お馴染みとなったBLACK SABBATHのオリジナルLP復刻シリーズ。その『TECHNICAL ECSTASY』編がリリース決定です。『TECHNICAL ECSTASY』……70年代BLACK SABBATHの名作群にあって、これほど制作の裏舞台が興味をそそるアルバムもないかも知れません。制作が始まった1976年の中頃がトニー・アイオミが時代の変化に対応しようとし始めた頃であり、躍進著しいQUEENやニューウェーヴ・バンドを聴いては新たなSABBATHサウンドを追い求めた時期でもありました。バンド内の力学にも変化が起こっており、アイオミのリフがないと何も出来ないメンバー達はなかなかスタジオに現れず、“SABOTAGE TOUR”でサポートを務めたキーボーディスト:ジェラルド・ウッドルフがアイオミのパートナーとして先導するようになっていった(ここで証言が食い違っており、アイオミは「ウッドルフは俺のアイディアをすぐ形にしてくれる」と言い、ウッドルフは「7thアルバムの半分は自分は書いた」と語っています)。その結果、生まれたサウンドは曲によってキーボードがリフやソロを執るまで躍進し、哀愁のメロディとドラマティシズムが増大。内情からするとオジー・オズボーンの貢献度は下がっていたにも関わらず、BLACK SABBATHと言うよりは、後のオジーのソロ作を思わせる新路線を開拓したのです。そんな新世界の名作は、サウンド面でも革命的でした。さまざまなバンドの影響を受けつつも天才アイオミのフィルターを通ることで誰にも似てない独自の世界を築き上げ、「ダークな狂気」だった『SABOATGE』の反動のように「明るい哀感」を体現していたのです。本作は、そんな音世界が誕生した“1976年の音”を忠実に甦らせた1枚。WARNER BROS.がリリースしたオリジナルLP『BS 2969』を精緻にデジタル化したものです。そのサウンドは、まさに極めてナチュラルでファット。サバスの最新CDはは大きくSANCTUARY(VERTIGO系英国マスター)とRHINO(WARNER系米国マスター)に分かれるわけで、本作はもちろん後者。輪郭の鋭さや解像度でいうとRHINOほリマスターほどビビッド感はありませんが、ぶ厚い鳴りが非常に艶やか。例えば、「Gypsy」。イントロから軽快なドラミングが鳴り響くわけですが、最新RHINO盤は打音のピークが割れてはいないものの炸裂感があり、鋭く尖る一方でやや薄い。それに対し、本作には振動するドラムの皮の存在感が宿っている。その打音ピークだけ取り出したような鋭さではなく、ヴァイヴによって迫力とグルーヴを生み出しているのです。これは同じ打楽器のピアノにも言える。前述のように『TECHNICAL ECSTASY』はウッドルフのキーボードがフィーチュアされており、要所要所でピアノも多用されている。そのピークにもドラムと同じようなナチュラル感があるのです。そして、キーボードと言えばシンセ。これも手応えたっぷりの厚みとアンサンブルの一体感が美味しい。例えば「You Won't Change Me」。基本的なコード感をシンセが担うのは本作もRHINO盤も変わりませんが、最新リマスター盤は鮮明さを狙うあまりメンバー4人のアタック音を強調。シンセの土台からアタックだけが強く飛び出してくる感じになっている。しかし、本作はそうではない。シンセも含めた“5人”がその場で一斉に演奏しているようなバンド感がある。言い換えるなら、最新リマスターは「キーボードがサポートの4人バンド」というエンジニアの先入観が見え隠れしており、逆に本作は「キーボードも含めて新しい音を作っていこう」というトータルな視点が感じられるのです。新しい楽器やサウンドを実験し続け、制限を設けずに可能性を広げていった70年代のBLACK SABBATH『TECHNICAL ECSTASY』とは、そんな彼らが「4人編成」の殻さえも破ろうとしたアルバムではなかったでしょうか。そんな実験精神の隅々までを現代に再現し、スタジオの中にいたアイオミの思考さえも再生してくれるオリジナルLP。Taken from the original US LP (BS 2969) (40:45)
01 Back Street Kids 02 You Won't Change Me 03 It's Alright 04 Gypsy 05 All Moving Parts (Stand Still) 06 Rock 'N' Roll Doctor 07 She's Gone 08 Dirty Women
Ozzy Osbourne - lead vocals Tony Iommi - guitar Geezer Butler - bass guitar Bill Ward - drums, lead vocals on "It's Alright" Gerald Woodruffe - keyboards