ディランが1984年ヨーロッパ・ツアーを開始する三か月前に出演した伝説のテレビ放送のリハーサルと本番の両方を収録した貴重映像。この時期ディランはアメリカの名物トークショー番組「LATE NIGHT WITH DAVID LETTERMAN」の出演オファーを受け、「トークなしなら」の条件で出演を承諾。ただし当時のディランはライブ活動から遠ざかっており、バンドを持っていなかったことからザ・プラグズという若手のバンドに白羽の矢が立てられたのです。彼らからすればディランのバックを務められるのは千載一遇のチャンス。断らないはずがなく、ディランの家で軽く打ち合わせ&音合わせが行われた後、収録が3月22日にニューヨークで行われます。驚いたことに、この収録からは本番だけでなくリハーサルの映像が流出、ビデオの時代からマニアには定番のレア映像となっていました。おかげでスターがリハーサルと本番でパフォーマーとしてどのように変わるのかを解りやすく伝えてくれる格好の資料となったのです。リハではちょっとおじさん臭いファッションなディラン(笑)がアドリブ曲らしき「I Once Knew A Man」から始め、とりあえず本番でも演奏する予定の二曲を軽くならします。普通のアーティストであればもっと綿密にリハを重ねるのでしょうが、そこはボブ・ディラン、とりあえず的な雰囲気で演奏するにとどまらせます。そこから本番で取り上げるはずのないロイ・ヘッドのカバー「Treat Her Right」をやり出し、プラグズをバックにディランは思う存分リードギターを弾いてリハを終わらせます。ここでリードを弾いてみせた様子からも解るように、ディラン自身は既にやる気があったのでしょうが、あまりバンドに対して気は使っていないようです。それでもプラグズは黙々と仕事をこなしますが、収録本番ではディランが豹変。もちろんスタイリストに身なりを整えてもらい、パフォーマーとしてのスイッチがオンになったというのもあるのでしょう。オープニングで当初は取り上げるつもりのなかった「Don't Start Me To Talkin'」をハイテンションに演奏します。これはディランが収録直前になって提案したといわれていますが、当然バンドは明らかに緊張気味。しかしあまのじゃくディランはそれを逆手に取ったかの如くイキイキと熱唱。さらに面白いことに「License To Kill」と「Jokerman」の両方でディランが途中でギターを外し、ハーモニカを吹きまくって演奏が終わるというアレンジにて披露。極めつけは「Jokerman」でスタッフの手違いからこの曲に合わせたキーのハーモニカが用意されず、ディランが手持ち無沙汰になりながらプラグズは演奏を続けるというスリリングなハプニング。しかしディランは正しいハーモニカを受け取ると腐ることなく吹きまくり。挙句の果てにはプラグズの面々もカメラに向かって笑顔を見せるほど。とはいえ明らかにこの放送の為のコラボレーションであり、大規模なツアーをこなせるようなバンドではないのは事実。だからこそ、この後のヨーロッパ・ツアーでは経験豊かなミュージシャンのバンドを結成してスタジアムを回ったディランは賢明でした。この上なくスリリングな演奏をテレビで披露したことからディラン・マニアの間では伝説とされている出演ですが、今回は2015年にネット上に出回ったリハと本番をカップリングしたバージョンをDVD-Rに収録。リハの方は流出ということもあって粗さが残る画質ですが、本番の方はかなり良質。
Late Night with David Letterman March 22nd 1984 PRO-SHOT (32:13) Rehearsal: 1. I Once Knew A Man 2. Jokerman 3. License To Kill 4. Treat Her Right 5. Instrumental Broadcast: 6. Intro 7. Don't Start Me Talkin' 8. License To Kill 9. Jokerman PRO-SHOT COLOUR NTSC Approx.32min.