2018年アルバム「EGYPT STATION」のリリースとワールドツアーを前に、ポールはアルバムのプロモーションやウォーミングアップを兼ねたライブ活動を散発的に行っていました。7月26日には古巣のキャヴァーン・クラブにてシークレット・ギグを敢行。1999年以来となるキャヴァーンでのギグがその時と同様に公開を目的として撮影されていたことも2018年当時から報じられていました。ところが、その後の来日公演やイギリス凱旋公演がどちらも凄まじい盛り上がりを見せたこともあって、7月当時の話題もあっという間に忘れ去られてしまいます。二日前のアビー・ロード・スタジオでの「LIVE FROM ABBEY ROAD」がリアルタイムで放映されたことも拍車をかけたでしょう。それだけならまだしも、収録から一年が経過しても映像が公開される気配はなく、いよいよ世界中のファンから忘れ去られた感があったものです。ところがギグから2年以上の歳月が経過した昨年末、ようやく2018年キャヴァーン・ギグの模様が配信されました。タイミング的にはニューアルバム「McCARTNEY III」のリリースと重なる訳ですが、そこからの曲を演奏するはずもなく(何しろ二年前の収録です)、何故か今の配信となったのは不思議な感が否めません。しかしギグ自体の内容は非常に面白い。1999年の時はツワモノ・ミュージシャンをバックにアグレッシブなロックンロールを演奏していましたが、今回は長年のツアーバンドを従えてのウォーミングアップということで雰囲気がまるで違う。それに2018年のライブ活動の中では最初期の様子が収録も兼ねていたということもあって、序盤の演奏は固めというか緊張気味といえ、以降のツアーよりもゆったりしたテンポで演奏されているのが逆に新鮮。当時は居合わせた観客によるスマホ動画でしか垣間見られなかった2018年のキャヴァーンですが、改めてそのゆったりした演奏ぶりが新鮮に映ります。とにかく序盤は緊張気味で、なおかつ通常のツアーよりステージが俄然狭いのでポールとバンドメンバーの演奏に対する合図や仕草まで克明にキャッチしてくれているのがまた面白い。さらに面白いのが、狭いステージゆえに通常のグランドピアノが持ち込めず、ポールが「My Valentine」から「Lady Madonna」まで一つのキーボードで弾き通しているという。おかげでいつもなら彼がグランドピアノで客席から横を向く形で弾いていた「Nineteen Hundred And Eighty-Five」でもポールが正面を向いて歌うという珍しい光景が見られます。先の理由からギグの前半で緊張気味な様子が伝わってくるのですが、アコースティックかつキャヴァーンで演奏するのにうってつけなクオリーメン・ナンバー「In Spite Of All The Danger」辺りからポール以下ほぐれ始め、小会場ならではのくつろいだ雰囲気の中でイイ感じの演奏が続きます。もしかしたら前半の緊張気味な雰囲気のせいで今まで公開されなかったのでしょうか。また全体を通してのゆったりとした演奏ぶりが「Hi, Hi, Hi」などはオリジナル・ウイングスを偲ばせるような雰囲気なのも新鮮。それに何といってもギグの収録時と現在では世界が変わってしまっており、今では実現不可能な「密」状況でのギグだともいえるでしょう。皮肉なことに2020年の末に公開されたからこそ、その価値を見直したくなるギグ映像でもあったのです。惜しむらくは放送に際して当日の演奏から6曲がカットされてしまっており、「EGYPT STATION」からも「Come On To Me」と「Confidante」の二曲が漏れてしまいました。それでもたっぷり90分、おまけに完璧な画質と音声で2018年のキャヴァーン・ギグが見られるようになったのはやはり感激というもの。先に触れた演奏フォーメーションの特殊さだけでなく、セットリスト全体の特殊な構成もギグならでは。いずれにせよ、同じ2018年でも後の来日公演やグランド・セントラル駅とはまったく違うライブ映像。
Live at The Cavern Club, Liverpool, UK 26th July 2018 PRO-SHOT (90:37)
1. Intro 2. Twenty Flight Rock 3. Magical Mystery Tour 4. Jet 5. All My Loving 6. Let Me Roll It / Foxy Lady 7. I’ve Got A Feeling 8. My Valentine 9. Nineteen Hundred And Eighty-Five 10. Lady Madonna 11. In Spite Of All The Danger 12. Love Me Do 13. Who Cares 14. Birthday 15. Fuh You
16. Get Back 17. Ob-La-Di, Ob-La-Da 18. Band On The Run 19. Hi, Hi, Hi 20. I Saw Her Standing There 21. Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise) 22. Helter Skelter 23. Ending
Paul McCartney - Lead Vocals, Bass, Guitar, Piano Rusty Anderson - Guitar, Backing Vocals Brian Ray - Guitar, Bass, Backing Vocals Paul "Wix" Wickens - Keyboards, Backing Vocals Abe Laboriel, Jr. - Drums, Backing Vocals PRO-SHOT COLOUR NTSC Approx.91min.