タイトルに「Definitive」が冠せられているところからもお察しがつくかと思いますが、こちらの音源は既発アイテムの存在する1978年オーディエンス録音。ボブ・ディラン78年ツアーでアメリカを回った11月に関してはいくつかの優良音源が存在するのですが、その中でも代表的な存在となったのがこちら。懐かしのディラン専門レーベル、ウォンテッド・マンから「LIVE AT THE PITSTOP '78」としてリリース(ジャケ写が1990年トーズ・プレイスのディランだったのは謎でしたが…)されてマニアに11月を代表するアイテムとの評価を得ました。この時のディランは同じシアトルの会場でもセンター・コロシアムでなく、より小さなアリーナであったヘック・エドモントン・パヴィリオンを使ってコンサートを開いたことが功を奏したのでしょうか、モノラルながら非常に音像が近く、ドライで骨太な魅力のある聞きやすさがまたマニアに評価されたものです。中でもディランの歌声が近い。これほどのクオリティであればコピー盤が生み出されるのは当然と言え、21世紀には「LIVE AT THE PITSTOP '78」をコピーしてイコライジングを加えた「STREET LEGAL IN SEATTLE」がリリースされています。その頃にはウォンテッド・マンが入手困難となっていたこともあり、コピー盤でありながら高い評価を受けています。これも一重に元の音源の優秀さゆえ。ところが本家ウォンテッド・マンはもとより、そのコピー盤からも今年でちょうど20年の歳月が経過。これほどの聞きやすさを誇る78年ツアー音源が安定供給されず、しれっと入手困難になっていたとは。こうした状況が長年に渡って続いていましたので、もし本家からのコピー盤が再び登場したとしても「STREET LEGAL IN SEATTLE」と同じように好評を博していたかもしれません。さらに驚いたことに、この78年11月の名音源をJEMSチームが数年前にマスター・バージョンを発掘してくれていたにもかかわらず、それがおざなりにされていた…つまりマスターからのニューバージョンのリリースが可能でありながら放置されていたという。これほどの定番音源がそのような状態に陥ってしまっていただなんて。そんな世界中のマニアが待ち望んだマスターからの限定プレスCDリリースが今回リリースされるのですが、さすがにマスター・リールから収録されたというだけあって、そのアッパー感は鮮烈。あれほど高音質に感じられた「LIVE AT THE PITSTOP '78」ですら、今回のバージョンの前ではいかにも数回のカセット・コピーを経由した状態を偲ばせる抜けの悪さがあり、今回のバージョンの方が圧倒的にスッキリかつクリアーな音質。モノラル録音ですので、スピーカーからボリュームをアップするとなおさらアッパー感が解りやすく、オープニングにおけるディラン登場前、「My Back Pages」インストが始まる前の場面が既発盤より長く収録されているのもマスター・リールならでは。その音質の素晴らしさだけでなく、78年11月のステージの素晴らしさをしっかり伝えてくれたのも本音源の魅力。というのも初来日公演からスタートした78年ツアーは当初ロック色を弱め、代わりにビッグバンドを従えた歌謡ショー的なコンセプトとなっていました。ところがツアーが進み、さらにアルバム「STREET LEGAL」をレコーディングしたあたりから「やっぱりロックじゃね?」とディランも気付き始めたらしく、好評発売中の「EARLS COURT 1978」や「PARIS 1978 FINAL NIGHT」で聞かれるヨーロッパ・ツアーから明らかにロック色が強まり始めます。それが夏休みを経て長期に渡るアメリカ・ツアーが始まるとディランのステージ衣装もそれまでのエンターテイナーっぽい衣装が一掃され、一気にロックっぽいいで立ちに変化。これまたベストセラーの「MADISON SQUARE GARDEN 1978 1ST NIGHT」で聞かれたように、9月には色々なレパートリーを試してロック化を強めており、それが11月にもなると揺るぎないものとなりました。さらにディランが78年を通してこだわっていたのは、自身が「バラード・シンガー」を目指していたということ。当初の歌謡ショーっぽい雰囲気づくりが裏目に出てなかなか理解されなかったことなのですが、実のところディランはシンガーになってバラードを歌いこみたかった。そこに加えて「STREET LEGAL」からの新曲「Senor (Tales Of Yankee Power)」が登場するに至っていよいよバラード・シンガーへの道を目指したがります。そういったロック色とバラード・シンガーぶりがほどよく合わさっているのがシアトル公演でして、武道館などでポップに演奏されていた「Mr. Tambourine Man」もテンポを落としたバラード・アレンジに豹変。かと思えば当初からバラード・アレンジで演奏されていた「Tangled Up In Blue」にはゴスペルの雰囲気が加味され、翌年以降のスタイルを予見させますが、何よりディランが気持ち良さそうに歌っているのがイイ。当然「Just Like A Woman」などでもバラード・シンガーぶりをいかんなく発揮してくれるのですが、バンドの演奏もツアーを重ねているだけあって強靭。アルバム・ハージョンの「Senor」では抑えたプレイに徹していたイアン・ウォーレスのドラミングも本領発揮の激しさ。そして何より「Masters Of War」は最高のハードロックに進化しており、彼だけでなくギタリストのビリー・クロスも弾き倒してくれます。こうしたロック的なサウンドの進化に当初のバラード路線がうまく噛み合っているのがアメリカ・ツアーの魅力であり、その独特なサウンドや絶好調のディランを素晴らしい音質かつ音像にて捉えてくれているのが本音源の魅力。これがフィナーレの「Changing Of The Guards」になると、アルバム・バージョンから大きく進化したハードな演奏とディランのワイルドな歌いっぷりが圧巻。世界中のマニアが待ち望んだ78年シアトル、そのマスターから収録された文字通りの決定版が遂にリリース。
Hec Edmondson Pavilion, University of Washington, Seattle, WA, USA 10th November 1978 TRULY PERFECT SOUND *UPGRADE
Disc 1 (63:27) set 1 1. Intro 2. My Back Pages (Instrumental) 3. She's Love Crazy 4. Mr. Tambourine Man 5. Shelter From The Storm 6. It's All Over Now Baby Blue 7. Tangled Up In Blue 8. Ballad Of A Thin Man 9. Maggie's Farm 10. I Don't Believe You 11. Like A Rolling Stones
12. I Shall Be Released 13. Senor set 2 14. Intro 15. Rainy Day Women #12 & 35
Disc 2 (77:30) 1. It Ain't Me Babe 2. One More Cup Of Coffee 3. Blowin' In The Wind 4. Girl From The North Country 5. Where Are You Tonight 6. Masters Of War 7. Just Like A Woman 8. To Ramona 9. All Along The Watchtower 10. All I Really Want To Do 11. (band introductions)
12. It's Alright Ma (I'm Only Bleeding) 13. Forever Young 14. Changing Of The Guards Bob Dylan - vocals & guitar Billy Cross - guitar Alan Pasqua - keyboards Steven Soles - rhythm guitar & backing vocals David Mansfield - violin & mandolin Steve Douglas - horns
Jerry Scheff - bass Bobbye Hall - percussion Ian Wallace - drums Helena Springs, Jo Ann Harris, & Carolyn Dennis - backing vocals