38年ぶりの“蠍団+ウリ”の日本共演は、両者が“LOUD PARK 16”に出演したからこそ実現。そんな本作から流れ出るのは、SCORPIONS編に酷似しながらも、さらに素晴らしい極上のサウンド。特性やニュアンスは同じながらも、さらに凄まじい荒縄の如きダイレクト感に圧倒される。この高音質ぶりはLOUD PARKの総てのバンド、いやこれまで10年以上続くLOUD PARK録音の中でも格別な1本なのです。実のところ、本作と本編のSCORPIONS、さらに先日ご紹介したWHITESNAKEの『LOUD PARK 2016』はいずれも同じ会場・同じ機材・同じ録音家に加え、同じポジションで録られたもの。それにも関わらず、差が生まれてしまった要因は2つ考えられる。1つは、バンド側の出音。サウンドのセッティングは各バンド側が行っているのか、1バンド1バンドで出音が思いっきり違う。デスメタル系が爆音なのは分かるものの、クラシックロックでも良し悪しがハッキリと分かれ、「始まってみるまでどんな音なのか分からない」となりがちなのです。WHITESNAKEは残念ながら録音は特級でも、現場の出音に限界があった。SCORPIONSや本作が他バンドよりも格段に素晴らしいサウンドなのは、バンド側の音に対する美学に寄るところが多いのです。もう1つの要因は、現場の空気感。SCORPIONSとウリはどちらも現場の音は最高だったのですが、やはり好き者だけが集まるフェスの中盤と観客全員が押し寄せるトリでは雰囲気が違いすぎる。SCORPIONSでも、歓声がほとんど感じられないほどに小さかったのですが、遠いになりに巨大な“うねり”は全編を覆っていた。それこそがスペクタクルの源ですから決して欠点ではないものの、本作にはそれさえなく、「まるでサウンドボード」と呼ぶに相応しい激烈サウンドを実現している。正直な話、曲間に現場アンプが出している微細なノイズまでもがキッチリと録音されているほどです。さて、その激しいハイクオリティで描かれるウリのショウ。これがまた、何とも素晴らしい。ピッキングニュアンスはピックの角度まで感じられそうなほど鮮明で、繊細なヴィヴラートのタッチは手で触れられそうなほど詳細。その上でリズム隊の重低音がたまアリの床を震わせ、真っ直ぐに伸びるヴォーカルは幻想感まで漂わせています。セットリストは昨年の来日公演でも披露した“SCORPIONS REVISITED”の濃縮版で、全曲がSCORPIONSナンバー。とは言え、昨年との大きく違うのはヴォーカル。昨年メインを張っていたネイサン・ジェイムズは既に解雇され、今回はサイドギターも兼ねる二クラス・ターマンがヴォーカルを務めています。前回でも一部の曲で歌っていましたが、今回は飛躍的に巧くなっている。繊細なトーンも見事なら、高らかな歌い上げも圧倒的。メインへの昇格も大正解!な歌声を存分に聴かせてくれます。それ以上に素晴らしいのは、当然主役のウリ自身。「Catch Your Train」「We'll Burn The Sky」はSCORPIONSもやっていますが、さすがさすが、仙人バージョンは異様なほどに濃い! 良くも悪くもアリーナ・ロックを体現するSCORPIONS本体とは違い、アレンジにも演奏にも端々まで美意識が詰め込まれ、超美麗にしてめくるめく特濃バージョンなのです。しかも、フェスの短い出演時間にも関わらず、「The Sails Of Charon」「Fly To The Rainbow」といった大曲をぶち込み、「Sun In My Hand」のようにジミヘン色が強い渋い曲まで披露する。知名度やノリなど知ったことかと言わんばかりの美意識。その美意識が音に姿を変えたスカイギターが天空を駆け巡るライヴアルバムなのです。奇跡の共演が注目された2016年のSCORPIONS。しかし、その共演曲「We'll Burn The Sky」が“伝説の再現”に終わらず、“新たな伝説”になり得たのは蠍団もウリも、今をときめく現役感に溢れているからに他ならない。歴代No.1のリズム隊を得て、更なるロックモンスターとなった蠍団、そして、独自の美学のままに70年代ナンバーを美しく生まれ変わらせているウリ。
Live at Saitama Super Arena, Saitama, Japan 9th October 2016 TRULY PERFECT SOUND(from Original Masters)
1. All Night Long 2. Catch Your Train 3. The Sails of Charon 4. Sun in My Hand 5. We'll Burn the Sky 6. In Trance 7. Rainbow Dream Prelude 8. Fly to the Rainbow 9. Dark Lady
Uli John Roth - guitar, vocals Niklas Turmann - guitar, vocals David Klosinski – guitar Elliott Rubinson - bass Corvin Bahn - keyboards Richie Monica – drums