2002年から03年にかけて敢行されたローリング・ストーンズのLICKSツアーからも早20年の歳月が経過。そのスタイルはスタジアム、アリーナ、そしてシアターという三種類の会場が選択され、なおかつ会場のサイズによってセットリストが大幅に異なるという、いま振り返ってみても攻めな姿勢のツアーであり、1989年からサポート・メンバーを導入したフォーメーションで行われたストーンズ・ツアーにおける一つの到達点といえるものでした。中でも2002年秋のアメリカ・ツアーこそLICKSコンセプトの神髄とでも呼ぶべきセットリスト毎回の変化が大きな話題を呼んだものです。当然マニアの間で高い人気を誇ったのがシアター・ギグ。そもそもLICKSツアーは新作のスタジオアルバムを伴わず、代わりにベストアルバムを引っ提げて過去のナンバーをふんだんに演奏するというコンセプトが潔いまでに画期的なものでした。そこで毎回の使用会場を三つに設定し、なおかつそれぞれのサイズに合わせてセットリストも変えるというもの。そこで何よりも画期的だったのが、クラブ・ギグ的な雰囲気の小会場シアターまでツアーの一環として取り込んでみせたこと。当然シアターともなればセットリストはレア・ナンバーのオンパレードが確定。特にツアー前半はレパートリーのおさらいも兼ねて本当に様々な曲が披露されていたものです。例えばツアー最初の地であるボストンでは「Parachute Woman」に「Heart Of Stone」次のシカゴでは「Torn And Frayed」といった具合に、今みても驚愕のレパートリーが惜しげもなく披露されていたのでした。そんなLICKSツアー前半戦におけるシアター・ギグの極めつけであったのが同ツアー2002年9月の締めとして行われたニューヨークはローズランド・ボールルーム。そこではアルバム「BETWEEN THE BUTTONS」に収録されたR&Bバラード「She Smiled Sweetly」が披露されたのです。同曲のライブ演奏は現在に至るまでこの時限りで(同アルバムリリース時にテレビで歌われた記録がありますが、残念なことにいかなる形でも残されていません)あり、結果としてLICKツアー2002年序盤戦におけるシアター・ギグの中でも群を抜いてレアな日となりました。翌年の武道館がそうだったように、チケットの入手が困難を極めたLICKツアーのシアター・ギグですが、それでもローズランドに忍び込んでくれたテーパーは複数おり、その貴重な場面をしっかり記録。おかげでリアタイでも「recorder 1」がVGP「SO GLAD TO BE NEW YORK CITY」として、また「recorder 2」が「BALLROOM BLITZ」としてリリースされています。これらの内、音質的に秀でていたのは「recorder 1」。「recorder 2」の方は周囲が非常に騒がしかった。ところが「recorder 1」の方でもよりによって「She Smiled Sweetly」が三番に差し掛かったところで演奏を遮るような大きさの会話が入ってしまうという痛恨の場面があったのです。おまけにそれぞれのタイトルが2002年当時の技術で大なり小なりイコライズされており、それが今となっては時代を感じさせる感触なのが否めない。何よりどちらのタイトルも入手困難になって久しく、あれから20年が経過した今となっては超貴重なナンバーが演奏されていたという事実すら知らないマニアも少なくないのでは。そうしたリアタイ音源だけでなく、本ギグはさらに第三のオーディエンス録音、つまり「recorder 3」が存在していました。しかし流通したのはギグから10年近い歳月が経った後であり、それすら今では簡単に見つけられなくなってしまうという状況へ陥ったことで、そうした音源の存在すら知らないマニアも多数を占めるのではないでしょうか。むしろネット上ではVGP盤のファイルを見つける方が簡単なはず。そんな隠れたレア・オーディエンスが遂にリリース。本ギグ音源の内、音の近さという点では「recorder 1」がベストな訳ですが、今回の音源は他二つと比べて音像に距離がある反面、それらよりもはるかに周囲が静かであるというのが大きなアドバンテージ。ましてやR&B調のバラードである「She Smiled Sweetly」ともなれば、この落ち着いた環境で聞きこめるのがポイントが高い。もちろん演奏を遮るような会話もありませんし、「recorder 2」のような終始騒がしい状況でもない。おまけに現在の最新テクノロジーのよるイコライズを施したことで、遠い音像と暗い感触の両方を一気に緩和。それでも「recorder 1」の域には及ばないのですが、やはり周囲の会話が大きくないバランスは格別。それが今回のイコライズによって非常にスピーカー映えする音質へと進化してくれたのです。もっともローズランド・ボールルーム三種類のオーディエンスはどれもヘッドフォンよりスピーカーから鳴らした方が楽しめる音質ではあるのですが、それが本音源においても今回の処理によって一層際立つようになりました。そしてこの日に限って「She Smiled Sweetly」が演奏されたのは前年に公開されて大ヒットした映画「THE ROYAL TENENBAUMS」の中で「Ruby Tuesday」と共に本曲が劇中で使われていたことを受けてのもの。ミックも演奏前のMCでそのことに触れており、本曲をライブで試してみるいい機会だと思ったのでしょう。その演奏に際してはアルバム・バージョンよりもキーを上げたアレンジとなっており、ちょっとミックのソロ・ナンバー「Party Doll」っぽい雰囲気を感じさせるのが面白い。さらに原曲と同じようにキースがハモっており、このままレパートリーとして演奏し続けてもよかったのではないかと思えるほどの出来栄えでした。しかし「She Smiled~」を抜きにしてもこの日のLICKSシアターモード炸裂なセットリストは豪華すぎる。序盤こそ手堅く始めますが、「Hand Of Fate」からめくるめくレア・ナンバーのオンパレード。「She Smiled~」と同様ブライアン期のR&Bバラードである「That's How Strong My Love Is」まで演奏されるという豪華さ。また地味に貴重なのがキースの2002年版「You Don't Have To Mean It」でして、この日の後も2002年中で数回演奏されただけという扱い。こうしたLICKSツアーのシアター・コンセプトもツアーが進むにつれてレパートリーがルーティーン化するので、なおさらここでの意欲的なセットリストに惹かれるものがある。とはいえ「Neighbours」でボビー・キーズがサックスを吹くタイミングをフライングしそうになったり、あるいは「Can't You Hear Me Knocking」のイントロがもたついたりといった場面が垣間見れるのがツアー序盤のストーンズらしいところ。そんなLICKSツアー序盤における伝説のシアター・ギグの忘れ去られた音源が文字通りベールを脱ぎます!Roseland Ballroom, New York City, NY, USA 30th September 2002 TRULY AMAZING/PERFECT SOUND (Recorder 3)聴きやすい、とても良い録音です。
Disc 1 (65:44) 1. Intro 2. Start Me Up 3. You Got Me Rocking 4. All Down The Line 5. Hand Of Fate 6. Sweet Virginia 7. She Smiled Sweetly 8. Neighbours 9. Dance 10. Everybody Needs Somebody To Love 11. That's How Strong My Love Is 12. Going To A Go Go 13. Ain't Too Proud To Beg
14. Band introductions 15. You Don't Have To Mean It
Disc 2 (55:53) 1. Before They Make Me Run 2. Midnight Rambler 3. Rock Me Baby 4. Stray Cat Blues 5. Can't You Hear Me Knocking 6. Honky Tonk Women 7. Brown Sugar 8. Jumping Jack Flash