ジミーが指を怪我、ロバートは風邪をこじらせてしまいながら、それでも始まってしまったツアーを中止させる訳にもいかずスケジュールが決行された1975年アメリカ・ツアーの序盤。そんな苦闘の時期の代表的オーディエンス録音が1月29日のグリーンズボロでしょう。本音源に関しては昨年後半、ファースト・ジェネレーション・コピーを元にしたファイルから作られた「GREENSBORO 1975」も記憶に新しいところかと。ところが昨年末、また違ったカセット・コピーを元にしたバージョンが登場したのです。その音源インフォも「1st Gen」。となると、昨年のバージョンはいったい何だったの?という事になってしまうのですが、一つ明確な違いがあります。それは今回のバージョンの方が音質が明らかに上ということ。それはイコライズなどではなく、明らかにジェネレーションの違いから生じているものであり、だからこそアッパー感もはっきりしている。このアッパー感なのですが、この日の目玉でもある75年版「How Many More Times」を聞いていただければ一目瞭然でして、今回のバージョンの方がすっきりクリアーで俄然ナチュラル。今回のバージョンと比べてしまうとギフトに使われたバージョンはこもり気味で抜けの悪い音質に聞こえてしまうことでしょう。もっとも今回も「The Rain Song」がエンディングぎりぎりでフェイドアウトする状態は変わらないのですが、こうした箇所などを始めとした録音開始、あるいは終了個所が昨年のバージョンよりも一秒単位ながら長く収録されている点もアッパー感をはっきり証明してくれています。もし1990年代のカセット・トレード時代にリリースされていた「FOOTSTOMPING GRAFFITI」や「A QUICK GET AWAY」といった懐かしのアイテム群でこの日を聞かれていたとしたら、ライブ序盤で全然弾けていないジミー、それ以上にまるで歌えていないロバートという二人のコンディションの悪さだけでなく、会場の出音までもイマイチだったせいもあって音源の序盤だけを聞いて敬遠してしまったマニアが多かったのではないでしょうか。ところが本音源の面白いところは彼らの演奏が向上するにつれ、まるで音質まで一緒に向上してくるかのような現象がみられるのです。まずジミーが指を酷使しないで演奏できた「In My Time of Dying」で一息ついたことで、序盤の不調が収まりはじめます。さらに「The Song Remains the Same」ではフロント二人と違って好調なボンゾ&ジョンジーのスピーディさが演奏のクオリティを一気に上げてくれる。その点ロバートはまだまだで、当時はリリース直前のアルバムからの新曲という位置づけで披露される「Kashmir」ですら苦しそう。もっとも、序盤のまるで声が出なかった状態と比べたら格段の回復だったのですが。こうして状況が上向き始めた中、「No Quarter」ではいよいよフロント二人にエンジンがかかりはじめ、ライブ前半の「公開リハビリ」的な雰囲気から脱出。完全な調子でないなりにちゃんと聞かせてくれるからエライ。この公演をレポートした地元の新聞でも「序盤は低調な滑り出しだったが、途中からウイスキーの助けもあって調子が上向いてきた」などと報じられていたものです。実際にアルコールがどれほど作用したのかは定かではありませんが、確かに序盤からするとはるかに演奏がまとまり始めてきたのは事実。そしてこの頃になると音質も十分に聞きやすくなっており、もはや余裕で聞きこめるクオリティにまで昇格。それどころか先の「In My Time of Dying」辺りで既に聞きやすくなっており、そうした聞きやすさ加減も従来のバージョンと比べてアッパー感がはっきりしている。先のような状況から「Dazed And Confused」のインプロがジミーの怪我のせいで展開できない苦肉の策として急遽導入された75年版「How Many More Times」の演奏は、やはり一聴の価値がある。このレアな演奏聞きたさから最初に挙げた90年代リリースはおろか、アナログ時代の「KASHMIR'S WIZARD」にまで手を出したベテラン・マニアもおられるかと。「How Many More Times」といえば1969年のデンマークス・ラジオの映像が捉えてくれていたように「Dazed」以外でジミーのボウイングが登場するレパートリーですし、お約束芸でもあったボウイングの演出を期待していたアリーナのオーディエンスを喜ばせるという点でも的確な選曲でもあった。ましてやロバートがあのような調子でしたので69年の再現などできるはずもなく、あくまでボウイングの演出の為にレパートリーとして復活させたのは明らか。それでもイントロが始まると往年のスリリングな調子が蘇っており、観客が驚いている様子も伝わってくる。別の意味で驚かされるのはジミーのプレイ。何と3分辺りで往年を偲ばせるような早弾きを聞かせてくれるのです。ましてや彼の指が問題を抱えていたことを考えれば、なおさら驚きを禁じえません。ライブ序盤と比べて指が動かせるようになってきたのでしょうか。そこに加えて演奏がストップしてからの「Dazed」的な雰囲気へと移行してのボウイングというのが、やはり同曲の代わりとして急遽導入されたであろうことを物語っていると同時に、このアレンジが非常に面白い。そしてボウイング・パートから無理やり「The Hunter」パートへ移行するところがいい意味で69年当時の演奏と異質と言うか、75年らしいところ。おかげさまで昨年のギフトCD-Rバージョンはご好評をいただきましたが、そんな75グリーンズボロが格段に聞きやすくなって見事リリースが実現。貴重な75年版「How Many More Times」を聞きたかったマニアに待望のベスト・バージョンが登場します!(リマスター・メモ)枝分かれテープで既発より音質が良い。イントロ/アウトロ/複数のテープチェンジ個所は全て1秒弱長く収録されている。ピッチはDisc1は微調整。Disc2は基本どんどん速くなるのでなるべく調整しました。テープヒスは長い個所もありますが全て残しました。ヒスとヒスの間の無音は削除しました。音質はイコライズしてないそうで、既発より良いのでそのままにしました。Greensboro Coliseum, Greensboro, NC, USA 29th January 1975 UPGRADE
Disc 1 (66:30) 1. Intro 2. Rock and Roll ★0:12の極端なテープ揺れはなるべく修正。3. Sick Again 4. Over the Hills and Far Away 5. In My Time of Dying 6. The Song Remains the Same 7. Rain Song 8. Kashmir 9. No Quarter
Disc 2 (63:19) 1. MC 2. Trampled Underfoot 3. Moby Dick 4. How Many More Times 5. Stairway to Heaven 6. Whole Lotta Love 7. Black Dog 8. Communication Breakdown