14年前の今日(2006年7月7日)、この世を去ったシド・バレット。魂の次元でPINK FLOYDに影響を刻んだ輝けるダイアモンドの伝説に迫った傑作ドキュメンタリーがリリース決定です。そんな本作は、2001年に名門BBCが制作した特番“THE PINK FLOYD & SYD BARRETT STORY”。正式にDVD化されたほどの傑作番組ですが、本作はそんな公式品のコピーではありません。リチャード・ライト逝去の2ヶ月後となる2008年11月に衛星放送の某音楽専門チャンネルで特集された日本放送バージョンです。
【特濃・激アツ・膨大な解説コーナー】国内のコアな記録マニアによる極上マスターで音楽番組の数々をアーカイヴしておりますが、本作もまたその1つ。2008年放送ということもあってクオリティは完全オフィシャル級ですし、日本語字幕も完備……と、いつもなら美味しいポイントとして紹介するところですが、今回はこんなの序の口。この放送ならではの日本独自ポイントが山盛りのスペシャル・バージョンなのです。まず、番組独自の解説コーナーが凄い。日本の洋楽放送では本編に入る前に、入門用として解説コーナーを設けることが多いわけですが、そのほとんどはちょっとしたナレーションだったり、歴史やバンドをカンタンに紹介する程度。2-3分ほどのものが一般的です。ところが、この番組は違う。冒頭で約10分半、中盤で焼く4分。合わせて15分近くもじっくり解説しているのです。しかも、これが長いだけでなく濃い。思いっきり、濃ゆい。何しろ、案内役を務めているのは日本のバンドTHE COLLECTORSの某シンガー氏。ご存じの方はご存じと思いますが、この人物は英国ロックに深く傾倒している事でも知られ、学生時分に組んだバンド「THE BIKE」だったりするほど初期FLOYDの熱心なファン。「プログレッシヴ・ロックというのがあって……」「あの頃はLPだったんですけど……」等と、本人は初心者向けを意識しているつもりのようですが、話の中身が全然そうじゃない(笑)。当時、FLOYDやシドから受けた衝撃を語る内容はどこまでも熱っぽく、「偏差値が5くらい上がる気分でプログレを聴いてた」「エミリーが世界で一番カッコイイ曲だと思う」「シドの写真を持って美容院へ行ってこのパーマにしてくれと頼んだ」等々……同じ事はしなくても気持ちだけは痛いほど分かるコメントを連発。あまつさえ「西新宿のブート屋で『シド』と書いてあるだけでビデオを散々買った」とまで口走っており、放送でそんな事言っちゃっていいのかな……と要らぬ心配までしてしまうのです(ただ、リックの逝去について一切触れないのはやや不可解。亡くなる前に収録したのでしょうか)。
【名門BBCだからこそのディープな傑作ドキュメンタリー】10分以上の熱弁(もちろんチャプターで切っていますので、熱弁が苦手な方は飛ばせます)の後は、いよいよ本編がスタート。これがまた傑作。番組の作りとしてはオーソドックスなもので、当時の貴重映像や関係者のインタビューでシドの想い出に深く深く切り込んでいく。メンバー4人はもちろん(制作されたのは2001年なのでリックも登場します)のこと、メンバーだったボブ・クローズやマネージャーのピーター・ジェナー、マイク・レナードなど、黎明期FLOYDのキーパーソン達が次々と登場。さらにはシドの彼女だったリビー・チィスマン、シドのソロ作にも参加したHUMBLE PIEのジェリー・シェリーやカメラマンのミック・ロック等々、本人を深く知る人物たちのコメントで“シド・バレット”という人物が多角的に描かれていくのです。もちろん、そのコメントはこれまでと大きくは違わず、ほとんどの人物は彼の人となりや才能を手放しで褒め称えている。そんな中で唯一、明らかに違うのがニック・メイスン。シドのドラッグ癖によってツアーが台無しになったくだりで「笑うべきか、殺してやろうか?って感じだ」と口にする。もちろん昔の笑い話として語っているので文字で受けるほどキツくはないのですが、文字通りになるのがその後。真顔になって「僕はシドに同情する気持ちを持った覚えはないね」と話すのです。このドキュメンタリーが制作された当時は厳しく感じもしましたが、現在を振り返ればSAUCERFUL OF SECRETSを率いてシドの音楽を語り継いでいるのは、他の誰でもないニック。実体験のある方なら共感されるかも知れませんが、家族や親しい友人の深刻な問題は綺麗事では済まない。公言するか否かは別として、間近にいたからこそのニックの言葉はあまりにもリアルなのです。また、コメント以外もディープ。番組の作りは王道の時系列でロジャーとシドの出会い(9歳くらい)から始まるわけですが、その後もFLOYDへの加入、伝説のUFOクラブ、名曲の創作秘話などが次々と明かされていく。もちろん、そのBGMには初期FLOYDやシドのソロ曲が流れるのですが、その歌詞も字幕付き。崩壊していくシドの精神と音楽をシンクロさせた語り口が異様な迫力さえ醸しているのです。
【番組独自に追加された大量のボーナス映像】そんなドキュメンタリー本編だけでもお腹いっぱいですが、この番組はまだまだ半分(!)だから恐れ入る。番組の後半には、ボーナス映像が約50分も放送されたのです。その内容は正規DVD版『THE PINK FLOYD & SYD BARRETT STORY』のボーナスにも収録されていたギルモアの追加インタビュー、ロビー・ヒッチコックやグレアム・コクソン(BLURのギタリスト)によるシドのカバー、「Arnold Layne」のクリップなど。ヒッチコックやコクソンはドキュメンタリー本編にも登場していますし、シドが遺した音楽を寄り幅広く感じられるのです。もちろん、これだけでは50分にはならない。この番組では、さらに『PULSE』からのライヴやクリップなど、PINK FLOYD本体の映像も追加しています。実のところ、「Wish You Were Here」以外はシドとの関わりはあまり感じられないのですが、番組の主旨は「これを機にFLOYDに興味を持ってほしい」ということのようです(むしろ、FLOYDを知らない人がシドのドキュメンタリー番組を観るかな……とも思いますが)。ディープな作りで評価の高いドキュメンタリー番組の大傑作にして、胸アツな解説コーナーや膨大なボーナス映像も凄まじいスペシャル・バージョンです。日本放送の独自企画は数あれど、ここまで熱く、濃ゆく、サービス山盛りな特番はそうはない。公式版DVDをお持ちの方にもご体験いただきたい1枚。
Broadcast Date: 18th November 2008 (114:08)
1. VJ Intro 2. Syd Barrett's Early Years In Cambridge 3. Moving To London - Starting Pink Floyd 4. Getting Signed - Releasing The First Album 5. Frequent LSD Use - Syd Barrett Leaves The Real World 6. David Gilmour Takes Over - Syd Barrett Leaves Pink Floyd
7. Syd Barrett's Solo Career (Or How To Refuse To Be A Rock Star) 8. Returning To Cambridge - Syd Barrett Thinks And Searches 9. The Last Meeting Of Syd Barrett And Pink Floyd 10. VJ Talks
Extra 11.David Gilmour talks 12. Wish You Were Here (from "Pulse") 13. Robyn Hitchcock performs "It Is Obvious" 14. Graham Coxon performs "Love You" 15. Arnold Layne (Promo Video) 16. Keep Talking (from "Pulse") 17. Another Brick In The Wall Part 2 (Promo Video)
18. Take It Back (Promo Video) 19. When The Tigers Broke Free (Promo Video) 20. The Fletcher Memorial Home (Promo Video) 21. High Hopes (Promo Video) PRO-SHOT COLOUR NTSC Approx.114min.