錚々たる英雄たちが交錯するYES史でも唯一無二の輝きを放ち、70年代プログレッシヴ・ロックの頂点期でもあったパトリック・モラーツ時代。その現場を極上体験できるライヴアルバムがリリース決定です。そんな本作に収められているのは「1975年6月23日ロングビーチ公演」。マスター・クオリティでショウ完全収録した絶品オーディエンス録音です。その気になるサウンドの前に、まずはショウのポジション。モラーツ時代と言えば、公式映像『LIVE: 1975 AT Q.P.R.』が象徴でもありますので、併せてワールドツアーの日程で確認してみましょう。1974年《8月:パトリック・モラーツ加入》
・11月8日-25日:北米#1a(13公演)《11月28日『リレイヤー』発売》・11月28日-12月17日:北米#1b(18公演)1975年・4月15日-5月17日:英国(24公演)←※公式映像・6月17日-7月25日:北米#2(32公演)←★ココ★・8月23日:レディングフェス出演 これが“REALYER TOUR”の全体像。本作のロングビーチ公演は、その終盤。公式映像『LIVE: 1975 AT Q.P.R.』の約1ヶ月半後となる「北米#2」の7公演目にあたるコンサートでした。そんなショウで記録された本作のサウンドは安定感抜群で、70年代のトップクラス録音。オーディエンス・ノイズの類もなく、演奏に集中できる銘品です。軽くなりがちな低音もたっぷりと封入されていながら、音割れを起こすこともない滑らかサウンド。特に、アラン・ホワイトのドラミングは素晴らしく生々しい。その中からジョン・アンダーソンの歌声やスティーヴ・ハウのギターが綺麗に浮かび上がるのです。そのサウンドで描かれるのは、他のどの時代とも違う“モラーツYES”のフルショウ。このツアーには1974年ボストン公演のサウンドボードが有名です(当店の決定盤『THE YEARS OF DELIRIUM』でお楽しみ頂けます)が、そちらは曲が放送自体が不完全。それに対し、本作は2時間超えのほぼフル録音です。ここで、その内容もチェックしておきましょう。・時間と言葉:Sweet Dreams(★)
・サードアルバム:Your Move(★)/Clap(★)・こわれもの:Mood For A Day(★)/Long Distance Runaround(★)/Roundabout・危機:Close To The Edge/And You And I・海洋地形学の物語:Ritual・リレイヤー:Sound Chaser/To Be Over/The Gates Of Delirium ※注:「★」印は1974年ボストン公演サウンドボードでは聴けない曲。……と、このようになっています。ざっくばらんに言って『LIVE: 1975 AT Q.P.R.』に酷似しているのですが、あの映像は「名ばかりオフィシャル」と言っても過言ではない。そもそもがモノラル音声ですし、ショウ冒頭でいきなり機材トラブルも発生してミックスが崩壊するという体たらくでした。しかし、本作は美麗サウンドでフル体験が可能。しかも、独特なサウンド・バランスが“モラーツYES”のロックな一面を浮き立たせてもいる。多彩な才能が入れ替わるYESにおいて、人気ナンバー1の鍵盤奏者といえば、間違いなくリック・ウェイクマンですが、その華麗な世界はロックなタフネス、ワイルドさとはちょっと距離がありました。しかし、パトリック・モラーツは、リックと同じくクラシックに根ざしながら、よりジャズやリズムに傾倒したスタイル。鍵盤が持つ「打楽器」としてのタッチが際立ち、“ロック=ビート・ミュージック”を思い起こさせてくれるのです(もちろん、YESミュージックの範疇であり、ELPやREFUGEEになってしまう訳ではありませんが)。しかも、そうしたスタイルが他のプレイヤーをも刺激し、ワイルドな楽器の交感に繋がっていく。リックが「曲を華麗に盛り立てる」のに対し、「演奏をビビッドに際立たせる」のがモラーツです。そんな“リレイヤーYES”の個性が殊更輝くのがライヴであり、本作のビート、ロック感覚なのです。例えば「To Be Over」。後半のトリッキーなシンセソロも聴きどころですが、ハウのスライドも含めて全楽器が有機的に交わる演奏が絶品。エンディングも全員が絡みあうベスト・テイクです。新曲だけでなく、過去のレパートリーも「RELAYER」色。硬質でメタリックなハウが全体をひっぱる「Close To The Edge」でも、4分台でハウとアランの絡みあい、最後の最後まで緊張感が途切れません。さらにさらに「And You And I」のイントロでは、リックとは違うシンセソロが聴けるほか、曲後半のハウのオカズの多彩さも他のツアーでは聴けないもの。また、“リレイヤーYES”の音源というと、ジョンの調子が今ひとつのものも多いのですが、本作は歌声も素晴らしい。調子が良い上に録音も生々しさも手伝って、たっぷり2時間16分に渡るフルショウを堪能できます。とかくフレーズや演奏の正確さばかりが議論になりがちな時代ですが、モラーツ効果は彼自身のプレイだけでなく、アンサンブル全体に波及して、クリエイティブなムードを生み出すところにもある。本作は、その“全体を変える力”を十二分に味わえる絶好1本なのです。“モラーツYES”の真価にまで考察したくなる名録音。Live at Long Beach Arena, Long Beach, CA. USA 23rd June 1975 PERFECT SOUND
Disc 1(67:17) 1. Firebird Suite 2. Sound Chaser 3. Close To The Edge 4. To Be Over 5. Gates Of Delirium
Disc 2(68:37) 1. Your Move 2. Mood For A Day 3. Long Distance Runaround 4. Moraz Solo 5. Clap 6. And You And I 7. Ritual 8. Roundabout 9. Sweet Dreams Jon Anderson - Vocals Steve Howe - Guitars Chris Squire - Bass Patrick Moraz - Keyboards Alan White - Drums