「PONTIAC 1977: UPGRADE」の記憶も新しいZEPの秘匿されていた音源の発掘チーム“Dogs of Doom”のペースがここにきて上がってきました。そのポンティアックはもちろん、デンバー72など、それらだけでも世界中のマニアを驚愕させるに十分な音源ばかりでしたが、今回は年末に相応しい驚きの発掘が。何と1971年アメリカ・ツアーからの未発表オーディエンス録音なのです!今回発掘されたのはボブ・ディランの「HOLLYWOOD SPORTATORIUM 1974 REVISITED」でおなじみ、会場名がハリウッドながらフロリダにあるアリーナにZEPが降臨した9月1日のショー。フロリダと言うことからも察しがつくかと思われますが、そう、あのPAアウトのサウンドボード録音でおなじみ「ORLANDO 1971」の翌日のステージを捉えた完全初登場オーディエンス録音。掛け値なしに世界中のマニアにとって衝撃的な発掘となるオーディエンス録音はまさにビンテージ感に溢れたもの。距離感のある音像ですが演奏の輪郭はしっかりとしており、ロバートの声に関してはさらに聞きやすい状態。余裕でプレスCDのレベルだと呼べるでしょう。とはいえ50年間も眠っていた音源ですのでテープが劣化、微妙に音が震えるワウフラ状態となっている箇所が多々あり、そこにモノラル録音という事も相まってヘッドフォンよりは圧倒的にスピーカーから鳴らした方が楽しめる音質かと。そして「Dazed And Confused」や「Stairway To Heaven」ではテープの劣化から生じたと思われるドロップアウトが散見されます。こうした問題を差し置いても十分に限定プレスCDの資格十分な新発掘音源であり、何より1971年の初登場ライブを収録した初発掘オーディエンスという価値はあまりに高い。また今回の発掘で思わぬ新事実も判明しています。ここで聞かれるフィナーレ「Organ Solo」からの「Thank You」が何とオーランドのPAアウト・サウンドボードと同じ演奏だったのです。確かにオーランドのオーディエンス録音は「Moby Dick」までの収録でしたので、21世紀を迎えて発掘されたサウンドボードにそれ以降の演奏が収録されているとなれば、すべて同日の演奏だと考えるのが自然。ところが今回のオーディエンス録音に収められている演奏と同じだった…ということで同サウンドボードに収録されていたフィナーレのパートはオーランドでなく今回のハリウッド・スポータトリアムという訳。考えてみればオーランドのサウンドボードは「Whole Lotta Love」メドレーの「Mess Of Blues」が終わってファンキーな展開に移ったところで録音が途切れていました。もともとリリースを前提としないスタッフのチェック用収録です。オーランドで録音しなかったライブ終盤パートを翌日のショーからカセットの余ったところに録音した…という公算が強いのでは。決してオーランドとハリウッドそれぞれのサウンドボードが出し惜しみしているパートがあるのではなく、元からこうした録音状態なのでしょう。それはこのツアーから残されている他のサウンドボードにおいても欠損部分が新たに発掘されないという状況から証明できるもので、いずれにせよ新事実が発覚したことになります。そしてオーランドの翌日にして狂乱のMSGの前のショーでもある。それだけでも演奏内容は保証されたようなもの。まずオープニングからして驚きの場面が。いつものようにボンゾがカウントからオープニング「Immigrant Song」を叩き始めたもののフライング気味だったのか、すぐに止めてもう一度カウントからやり直すのが面白すぎる。これに似たハプニングとして「Walk Don’t Run」で場つなぎしたLAフォーラム二日目が挙げられますが、その時と違い演奏をやり直しているというのがさらに面白い。その後は71年の夏のZEPらしい、やすやすとハイエナジー・パフォーマンスを披露する時期ならではな勢いに乗ってロバートもスクリームしまくり。「Black Dog」がその最たる例でしょうが、それにしてもこの時期の彼の声というのは絶品。とはいえオーランドでもロバートの疲れが出てしまった「Stairway To Heaven」のエンディングはここでも彼の声がひっくり返ってしまう箇所があり、本ツアーの殺人スケジュールの弊害が見て取れるもの。それでもなおトータルでは非常に素晴らしい演奏なのが71年らしい。この年の本曲はジミーのギター・ソロの展開がまったく決まっていないのも魅力の一つで、それこそ前日などは終盤でフレーズが尽きてしまったかのような展開となってしまいましたが、この日はチョーキングの連発で締めくくりを模索しているかのよう。曲が前後しますが「Dazed And Confused」も面白い。前日はエンディングで「White Summer」をジミーが弾き出したことが印象的でしたが、この日は代わりに翌年を予見させるようなファンキーな展開がエスカレート。同じ曲でも一日で演奏の表情がガラリと変わってしまうところもこの時期ならでは。そして今回の音源を録音したテーパーは「Stairway To Heaven」の後でコンサートと完全収録は不可能と悟ったのか、テープの節約を兼ねて「That’s The Way」からレコーダーを止め始め、「Moby Dick」などは演奏を丸々カットしてロバートのMCとエンディングしか聞けないという。さらに以降の曲も録音出来たもののカットが多発してしまいます。この点は惜しまれますが、それでも全編を通して71年夏のアメリカらしいハイエナジーな演奏ぶりは健在…それどころか改めてスペシャルな時期だったのだと痛感させられる衝撃の初登場音源!
Hollywood Sportatorium, Pembroke Pines, Florida, USA 1st September 1971 (78:09)
01. Intro 02. Immigrant Song 03. Heartbreaker 04. Since I've Been Loving You 05. Black Dog 06. Dazed and Confused 07. Stairway To Heaven 08. That's The Way 09. What Is And What Should Never Be 10. Moby Dick 11. Whole Lotta Love 12. Organ Solo 13. Thank You