ただでさえ映像やラジオ放送が存在し、なおかつPAアウトからのサウンドボードでほとんどの公演が網羅出来てしまうのではないか?と思えるほど音源に恵まれたローリング・ストーンズの1981年アメリカ・ツアー。一連のPAアウト・サウンドボードの流出が実現したのは今から10年以上前のこと。当然多くのアイテムを生み出したものですが、それらの元になった音源がネット上で売買されたのも今となっては懐かしい。まさに大量発掘と言える夢のような状況でした。結果として69年から82年までのストーンズ・ツアーにおけるもっとも音源に恵まれた時期となったのです。おかげでリアタイ・リリースである「STILL LIFE」の意義がすっかり薄れてしまう弊害も起きてしまったのですが。その時に登場した一連のサウンドボードの中において異彩を放ったのが10月26日のアトランタ・フォックス・シアター。その会場名からも解るように、ツアー中にたった一回だけ敢行されたシアターでのシークレット・ギグ。にもかかわらずこの日はオーディエンス録音が存在し、音質以前にマニアを喜ばせていたものですが、例のSBD流出ラッシュの波に乗ってこの日まで発掘されたことは驚きでした。この音源から別の意味で驚かされたのは、基本バンドの演奏がむき出しになるPAアウトのサウンドボードでもスタジアム・ショーとは違うハコっぽい質感がちゃんと捉えられていた事。やはりスタジアムを記録したSBDよりも各楽器の存在感がクローズに迫ってくるから面白い。考えてみればスタジアムとシアターではPAセッティングが根本的に違う訳です。そうなればPAを経由したサウンドボード録音の音質に違いが現れるのも当然の事ではないかと。そんな81年SBDの中でも特異な存在感を放つ本音源ですが、音質がまた他の日のSBDと違っていました。というのもライブ開始から4曲はベールをまとったようなコモリ気味な状態となっていたのです。本音源を流出からリアタイでリリースされていたDACの「ATLANTA FOX THEATRE」(以下“既発盤”と称します)においてはこの違和感を少しでも解消させようとハイ上げさせており(当時としては当然の処理かと)、その弊害からヒスがマシマシとなってしまっていたのでした。さらに一連の81年SBDのいくつかで見られた、途中からピッチが上がり、さらに録音が進むとテープのヨレが生じるといった状態が本音源でもみられ、二回目のカセット交換に当たった「All Down The Line」以降でヨレが顕著となっていました。こうした問題が既発盤ではおざなりになっていたのですが、今回のリリースに際しては当時出回った元音源に立ち返り、それらの問題をGraf Zeppelinが徹底的にブラッシュアップ。中でもライブ後半に生じていたテープのヨレは聞き込む上で相当なストレスとなっていたので、ここが解消されただけでも相当に聞きやすくなっています。さらにライブ中盤から顕著だったピッチの上昇もアジャストしてくれたのはもちろん、81年SBD名物である「Let Me Go」の途中でカセット面替えに当たって生じたカット、先の「All Down~」でのカットはどちらも同日のオーディエンス録音から緻密に補填。この個所を聞くと貴重なシアター・ギグがSBDで残されていたことの有難みを改めて痛感させてくれます。78年のパサイックがその最たる例でしょうが、やはり彼らのシアター・ギグがSBDで聞けるというのは格別ですし、PAアウトならではの質感がまたギグに打ってつけ。シアター・ギグということで演奏内容も通常のスタジアム・コンサートと比べると随分違う…というより荒っぽく(笑)これぞローリング・ストーンズ全開と呼びたくなる場面が続出。何が面白いって、録音当初のベールが取れて見通しの晴れた「Neighbours」から演奏が乱れるという。ここでは何故か間奏の直後に演奏が強制終了してしまい、呆気にとられたミックがリプライズに持ち込もうとしてチャーリーだけ合わせようとするもむなしく、他のメンバーが乗らずにそのままおしまい。さらにやり慣れたスタジアム・ショーの間で差し込まれたシアター・ギグがむしろセッティングに苦労してしまったのか、「Let Me Go」や「Tumbling Dice」において演奏が始まった際にチャーリーの音が消えてしまうというトラブルが。特に前者ではそれが深刻で、序盤の演奏がガタガタ。ガタガタと言えば「Beast Of Burden」の前半、あるいはフィナーレ「Jumping Jack Flash」の終盤などはガタガタを通り越してグチャグチャになってしまいそうなほどで、既にツアーから一か月が経過し、むしろ急に小会場に戻ったことで戸惑っているかのような場面が随所で聞かれるから面白いことこの上ない。そしてこの日は現在もストーンズ・サポートの重責を担うチャック・リーヴェルが飛び入りで初めてストーンズのステージに参加した日としても貴重な記録。今では当たり前となった彼のメンバー紹介も、ここではミックが「Also keyboard」と紹介しているのが新鮮ですし、なおかつSBDですので明瞭に聞き取れる。その貴重なPAアウト・サウンドボードがブラッシュアップ。こうして聞いていると「Satisfaction」抜きで代わりに「Street Fighting Man」を演奏するというイレギュラーな終盤、さらに全体を通しての破天荒な演奏ぶり。おまけに新しい友人(=リーヴェル)をステージに招き入れるなど、通常のスタジアム・ショーとはまるで違う、文字通りの異色なギグ。それはまるで「今日は俺たちが楽しませてもらう番だぜ!」と言っているかのようなサウンドボード・アルバム!(リマスター・メモ)SBパートはピッチと帯域・音量調整 さらにAll Down The Lineのカット以降に散見されるテープヨレを適宜補正。既発DAC盤とだいぶ収録時間が異なりますが、DACのピッチが高いと判断 序盤(When The Whip Comes Downあたり)などでいくぶんコモリ気味ですが、既発DAC盤では逆に、高域の出し過ぎでヒス過大(2-5曲目カウントまで)。また恐らく高域上げ処理作業に伴う"Neighbours"冒頭のカウント直後にテープの繋ぎあり(ここで突然ヒスが下がる) 今回盤では繋ぎ等はなし。Fox Theatre, Atlanta, GA, USA 26th October 1981 SBD(UPGRADE)
Disc 1 (60:19) 01. Take The A Train 02. Under My Thumb 03. When The Whip Comes Down 04. Let's Spend The Night Together 05. Shattered 06. Neighbours 07. Black Limousine 08. Just My Imagination 09. Twenty Flight Rock 10. Let Me Go ★2:28-2:51 Aud補填 11. Time Is On My Side
12. Beast Of Burden 13. Waiting On A Friend 14. Let It Bleed
Disc 2 (57:01) 01. You Can't Always Get What You Want 02. Band Introductions 03. Little T & A 04. Tumbling Dice 05. She's So Cold 06. All Down The Line ★2:49以降Aud補填 07. Hang Fire ★0:00-0:22Aud補填 08. Miss You 09. Start Me Up 10. Honky Tonk Women 11. Brown Sugar
12. Street Fighting Man 13. Jumping Jack Flash SOUNDBOARD RECORDING