絶滅寸前まで追い込まれたHR/HMの命綱となり、現代まで生き延びる活路となった90年代の南米。歴史的に極めて重要な役割を担いながら、見逃されがちなシーンの本質が透ける極上映像集が登場です。そんな本作に収録されているのは、10種・19曲・1時間40分に及ぶ極上のマルチカメラ・プロショット。バンドもライヴも雑多ながら、熱烈なHR/HM愛が吹き出す映像集です。これだけだと「何じゃらほい?」な感じですが、実はコレ、21世紀初頭の南米コレクター界隈で大人気を博した映像作品なのです。その魅力を理解するには「90年代の南米」がいかに重要だったかも知る必要がある。少々、本題とはズレますがお付き合いのほどを……。
【HR/HMの命脈を守った90年代の南米シーン】ご記憶の方も多いと思いますが、90年はまさに暗黒時代。それも後半は地獄でした。ロブ・ハルフォードをして「メタルは死んだ」と言わしめ、METALLICAに「ロックタリカに改名したい」と嘯かせた時代。出てくるバンドはすべてが「重い」を超えて重苦しく、ベテランの新作はグルーヴを免罪符にメロディが壊滅。PANTERAやグランジを意識した音だらけになりつつ、真髄を理解していないモノマネは本家に遠く及ばない……シーン全体がそんな状況に陥ってしまいました。そうして生きる道を失ったHR/HMバンド達に手を差し伸べたのが南米。北米・欧州でも生計が立てられなくなったベテラン達がこぞって南米をツアーし、大歓待に生き残るエネルギーを得た。もちろん、日本も同じ役割を担っていましたが、規模がまったく違いました。幾つかのバンドに集中して人気が出る日本とは異なり、南米はMONSTERS OF ROCKクラスのフェスが各国で何回も開かれる。しかも、その現場はラテンなノリの大群衆が押し寄せ、重苦しい音に塗りつぶされた地球上で唯一ロック本来の活力に充ち満ちていたのです。実際、そのエネルギーはコレクターの方々なら実感されると思います。例えば、お気に入りバンドの90年代後半を思い出してみてください。思いつくプロショットやサウンドボードは南米ばかりではありませんか? もちろん「放送がある=人気がある」という事であり、それくらい南米だけがHR/HMを支え続けていたわけです。余談がすっかり長くなりましたが、本作は、そんな南米ファンが製作したプロショット集。つまり、あの時代を支えた南米のファン心理が丸出しになっているのです。ここで当時を実体験された方なら「90年代の南米クオリティかぁ」と思われるかも知れませんが、本作にその心配はナシ。本作に収録されている映像は1981年から1998年まで幅広いのですが、どれも所謂「南米クオリティ」のイメージとはかけ離れている極上マスターなのです。これには製作された時代も関わっている。多くの方が「南米放送っていつの間にか進化した?」と感じていると思いますが、それが90年代末。本作はライヴ自体が古い映像であっても90年代末期に放送されたものらしく、オフィシャル級の映像美なのです。逆に言えば、90年代末にここまでHR/HMを大量に放送していたのも南米だけ……そんな時代の悪戯が生んだ映像美なのです。さて、そんなやっとこさ本題。そんなクオリティで目撃できるライヴですが、これが大きく4つに分けられます。それぞれご紹介していきましょう。
【中尺のプロショットバル3種】1997年:JASON BONHAM BAND(4曲)本作に収録された10種の映像は実に雑多ですが、よくみると「中尺×3種」+「1曲単位×7種」だと分かる。その「中尺映像」の1つがJASON BONHAM BANDです。「1997年11月15日サンパウロ」で開かれた“SKOL ROCK FESTIVAL”で撮影されたマルチカメラ・プロショットで、完全オフィシャル級の映像美でオリジナルの他LED ZEPPELINの「Heartbreaker」「Communication Breakdown」「Whole Lotta Love」が楽しめる。南米はZEPを実体験できなかった地域だったわけですが、その憧れが渇望になったような極上プロショットなのです。
1998年;ケニー・ウェイン・シェパード(3曲)2つめの中尺映像が;ケニー・ウェイン・シェパード。国は不明ながら1998年の“HARD ROCK CAFE”で行われたライヴから3曲が収録されています。先ほどのJASON BONHAM BANDにも言えますが、HR/HMとブルースロックは不可分の間柄。南米のファンにも思い入れが深いのか、長めに収録されています。
1990年:ALICE IN CHAINS(5曲)3つめの中尺プロショットは、ALICE IN CHAINS。日本ではグランジ/オルタナの象徴であり、半ば戦犯的にも捉えられがちですが、世界的にはメタル・バンドとしても認知されている。南米のファンも「ALICE IN CHAINS風バンド」には興味がなくてもALICE IN CHAINS自身は好きなのでしょう。ここでは「1990年12月22日シアトル公演」の公式映像『LIVE FACELIFT』からライヴパートをそっくり入れるという南米らしい豪快さで収録しています。
【1981年-1998年:1曲単位のプロショット(7曲)】以上の中尺映像よりもインパクトが強烈で、本作の個性ともなっているのが1曲単位の映像群。7種がひしめき合っているのですが、これがもう秘宝揃いなのです。いきなり大群衆を「Burn」で沸騰させるグレン・ヒューズ、90年代に最先端を走っていたDREAM THEATER、スティーヴ・ルカサー&ヴィヴィアン・キャンベルに加え、何とデイヴ・キングという豪華メンバーで演奏される「Going Down」、南米でフェアウェル・ツアーを終えたWHITESNAKEの「Love Ain't No Stranger」などなど。貴重で極上なプロショットが次々と登場する。そんな中で「お!」となるのが1996年のオジーと1981年のVAN HALEN。前者はギターがジョー・ホームズなのも貴重なら曲が「Perry Mason」というのも激レア。恐らく、ホームズ時代のNo.1クオリティとなる必見プロショットです。そうしたレア度とは違った意味で重いのがVAN HALEN。1981年シアトルの映像で南米と何の関係もなさそうですが、問題は選ばれている事実自体が重要。実のところ、VAN HALENは(QUEENに次いで)いち早く南米ツアーを行ったバンド。当時はまだ民主化前の軍事独裁政権下だったブラジルに自由なロックを見せつけたのです。本作に収録されているのは、その1983年ではなく1981年の映像。この「Unchained」こそが南米公演を心待ちにしていたファンの心象に刻まれているのでしょう。まさに世界の扉を開いた1曲が極上クオリティで楽しめるのです。公式映像の豪快なコピーから超貴重な共演、歴史的なアーカイヴ映像まで……。本作は1曲1曲が極上クオリティのプロショット集であり、能書きなどなくても最高なロック・コンピレーションです。しかし、さらに当時の南米シーンに思いを馳せると一層深みが増すのも事実。ここに詰まったロックを愛した南米ファンが、ロブ・ハルフォードですら「もう無理だ」とサジを投げた暗黒時代のHR/HMを支え続けた。だからこそ、21世紀の復活と現在に至る隆盛があり得たのです。単に最高なロック映像作というだけでなく、歴史の潮流の裏側を覗かせてくれる1枚。
Live compilation of 90's High Quality PRO-SHOT
1. Glenn Hughes - Burn (Monsters of Rock, Brazil 26th September 1998) 2. Dream Theater - Pull Me Under (Monsters of Rock Festival, Sao Paulo, Brazil 26th September 1998) 3. Jason Bonham Band - Heartbreaker (SKOL Rock Festival, Sao Paulo, Brazil 15th November 1997)
4. Jason Bonham Band - When You See The Sun (SKOL Rock Festival, Sao Paulo, Brazil 15th November 1997) 5. Jason Bonham Band - Communication Breakdown (SKOL Rock Festival, Sao Paulo, Brazil 15th November 1997)
6. Jason Bonham Band - Whole Lotta Love (SKOL Rock Festival, Sao Paulo, Brazil 15th November 1997) 7. Van Halen - Unchained (Oakland, USA 21st June 1981) 8. Ozzy Osbourne - Perry Mason (Ozzfest 1996)
9. Steve Lukather & Vivian Campbell - Going Down (Leo Fender Memorial Jam Benefit '92) 10. Gov't Mule - If I Had Possession Over Judgment Day (from the movie "Hellhounds on My Trai") 11. Kenny Wayne Shepherd - Somehow Somewhere Someway (Hard Rock Cafe 1998)
12. Kenny Wayne Shepherd - Blues On Black (Hard Rock Cafe 1998) 13. Kenny Wayne Shepherd - Slow Ride (Hard Rock Cafe 1998) 14. Whitesnake - Love Ain't No Stranger (Buenos Aires, Argentina 13th December 1997)
15. Alice In Chains - Man In A Box (Moore Theatre, Seattle, WA, USA 22nd December 1990) 16. Alice In Chains - Real Thing (Moore Theatre, Seattle, WA, USA 22nd December 1990) 17. Alice In Chains - Love Hate Love (Moore Theatre, Seattle, WA, USA 22nd December 1990)
18. Alice In Chains - Sea Of Sorrow (Moore Theatre, Seattle, WA, USA 22nd December 1990) 19. Alice In Chains - Bleed The Freak (Moore Theatre, Seattle, WA, USA 22nd December 1990) PRO-SHOT COLOUR NTSC Approx. 100 min.