『ANIMALIZE SESSIONS』『PSYCHO CIRCUS DEMOS & OUTTAKES』が好評を博しているISSの名盤デモ・シリーズ。その第三弾となる『REVENGE』篇が登場です。『REVENGE』と言えば、故エリック・カーに捧げられたノーメイクKISS最後の名作なわけですが、一方で制作裏舞台が透けるデモ音源が流出したことでも知られています。本作は、その流出音源を最高峰版マスターからCD化。そのクオリティは極上。先日ご紹介した『PSYCHO CIRCUS DEMOS & OUTTAKES』と比べるとサウンド・プロダクションは薄いですが、それは音質の問題ではなく、制作段階の話。ほとんど完成形だった『PSYCHO CIRCUS』篇に比べ、本作はバッキングのテイクが多い。オーバーダブや加工を経ておらず、楽器の生音が丸出し。むしろ、脳みそド直結に流し込まれるシンクロ感は本作の方が上なくらいです。しかも、本作は既発群で狂いまくっていた(おおそよ半音の30%ほど)ピッチも正常。既発で聴けたテイクでもビシッと生まれ変わっているのです。また構成面でも『PSYCHO CIRCUS』篇と大きく違う。『PSYCHO CIRCUS』篇では全曲のデモが揃っていて「名盤の別バージョン」だったわけですが、本作はアルバム全12曲中8曲分だけ。その代わり(?)いくつかの曲かは何テイクも収録され、制作段階を追う子ともできます。デモ・テープ自体には(おおよそ)時系列順で録音されているようですが、ここでは曲単位でご紹介していきましょう。Heart Of Chrome(3テイク) 最初に登場するのは、ポール・スタンレーとヴィニー・ヴィンセントのコラボレーションが復活した「Heart Of Chrome」。「Instrumental」「Scat Vocals」「Expo Instrumental」の3テイクが収録さています。「Instrumental」は文字通りの歌なしバージョン。バッキングだけではありますが、完成度は結構高い。最終盤とテイクまで同じかは分かりませんが、ツインのからみもしっかりとしており、サウンドも極上です。続いて登場する「Scat Vocals」は、ほとんど出来ているバッキングに仮歌を乗せたもの。意味のないスキャットで歌われているものの、単なるハミングではなく、何となく歌詞っぽい発音で力強いシャウトも交える。意外なほど普通に聴けてしまうテイクです。3つ目は本作の最後に収録されている「Expo Instrumental」バージョン。これのみ音質が2ランクほど落ちますが、バッキングに留まらず熱くアグレッシヴなリードギターも聴けるテイクです。Take It Off(3テイク)「Heart Of Chrome」と同様に最多3テイク収録なのが元ALICE COOPER BANDの筋肉ギタリスト:ケイン・ロバーツとの共作曲。「Instrumental」バージョン2種と「Scat Vocals」です。バッキング2種聴き比べるのも良いですが、やはり耳を惹くのは「Scat Vocals」バージョン。完全に意味を成さないハナモゲラ語なのですが、意味があるように聞こえるから面白い。ポールの頭の中にはある程度の歌詞ができているのか、それとも即興の特技なのでしょうか。Tough Love(2テイク)『REVENGE』で唯一ブルース・キューリックのペンによる曲。ここでも「Instrumental」と「Scat Vocals」の2テイクが聴けます。「Scat Vocals」ではかなりハッキリと「I want to take you down」と歌い出し、「お、歌詞ができてる」と思わせつつ、その急速にハナモゲラになっていくのが可笑しい。しかも、他の曲よりもあやふやなハミングにまで崩れる。サビだけ決まっているデモというのはよくありますが、歌い出しだけ決めてあるのは珍しいかも知れません。ポールが何を足がかりにして書いていくのかが興味深いテイクでもあります。Thou Shalt Not(2テイク)ここまではポールの曲でしたが、いよいよジーンの曲も登場。「Instrumental」と「Expo Alternate Version」の2テイクで楽しめます。ポールとジーンの個性はKISSの強力な武器となってきたわけですが、こうしてインストで聴いてみると歌がなくても作風の違いが鮮烈。「Expo Alternate Version」では歌詞もしっかりとしたヴォーカルも入ります。その他(4曲・4テイク)「Just I Wanna (Instrumental)」「Every Time I Look At You (Scat Vocals)」「Unholy (Alternate Version)」「Paralyzed (Extended Mumble)」本作には、他にも4曲のデモが1テイクずつ収録されています。ヴィニーとポール共作の「Just I Wanna」は「Instrumental」バージョンの1テイクのみの収録です。アカペラで始まり、キャッチーなコーラスでグイグイ押す曲だけにインストではかなり物足りない。その代わり、ぶ厚いコーラスの影に隠れていたリフやバッキングは細部までハッキリ分かるデモらしいテイクです。ポールが切々と歌う「Every Time I Look At You」は歌詞も出来ていない初期バージョン。しかし、歌詞以上に素晴らしいのがアコギとピアノだけのバッキング。シンプルだからこそ美しいメロディが映える珠玉のテイクです。一転してヘヴィに迫る「Unholy」は実に凶暴。このテイクは音質が2楽くらい下がるのですが、それが軋むギターの迫力を何倍も引き上げている。もしかしたらローファイにしたどうなるかわざわざ作ってみたのかも知れない……そんな妄想にまで駆られるハマり具合です。「Paralyzed」は約30秒のパーツ録音です。……以上、全8曲・14テイク・54分51秒の秘宝集です。インストが多い事からも「名盤の別バージョン」というよりは「制作過程を詳らかにする」タイプのデモ・アルバム。ベスト・マスターのサウンドと正確に整ったピッチでスタジオの内幕を描き出してくれる1枚です。『ANIMALIZE』『PSYCHO CIRCUS』篇に続く、関係者流出デモ・シリーズの第三弾。ノーメイクKISS最後の名作『REVENGE』のデモ・アルバム、流出音源を最高峰版マスターからCD化したもので、既発では大胆に狂っていたピッチも正確に整った最高峰盤です。バッキングのインスト・テイクではオーバーダブや加工を経ていない生々しいサウンドが鮮烈ですし、ポールによる仮歌バージョンでは意味のないはずのスキャットがまるで未知の言語のように聞こえて面白い。Demos and Rehearsals 1991-1992 STEREO SBD (54:51)
1. Heart Of Chrome (Instrumental) 2. Heart Of Chrome (Scat Vocals) 3. Just I Wanna (Instrumental) 4. Take It Off (Instrumental #1) 5. Take It Off (Instrumental #2) 6. Take It Off (Scat Vocals) 7. Tough Love (Instrumental) 8. Tough Love (Scat Vocals) 9. Thou Shalt Not (Instrumental)
10. Every Time I Look At You (Scat Vocals) 11. UnholY (Alternate Version) 12. Paralyzed (Extended Mumble) 13. Thou Shalt Not (Expo Alternate Version) 14. Heart Of Chrome (Expo Instrumental) Paul Stanley - vocals, guitars Gene Simmons - vocals, bass Bruce Kulick - guitars
Eric Singer - drums STEREO SOUNDBOARD RECORDING