オアシス2000年代の活動の中においても、特に勢いを感じさせる時期だったアルバム「HEATHEN CHEMISTRY」ツアー。それまで彼らが行っていたライブ活動と比べてもツアーに費やされた期間が非常に長く、それはほぼ一年と言っていいほどの長さでした。おかげでリアタイ、現在を問わず様々なライブがリリースされ続けており、ここ一年だけでも「BERLIN 2002 DAT MASTER」、「COMPLETE WITNNESS FESTIVAL 2002」といった海外公演、「YOYOGI 2002 1ST NIGHT: DAT MASTER」に「YOYOGI 2002 FINAL NIGHT」といった日本公演勢がCDにて登場しました。とはいっても、こうした状況が当てはまるのは2002年レグ…もっと言えば日本公演までの話。特にわが国では秋の来日まで本当に盛り上がっており、来日音源はリアタイでポンポンとリリースされ続けていた。ところが、それが終わった途端に日本はもちろん、世界的にも「HEATHEN CHEMISTRY」ツアーへの関心が薄れてしまったかのように思えてなりません。ツアー自体は年末まで行われた後、翌年の3月に短期ヨーロッパ・レグが行われて閉幕となっています。この時期に関してはそもそもアイテムの数が少なく、それどころかプレスCDのアイテムというのは現在に至るまで存在しない。こうした要因の一つには、2002年を費やしたライブ活動のせいでリアムの声が相当にくたびれており、まるで日本公演で全てを出し切ったのかと思えるような状況があります。実際、現存する年末の音源を聞いてみても彼の声の調子は良くない。それを差し引いてもこの時期のアイテムというのは極端に少ないものですし、あるいはツアーから20年近く経過した今、「HEATHEN CHEMISTRY」ツアー後半の音源や演奏を聞いたことがないというマニアがほとんどではないでしょうか。そんな状況を打破すべく今回リリースされるのは2003年3月9日のデュッセルドルフ公演。この日のオーディエンス録音は非常に音質が良く、文句なしにプレスCDが相応しいレベルのクオリティ。音像が近くて非常にクリアーな録音状態。ですがリアタイでは音源が広まらなかったことからアイテムが生み出されず、さらに音源の登場後にも問題を抱えていたのです。それは2000年代の後半に本音源がネット上に出回った際、DATテープの経年劣化が生じてデジタル・ノイズがいくつもの個所に混入してしまったという。特にライブ開始からの二曲にそれが顕著であり、これこそが音質の秀でた音源を出せなくさせてしまっていた原因だったのです。ところが幸いなことに2021年の今、テクノロジーの進化したことの恩恵を受け、リリースに際してそれらのノイズをすべて削除することが可能となりました。元の音源を聞いたことのあるマニアであれば、今回のクリーンアップぶりには間違いなく驚かされることかと。その徹底した作業はノイズの除去だけにとどまりません。例えば「Better Man」で生じていた録音ボリュームの変化まで対応、もはや元の録音とは比べ物にならないほど安定した状態へと磨き上げてみせたのです。そして内容は聞きどころの連続といっても過言ではない。「HEATHEN CHEMISTRY」ツアー最後のお務めとなった2003年短期レグを開始するに当たってセットリストはテコ入れ。何と言ってもオープニングは驚きの「Bring It On Down」。アラン・ホワイトが同曲を叩いたのはこの短期ツアーだけですし、本家トニー・マッキャロルのストレートさとはまったく違うアラン節が全開な跳ねたリズムが新鮮。おまけに今回のリリースで初めて本曲のアラン・バージョンを聞く人も少なくないのでは。ただし歌が始まるとリアムの声のキレが悪い。まるで2005年の悪名高き「ニャンちゅう声」の芽生えかと錯覚しそうになるほど。ここでの彼の調子に関してはライブの進んだ「Little By Little」演奏前でノエルが明らかにしてくれるのですが、どうやらリアムは風邪をひいていたそう。2003年ツアーでアイテムがリリースされていた数少ない公演だったダブリンの二日間はそんなことはなかったで、ドイツへの移動中にでも風邪をひいたのでしょう。ところが幸いにもデュッセルドルフでのリアムはすぐに復調。それに2005年と違って喉年齢が二年も若かったことがモノを言っています。おかげで前年には演奏されなかった「Supersonic」もサラリと歌いこなし、この短期ツアーではアンコール前の締めくくりレパートリーとして復活した「Champagne Supernova」もまたしかり。それ以上に2003短期レグ最大の聞きものと言えば希少なリアタイ・ライブ演奏である「Songbird」。2005年以降はオアシスの解散までレギュラー・レパートリーと化した名曲ですが、「HEATHEN CHEMISTRY」ツアーでのライブ披露は2003年のたった8回だけというもの。今となってはリアタイで披露されていたことすら知らない人の方が多いかもしれません。2005年以降のレパートリーとして定着したバージョンと比べると演奏は原曲の雰囲気に輪をかけてシンプルなもので、まだ後のライブのようなノエルのハモリはなく、しかも作者であるリアムが自らカウントして演奏が始まるというのが面白い。また「Cigarettes & Alcohol」のブレイクでノエルがビートルズ「Day Tripper」のリフを弾くというパターンもこの時期だけのレアなアレンジとしてマニアの間に語り継がれてきましたが、そのリフから無理やり曲に戻る展開が実に面白い。この2002年末からごく短い期間だけで聞けた貴重なアレンジが初め収められたというのも快挙ではないかと。そんなノエルがカウントのタイミングを見逃してしまいイントロが長くなってしまった「Force Of Nature」といった愉快なハプニングまで捉えられている。今までツアー序盤のダブリンしかアイテムの存在しなかった2003年短期レグ、そこから初リリース音源かつ初めてのリリースが実現します。何より同じ「HEATHEN CHEMISTRY」ツアーでも2002年とは違った構成や演奏が新鮮に映ず!
Philipshalle, Dusseldorf, Germany 9th March 2003 TRULY PERFECT SOUND
Disc 1 (53:18) 01. Fuckin' In The Bushes 02. Bring It On Down 03. The Hindu Times 04. Hung In A Bad Place 05. Supersonic 06. Columbia 07. Morning Glory 08. Stop Crying Your Heart Out 09. Little By Little 10. Cigarettes & Alcohol 11. Champagne Supernova
Disc 2 (37:37) 01. Better Man 02. Songbird 03. Born On A Different Cloud 04. Rock 'n' Roll Star 05. Force Of Nature 06. Dont Look Back In Anger 07. My Generation Liam Gallagher - vocals, tambourine Noel Gallagher - guitar, vocals Gem Archer - guitar Andy Bell - bass Alan White - drums