なくらい。そんな歴史的なアメリカ・ツアー初日であれば、仮に壁の向こうから聞こえるような音だとしてもマニアは有難く聞きこんだことでしょう。しかし嬉しいことに今回のオーディエンス録音はビックリするほど聞きやすいクオリティであることも注目すべき点。距離感のある音像でありながら、それでいて周囲が異常なほど静かという環境のおかげで本当に聞きやすい。かといって会場が白けているかと言えばそんなことはなく、オープニング「Rock And Roll」が始まると普通に盛り上がっている。にもかかわらずショー全体を通して周囲が静かというのは、録音の観点からすると奇跡的な環境だったと言えるかもしれません。一方で演奏が激しめな曲になると若干ながら音が割れてしまう箇所があるのですが、それですら聞いていてストレスに感じるようなレベルではない。モノラル録音で奥行きのある音像としっとりナチュラルな音質がまた独特の聞きやすさへと結びついているように思われます。そもそも音源の鮮度自体が素晴らしく、とても45年もの間眠っていた音源だとは思えません。そして演奏内容ですが、これはもう聞きどころの連続。既にこの時点でジミーは指を怪我していた訳ですが、そのせいで「Rock And Roll」や「Over the Hills and Far Away」のソロになると随所でフレーズが引っ掛かり気味。80年ならまだしも(苦笑)さすがに75年でこの調子はありえない訳で、なるほど悪戦苦闘していたのだと再確認させられます。だからこそトミー・ボーリン状態で指に負担のかからないボトルネックで弾き通せる「When The Levee Breaks」が導入された訳ですが、これで同曲三テイク目のライブバージョンが発掘。75年ライブ初披露かつウォームアップだったブリュッセルと比べると演奏が引き延ばされているのですが、その反面6分を迎えたところでジミーのスライドのフレーズが「ネタ切れ」状態と化して間延びしてしまいます。そこで次のライブ披露だったシカゴでは演奏が後半に向かうとボンゾがメリハリをつけたドラミングを心掛けたのではと思える。そもそも曲自体が単調ですし、それをエフェクトで演出していたアルバムバージョンと比べるともっさりした演奏に陥りそうな印象はブリュッセルやシカゴ初日と変わりません。しかし特筆すべきはシカゴ初日と違ってプラントが風邪をひいていないという事実。これで三つのライブバージョンが聞かれるようになった「When The Levee Breaks」ですが、その演奏自体はシカゴ初日に軍配が上がり、プラントのボーカルは今回が圧勝というところか。プラントが風邪をひいていないという体調がより際立つのが例の「The Wanton Song」。これまで本曲を75年でまともに歌えてる日はブリュッセルだけでしたが、その日がウォームアップだったということもあり、ここではさらに全開な調子で歌い切るプラントが頼もしい。つくづくこの曲はプラントが歌えてこそステージで映える曲だったのだ…と思い知らされます。それと同時にオーディエンス録音とはいえ、遂にブルーミントンのレアな二曲がコンプリに聞けるようになったのですね。またブリュッセルと同様、ジミーの指の問題から75年のZEPライブなのにインプロビゼーションの応酬がまったくみられないというのが実に面白く、これまたライブの全貌が明らかになったからこそ分かった事実でもある。かろうじてインプロ的な展開が顔をのぞかせる「No Quarter」など、75年というより73年か?と錯覚しそうな展開と演奏時間ですし、当時の新曲「Trampled Under Foot」にしてもジミーは頑張ってソロを弾いているものの、それでも後のバージョンと比べると展開はずっと短い。皮肉なことに、ジミーの怪我によって演奏がエスカレートしないという、言うなれば楽曲の土台状態を捉えた記録でもあった訳です。当然「Dazed And Confused」は取り上げられず、代わりの「How Many More Times」すらこの時点では導入されていない。そのせいで最大のインプロビゼーション・コーナーは「Moby Dick」という結果に。しかもここで聞かれるドラミングが「Moby Dick」史上に残るほどレアな展開を見せているという。14分を過ぎたところでボンゾはエンディングのパターンを叩き始めたものの、何と誰もステージに現れず慌ててドラム・ソロに戻るという抱腹絶倒の展開となったのでした。まるで舞台袖から「もう少し続けろと」指図された様が浮かぶような場面で、結局16分に差し掛かったところでもう一度エンディングに向かうというレアで爆笑の「Moby Dick」だったのです。惜しむらくは同曲の後に演奏された「In My Time Of Dying」、さらにライブ終盤が未収録という不完全状態なのですが、それでも聞きどころ満載な音源であることが理解いただけたかと。そして二枚目のディスクには二回目のYouTube公開でプレビューされたSBDの断片を収録。ご存じのようにこれらはあまりに断片的な状態ですので、ボーナスというよりも、むしろ話のネタ的な収録ではありますが、これらを網羅することで万全を期しています。今後SBDの全長版が登場するとしても臨場感が犠牲となるPAアウト録音ですので、今回の客席からのドキュメントは聞きやすい音質と相まって価値が色褪せることはないでしょう。遂に75年アメリカ・ツアー初日のステージが聞けるようになりました!
Met Center, Bloomington, MN, USA 18th January 1975
Disc 1 (54:14) 1. Intro 2. Rock And Roll 3. Sick Again 4. Over The Hills And Far Away 5. When The Levee Breaks 6. The Song Remains The Same 7. The Rain Song 8. Kashmir 9. The Wanton Song
Disc 2 (54:35) 1. No Quarter 2. Trampled Under Foot 3. Moby Dick 4. Stairway To Heaven Bonus Tracks SOUNDBOARD RECORDING 5. When the Levee Breaks 6. The Song Remains the Same 7. The Wanton Song 8. Black Dog