ジギー&スパイダーズとして大旋風を巻き起こしたボウイの1972年はその人気の爆発ぶりを物語るかのように、彼のキャリアにおける初のアメリカ・ツアーが実現。この時期において、まずは何と言っても永遠の名作であり、ボウイファンでなくとも持っていてほしい第一級のロックアルバムと言っても過言ではない稀代の名音源がサンタモニカ。その決定版である「LIVE SANTA MONICA '72: UK ADVANCE/PROMOTIONAL CD」はベストセラーと化しています。サウンドボードの横綱がサンタモニカだとすれば、オーディエンスの横綱がクリーブランドではないでしょうか。リアタイでラジオ放送されたことからアナログ時代からの定番となったサンタモニカに対し、こちらはCD「VA VA VA VOOM」のリリースによって知れ渡った迫力満点な極上オーディエンス。あまりに音が近く、パッと聞いた感じだと「AMラジオ放送のサウンドボードか?」と錯覚しそうになってしまうほど。実際サウンドボードだと誤解していた人が少なくなかったのは有名な話。
その後「VA VA VA VOOM」はコピー盤「ZIGGY’S IVASION OF AMERICA」を生み出すほど72年アメリカの定番オーディエンスの座を獲得したのですが、不動に思えた「VA VA VA VOOM」の地位を突き崩し、ボウイ亡きあとの時代における新たなスタンダードとして世界中のマニアを驚かせたレーベルからの名盤が「CLEVELAND 1972 1ST NIGHT」。単に音の近いビンテージ・オーディエンスにありがちな歪みが減って鮮度が向上したというだけでなく、いにしえの「VA VA VA VOOM」ではバッサリとカットされていたオープニングとエンディングで流される「Ode To Joy」の場面までも捉えた文句なしのアッパー版として大ベストセラーを記録。2017年の「CLEVELAND 1972 1ST NIGHT」(以下“既発盤”と称します)の登場によって極められたと思われていた72年クリーブランドですが、今年に入って突如ジョー・レイという人物によって録音されたマスターカセットが出土、世界中のマニアを驚かせています。何しろマスターですので、もちろん音質が既発盤よりも向上。これは当然と言えば当然なのですが、今回のマスターと比べると既発盤は音がこもっている、あるいはベールを一枚かぶってしまったかのように聞こえてしまいます。そんな音質の違いはアコースティック・コーナー、あるいは「John, I'm Only Dancing」辺りで聞き比べてもらえば一目瞭然かと。その非常にすっきりとしたクリアーさが冴えわたるアッパー感だけでもマスターカセットの威力を思いしらされることでしょう。ところが音質以外にも大きなポイントがあるのです。本録音は演奏にいくつかのカットが生じてしまっていることでもマニアにはおなじみですが、一番目立つ個所だったオープニング「Hang on to Yourself」序盤で生じるカット。これが既発盤では最初のコーラスの途中から切れており、そこから二番の途中の歌詞「Tigers on vaseline」へと飛ぶのです。ところがいにしえの「VA VA VA VOOM」では一番のコーラスが最後まで収録されており、そこから二番の途中へと移る。つまり「CLEVELAND 1972 1ST NIGHT」唯一の欠点、それは問題のカットが早く始まってしまっていたという。その点もマスターカセットですので、今回は既発盤より長く、要するに「VA VA VA VOOM」同じ長さという最小限のカット状態での収録となっている。そして終演後に流された「Ode To Joy」は既発盤よりもはるかに長く収録されており、結果として今回はCD二枚に及ぶ収録時間にも。そしてサンタモニカからほぼ一か月後に行われた、進化し続けるジギー&スパイダーズのステージを迫力満点な音像で捉えてくれたという価値も非常に高い。稀代の名演のラジオ放送という大一番をやり終えた後の自信や勢いが見事に伝わってくる。だからこそ当時ボウイが書き上げたばかり、なおかつ11月に入ってから何度か披露していた新曲「Drive-In Saturday」をここでも聞かせてくれたのでしょう。後にリリースされた同曲はスパイダースをバックにちょっと垢抜けないR&Bバラード調のアレンジが施されていましたが、ここで聞かれるむき出しのバージョンはもっと内省的な雰囲気の弾き語り。驚いたことに1974年に「TORONTO 1974 AFTERNOON SHOW」で再び弾き語られたライブ・バージョンは何とこの時のアレンジに立ち返っていたのです。ボウイとしてはリリースされたバージョンの仕上がりに納得がいかなかったのかもしれません。そしてこの曲を始める前の「これから新曲やるからね、テープレコーダー持ってる人は録っておいた方がいいよ!」とボウイが語り掛ける場面は何度聞いても傑作。その新曲披露の前に歌われた「Andy Warhol」がまた素晴らしい演奏で、ミック・ロンソンを従えて演奏されたジギー期のバージョンではこの日がベストではないかと思えるレベル。何と言ってもここでボウイが呟いたハミングが、かの「VA VA VA VOOM」のタイトルとなった訳ですし、他にも「ジュビラ」など機知に富んだ呟きが演奏中に飛び交います。そんな彼が自由に、心の赴くままに歌い上げる様子も音の近さゆえに生々しい。こうして音質面と演奏面の両方において従来から定評のあった名ジギー期オーディエンスではありますが、正に決定版と呼ぶに相応しいマスターカセットから究極のアップグレード。改めてサンタモニカと対をなす72年アメリカ・ツアー名音源の最終バージョンが限定プレスCDにてリリースされることになりました。マスターカセットならではのアッパー感を心ゆくまで味わってください!
Public Hall, Cleveland, OH, USA 25th November 1972 TRULY PERFECT SOUND *UPGRADE & LONGER
Disc 1 (40:44) 1. Ode To Joy 2. Hang on to Yourself 3. Ziggy Stardust 4. Changes 5. The Supermen 6. Life On Mars? 7. Five Years 8. Space Oddity 9. Andy Warhol 10. Drive-In Saturday
Disc 2 (42:08) 1. The Width of a Circle 2. John, I'm Only Dancing 3. Moonage Daydream 4. Band Introductions 5. I'm Waiting For The Man 6. The Jean Genie 7. Suffragette City 8. Rock 'n' Roll Suicide 9. Ode To Joy
David Bowie - vocals, guitar, harmonica Mick Ronson - guitar, vocals Trevor Bolder - bass Mick Woodmansey - drums Mike Garson - keyboards