大人気を博してきたBLACK SABBATHのオリジナルLP復刻シリーズ。『黒い安息日』から続いてきた70年代アルバムの最終弾『NEVER SAY DIE!』編がリリース決定です。キャリアを通して変化したSABBATHサウンドではありますが、70年代は特別でした。「70年代サバスは特別」という言葉は、多くの場合「特に個性的」「特に影響力が強い」等の意味で使われますが、今回はそうではなく「特に実験的」……もっと言えば「プログレッシヴだった」と申し上げたい。『MASTER OF REALITY』までの3作で個性を確立させた後、『VOL.4』からは楽器の幅を広げて鍵盤(ピアノやメロトロン)に手を出し、『SABBATH BLOODY SABBATH』ではライヴ再現も無視したシンセやストリングスまで導入。『SABOTAGE』のツアーでは遂に鍵盤奏者を招いた5人編成へと拡大し、『TECHNICAL ECSTASY』ではそのまま5人バンドの新しい可能性を追求していきました。もはや“新しい音”のためには編成を変える事さえ厭わなくなったアイオミの実験精神がたどり着いた終着駅……それが『NEVER SAY DIE!』でした。ドラッグ中毒が悪化したオジー・オズボーンが完全にやる気を失っていたという事情もあって名作・名盤の域には達していないものの、それによって返ってアイオミの実験精神が爆発。前作のジェラルド・ウッドルフに引き続いてドン・エイリーを迎えてキーボードをフィーチュアし、さらにハーピストやホーンもゲスト参加。ジャズロックにまで踏み出した音楽性は「SABBATHらしくない」という世評を受けるほどに多彩な仕上がりとなりました。本作は、そんなBLACK SABBATH随一の怪作が誕生したままのサウンドを保持した1枚。当時の米国オリジナルLP『BSK 3186』から精緻にデジタル化したものなのです。そのサウンドは、まさにナチュラルの権化。『SABOTAGE』『TECHNICAL ECSTASY』編の解説でも触れましたが、米国WARNER盤はファットでぶ厚く、まるでバンドがその場にいるような一体感とリアリティに優れている。本作もまたその系譜にある。後のリマスター盤はエンジニアに「サバスは4人バンド」という先入観があるせいか、「4人の音+その他」という仕上がりになっている事が多い。まさかギター/ベース/ドラム以外の音を下げるほどあからさまではありませんが、ホーンやキーボードが活躍するパートでも、基礎3楽器の存在感が際立つ。3つの音に注意を払わせようという(無意識な)作為が感じられるのです。しかし、本作はそうではない。「Breakout」ではホーンとドラムが完全に主導権を握り、「Swinging the Chain」にしてもビル・ワードのヴォーカルとハープの絡みがすべてを決定。普段であれば、すべてをリードしていくアイオミのギターもコード感を支えるだけ……そんなアンサンブルに正直なサウンドがしっかりと感じられる。その一方で、4人バンドの威力を存分に効かせた「Never Say Die」も鮮烈。リフがなくサビで曲名を連呼するスタイルが「らしくない」と言われる曲ですが、ニューウェーヴ時代だからこその一丸となった「押し」が強烈。もちろん、ミックスは同じですから具体的にはアタック音の際立ち方といったレベルではあるのですが、アイオミがスタジオで目指したバランス感覚がリアルにスピーカーから吹き出してくるのです。ジャンルとしてのプログレッシヴ・ロックではなく、字義そのままに己のロックをプログレスしていった70年代のBLACK SABBATHとトニー・アイオミ。続く『HEAVEN AND HELL』で「メンバーを代えれば強制的に新鮮」と体感し、『MOB RULES』で「サバスらしさと重いはリフだ」と自己発見。その後は「新しい音(新メンバー)」と「サバスらしさ(重リフ)」の両立で活動を回すようになっていきました。『NEVER SAY DIE!』は、そんな開眼の直前。超個性なオリジナル4人のまま「新しい音」を模索し続けた、実験精神が行き着いた終着点でした。本作は、そんな1978年の現場をオリジナルLPから復刻した1枚。Taken from the original US LP (Warner Bros. Records, BSK 3186)
1. Never Say Die 2. Johnny Blade 3. Junior's Eyes 4. A Hard Road 5. Shock Wave 6. Air Dance 7. Over to You 8. Breakout 9. Swinging the Chain Ozzy Osbourne - lead and backing vocals Tony Iommi - guitar, backing vocals on "A Hard Road"
Geezer Butler - bass guitar, backing vocals on "A Hard Road" Bill Ward - drums, lead vocals on "Swinging the Chain", backing vocals on "A Hard Road" Don Airey - keyboards Jon Elstar - harmonica on "Swinging the Chain"