今は亡きシアトルのキングドーム。同スタジアムも1976年3月にオープンした登場は最新鋭の設備を誇った大会場であり、ポンティアックのシルバードームと並んで当時のスーパーグループがこぞってコンサートを開いていたものです。レッド・ツェッペリンなどはその最たる例で、77年のライブ映像を元にしたサウンドボード・アルバムの決定版「SEATTLE 1977」がリリースされたのは記憶に新しいところ。彼らの音源の元になったプロショット映像からも解るように、キングドームはコンサート時に6万人以上の観客を動員できるということから、会場内のスクリーンにコンサートの模様を映し出す最新のビデオ・システムを備えていたのです。こうした最新鋭の設備と大量の観客動員が可能というキングドームの恩恵を最初に受けたロックグループがウイングスでした。実はキングドーム初のロックコンサート(6月10日)がウイングスであり、彼らからスタートしたことで大物がシアトルでコンサートを開く際に使われる大会場というイメージが出来上がります。さらにキングドームとウイングスといえば思い出されるのが1976年オーバー・アメリカ・ツアーからの映画「ROCKSHOW」。オープニングが正にキングドームでの「Venus And Mars / Rock Show」の演奏を採用していたこと、さらに公開後しばらくは同会場での収録と喧伝されていたせいでキングドームにて収録された映画だとばかり思われていたものです。ところがどうでしょう、ここ20年の間にマニアが行った調査によって、実のところキングドームのテイクはたった4曲で、大半はツアー千秋楽のLAフォーラムで収録されたものだったということが判明してしまいました。しかしキングドームは先の理由からウイングスのステージが「ROCKSHOW」とは別の映像が存在する。それがこの日のスクリーン用映像だったのです。1990年代に入ってこの映像が流出したのですが、当時は「ROCKSHOW」イコール、キングドームというイメージがあったことから、「ROCKSHOW」用映像のアウトテイクという風に短絡的に受け止められてしまいました。ところが実際には「ROCKSHOW」が映画用のフィルムで収録されていたのに対し、スクリーン用映像はビデオテープでの収録。よって撮影経路や画質がまるで違う。そして何より「ROCKSHOW」では少なかったリアル・キングドームの演奏がふんだんに見られるという大きな価値を含んでいたのです。もっとも「ROCKSHOW」と違って公開を前提とした映像ではなく、あくまでスクリーン映像を記録用に録画したに過ぎない。そのせいでジミー・マカロックの「Medicine Jar」では彼がギターソロを弾き始めたところで大きなカットが入ってしまったり、さらには運悪くビデオテープの交換に当たってしまったタイミングで「Yesterday」が丸ごと未収録という点が惜しまれます。そしてライブ後半も未収録。こうした録画状態、さらに当初は大半が「ROCKSHOW」とダブるのではと誤解されていたことから、非常に貴重な映像であった割に注目を浴びませんでした。この映像の貴重さは純正キングドームのステージを収録しているというだけでなく、「ROCKSHOW」だとほとんどカットされてしまった曲間のくつろいだ様子なども見られるドキュメントとしての価値の高さ。例えば「Lady Madonna」を終えた後でおどけるポールの姿。あるいは「Yesterday」を終えたポールがデニー・レインと二人で何やらゲラゲラ笑う(その後ろではあのトレバー・ジョーンズがマイクをセッティング中)。そしてアコースティック・セットの曲間における座ってくつろいだ様子など。こうしたライブならではのくつろいだ場面のほとんどが映画ではほとんどカットされていたという。それにフィルムによる撮影だった「ROCKSHOW」は全体的に暗めな印象がありましたが、こちらの方が実際のステージの明るさを感じさせるところもビデオならでは。音声に関してはZEPのキングドームと同じくビデオフィードのサウンドボードなのですが、「ROCKSHOW」はリンダとデニーのバックコーラスを総入れ替えしていた上、歓声までオーバーダビングしていたのは有名な話。よってこちらの方が差し替えのない実際のライブの生々しさをも伝えてくれる点でも価値が高い。そしてプロショット映像ということでビデオ時代からおなじみではありましたが、流通が枝分かれしてゆく内に色味の薄いコピーが氾濫する結果となってしまいます。むしろ現在はこの状態の方が一般的であるかのようですらある。しかし今回はダビング回数の少ない、色調の鮮やかなコピーを独占入手してDVD化。先にも言ったように、元が公開を前提とした映像ではない上、1970年代ビデオ画像の粗さが少なからず見受けられるのですが、それでも過去に出回っていたバージョンと比べると確実に画質は向上しています。また今回のリリースに当たっては単にスクリーン用映像を収録するのではなく、ツアードキュメント「WINGS OVER THE WORLD」で見られたキングドーム開演前の様子を最初に付け加えてコンサートの臨場感を演出。さらにマニアを唸らせる映像アジャストとして、アメリカのニュース番組「GOODNIGHT AMERICA」にて放送されたキングドームの演奏シーンを追加収録。中でも注目すべきは「Yesterday」。不幸にもビデオには録画されなかった同曲の演奏シーンがここでは完全に収められているのです。こちらはフィルム撮影ですが「ROCKSHOW」とはまったくアングルが異なっており、しかもビートルズ「A HARD DAY’S NIGHT」のライブシーンがうっすらオーバーラップされるという粋な演出。ライブ終盤の二曲もこれまた「GOODNIGHT AMERICA」の間で流されたものですが、こちらはニュース番組らしく断片的なもの。しかし、こうした念入りな編集によってキングドーム映像の最長版が実現したのです。言うなればスクリーン映像本体のアッパー感はもとより、「ROCKSHOW」以上に本当のキングドーム・ショウの熱狂を伝えてくれる映像アイテム。そもそもキングドームにニュース映像が存在していたことを知らないマニアも少なくないかと。よってビデオ時代から見慣れてきたマニアにも絶対に満足していただける、最長&ベスト・バージョンが遂に!
・映画「Rockshow」と異なるカメラアングルの流出プロショット・既発より色が鮮やかなアップグレードソース・欠落している「Yesterday」「Silly Love Songs」「Band On The Run」はMonday Night Specialの放送ソースより補填・「Wings Over The World」より、開演前の映像補填
The Kingdome, Seattle, Washington, USA 10th June 1976 PRO-SHOT(UPGRADE)
1. Introduction 2. Venus And Mars 3. Rock Show 4. Jet 5. Let Me Roll It 6. Spirits Of Ancient Egypt 7. Medicine Jar 8. Maybe I'm Amazed 9. Call Me Back Again 10. Lady Madonna 11. The Long And Winding Road 12. Live And Let Die 13. Picasso's Last Words (Drink To Me) 14. Richard Cory
15. Bluebird 16. I've Just Seen A Face 17. Blackbird 18. Yesterday 19. You Gave Me The Answer 20. My Love 21. Listen To What The Man Said 22. Let 'Em In 23. Silly Love Songs 24. Band On The Run PRO-SHOT COLOUR NTSC Approx.83min