ここ一年の間でZEP1969年最後のアメリカ・ツアーの音源の発掘が続いているという状況の中、今度は11月5日カンザス・シティのアッパー版が登場しました。こちらのオーディエンス録音、マニアの方ならご存じかと思われますが、この日は40分程度の不完全録音が災いして常に二枚組のおまけ要員としてリリースされてばかりで、いまひとつ印象の薄い日という感が否めません。そこで今回はアッパー版の登場を記念して本音源を単体アイテムとしてリリース。確かに「White Summer」から「How Many More Times」のメンバー紹介までのパートがごっそり抜け落ちており、この収録状態は痛い。ところが、それでもなお聞き応えのある内容であるというのも事実。1969年を通してZEPライブサウンドの要であったサイケ・ブルースから抜け出し、セカンド・アルバムの楽曲を投入し始めたことで革新的なハードロックへと脱皮し始めた偉大なる過度期。位置的には昨年リリースされた「O'KEEFE CENTRE 1969 LATE SHOW」と「FINAL WINTERLAND 1969 2ND NIGHT: SOURCE 2」と合間に属するショーとくれば悪いはずがない。幸いにも、この日の音源もライブ前半部分はしっかり収録してくれているので、レパートリーとして投入されたばかりの「Heartbreaker」の演奏が貴重。翌年からどんどんライブ用のアレンジがエスカレートしてゆく同曲ですが、ここでのスタジオ・バージョンに素直な演奏が実に新鮮。これは同時期の音源で聞かれる本曲の演奏すべてに当てはまることですが、この日は何とジミーがイントロのリフを弾き違えるというレアな一瞬が捉えられているのが何とも愉快。この後レギュラーとしてZEP解散まで毎晩のように演奏されてゆく曲にも最初はこんなおぼつかない場面があったとは。不完全収録である反面、驚くほど聞きやすいモノラル・オーディエンスという点も疑いのないところ。それが今までのアイテムではおまけ扱いだったせいで軽視されてしまっていたのではないでしょうか。というのもカンザスは観客が非常に静かでして、そこに独特の奥行きのある音像が相まって非常に聞きやすい状態で演奏を捉えてくれている。もしかしたら、あまりライブが盛り上がっていなかったのかもしれません。そう考えれば「Heartbreaker」のイントロで起きたジミーの凡ミスにも合点がいく。しかし皮肉なことに、周囲が静かなせいで本当に聞きやすい。その静かな空気の中でロバートがキレッキレのスクリームを炸裂させるのが69年らしいところで、「I Can't Quit You Baby」などは相変わらずのハイパースクリーム。これは一年を通してアメリカを回った経験がロバートをたくましくさせたのかもしれません。一方で他のメンバーはこの淡々とした空気に飲まれがち(笑)で、先の「Heartbreaker」だけでなく「Dazed And Confused」でも各セクションの切り替わりが不安定(例えばボウイングが終わってジョンジーのベースから始まる個所)なのが散見され、そこは演奏を進化させようというバンドの意欲と会場の反応が噛み合っていないかのようでもある。その最たる例というべきなのがフィナーレ「How Many More Times」。最後は恒例のブギー展開で幕を閉じるのですが、盛り上がりを欠いた観客を前にして演奏も盛り上がることなく、まったりと終えてしまうのが何ともこの日らしい。69年のZEPといえば爆裂演奏を毎日やすやすと生み出していた時期ですし、実際に前後のショーも素晴らしい。それなのにこの日の「How Many~」の何となく終わってしまう展開には驚かされると同時に新鮮に映ってしまうのでは。こうして短い収録時間ながらも面白い場面や目白押しという音源であり、それでいて聞きやすい録音クオリティでもあって、今回のファースト・ジェネレーションという状態がさらに磨きをかけてくれる。それだけに元の非常に遅いピッチは今回の限定プレスCDリリースに向けてきっちりとアジャスト。というのも、基本遅いピッチの状態が「How Many~」になるとさらに下がるという不安定さだったのです。そこはもう元の音源とは比べ物にならないほど安定して聞きやすくなった。そこに加えてロージェネレーションならではのアッパー感で生まれ変わった69年カンザス公演をCD一枚のお手軽フォーマットでサクッとお楽しみください!Memorial Hall, Kansas City, KS, USA 5th November 1969 TRULY AMAZING SOUND(UPGRADE) (40:00) 1. Good Times Bad Times Intro / Communication Breakdown 2. I Can't Quit You 3. Heartbreaker 4. Dazed And Confused 5. How Many More Times