昨年の秋、久々に敢行されたアメリカ・ツアーが大成功を収めたボブ・ディランが今年もさっそくツアーを開始しました。これは明らかに昨年の結果に満足した結果なのでしょう。彼による今年最初のツアーは現在進行中ですが、今回最速リリースされるのは3月6日のアルバカーキ公演。何が凄いって、とにかく音像が近すぎる。バンドが演奏を始める前にディランが鍵盤の音を鳴らしてみただけでも「近っ」と実感できるレベル。「まるでサウンドボード」と形容されるべきオーディエンス録音のお手本だと断言いたしましょう。とにかく大迫力の音像でして、なおかつディランの歌声も近い近い。今回のアルバカーキ公演は本来なら2020年の6月に実現していたはずのもの。ところがコロナウィルスのパンデミック化を受けて中止となっていたのです。それが遂に実現したということから会場の盛り上がりは凄まじい。ところが今回の音源はそんな盛り上がりよりも演奏をオンに捉えてくれたウルトラ・オーディエンス。あまりにも音が近いのでディラン以下の演奏の充実ぶりが手に取るように分かってしまうのも魅力でして、彼はオープニングから元気いっぱい…という表現よりもハイテンションと例えた方が正確でしょう。とても80歳の老人とは思えない。セットリスト自体は昨年の秋のツアーとまったく同じものであり、ファンの間で所謂「The Set」と呼ばれる固定パターンであることは変わりません。しかし久々のツアーを完遂できたことが大きいのでしょう、演奏の力強さやディランのイキイキとしたパフォーマンスは明らかに昨年から進化している。例えば「When I Paint My Masterpiece」の序盤ではこれでもかと言わんばかりにディランがハーモニカを吹き倒しているのが頼もしい限り。こうした熱演を前にアルバカーキのオーディエンスも大熱狂。ところ「Mother of Muses」のようにディランがしっとり歌い上げる曲になると、会場は打って変わって静まり、それこそ針の落ちる音まで聞こえそうなほど。ただ久々にアルバカーキを訪れたディランに熱狂するだけでなく、ちゃんと「聞くときは聞く」というスタンスがこの極上音源の聞きやすさに貢献してくれている。今回のリリースに際してはそんな周囲の盛り上がりが目立つ曲で手拍子などを抑えるイコライズを若干ながらも施しており、ただでさえ聞きやすい音質が一段と聞きこめる抜群の状態へと進化しました。繰り返すようにあまりにも音が近いので、ディランの弾く拙い鍵盤の一打一打までもしっかり聞き取れてしまう(苦笑)のですが、そこからもステージを愛する彼の喜びが伝わってくるというもの。だからこそ全体を通して非常にテンションの高いディランの熱唱が聞かれ、なおかつバンドの演奏が頼もしい。彼としても現在のバンドを従えて歌うのが相当に楽しいのでしょう、メンバー紹介では各人を冗談交じりで笑いながら紹介してみせるのだから驚き。そんなディランの陽気な振る舞いも聞いていて嬉しくなる。まだ今年のツアーが始まったばかりだというのに、早くも今年を代表してしまいそうなハイクオリティ・オーディエンスがUXBRIDGEから最速リリース!今年のディランをさっそく極上音質で楽しめてしまう一枚です。 Kiva Auditorium, Albuquerque, NM, USA 6th March 2022 ULTIMATE SOUND
Disc 1 (50:11) 1. Intro 2. Watching The River Flow 3. Most Likely You Go Your Way (and I'll Go Mine) 4. I Contain Multitudes 5. False Prophet 6. When I Paint My Masterpiece 7. Black Rider 8. I'll Be Your Baby Tonight 9. My Own Version Of You 10. Crossing the Rubicon
Disc 2 (48:31) 1. To Be Alone With You 2. Key West (Philosopher Pirate) 3. Gotta Serve Somebody 4. I've Made Up My Mind 5. Meloncholy Mood 6. Mother of Muses 7. Goodbye Jimmy Reed 8. Band introduction 9. Every Grain of Sand