
マニア必携の最新作は、ライヴ・クロニクル・シリーズの再びのシェアスタジアムである。しかし、もちろん再発ではなく、その後に発掘された音源と映像を含む、より完璧なセットとなってのリリースである。シェアに関しては、おそらくこれ以上のものはもう出ないであろう、それくらい究極のセットである。シェアスタジアムがビートルズファンにとって特別な公演であることは言うまでもない。その理由としては、1964年夏のUSツアーのような過密スケジュールに難色を示したメンバーの意向を受け、エプスタインは少ない公演数で大量動員が出来るスタジアム公演を中心に1965年USツアーを組んだこと。そのまさに初日が、1965年USツアーを象徴するこの8月15日シェアスタジアムであったこと。動員数は5万とも6万5千とも、リンゴに至っては12万人などとパンチ佐藤のようなジョークを述べているくらい、当時としては規格外の規模で行なわれたコンサートであったこと。ビートルズのメンバーにとっても特別なコンサートであったのは、映像版アンソロジーでも長く時間が割かれていたことからも伺えるが、古くから映画やビデオなどで視覚的に見ることが出来たこと。何よりジョンの有名な「I’m Down」における肘弾きでもわかるように、メンバー全員がキメキメで最高のパフォーマンスを展開していることなどが挙げられる。まさにビートルズのライヴ・キャリアにおける頂点であり、またその後のアーティストにも影響を与えたランドマーク的なコンサート、それがこのシェアスタジアム公演なのである。
【オーディオ・ディスク1】
今までシェアスタジアムを収録した音源というのは、映像付随の音声をそのままディスクに落としたものしか存在しなかった。しかし良く知られているように、当日の録音は状態が良くなく、映像作品として使用するクオリティではなかったようだ。そこでより完成度を高めるために、翌年1966年1月5日にスタジオにて、映像に合わせてビートルズが改めて演奏、その音源を加工して映像に被された擬似ライヴを作成。疑似ライヴであるだけでなく、「Act Naturally」に至ってはスタジオ・バージョンを編集して歓声をダビングした稚拙な作りとなっている。それが、その後シェアスタジアム公演として広まったのであった。つまり当日の演奏ではないのである。それはアンソロジー映像版においても同様で、例えば「Twist And Shout」などはハリウッドボウルの音源を使ったりと、いずれも純粋にこの日の演奏を伝えるものではなかった。演奏シーンが完全収録ではないこと、曲によってはインタビューが被っていること、そしてこれが最も致命的な理由であるが、音声が差し替えられていることから、作品としてはともかく、 当日の様子を正しく伝えているとはいいがたいものであった。そして、その肝心のサウンドトラックも、1966年1月5日ロンドンのCTSスタジオにて再録音やオーバーダブされたもので、 ビートルズのメンバーはフィルムを見ながら口を合わせてレコーディングしたという。 つまり、今までシェアとして流通していたものは、大部分がこのときスタジオで再録音された擬似ライヴだったのである。では、本当に当日録音された演奏のテープはどこに行ったのか? これまで存在が確認されることはなく、録音されたことは確かだが、もう破棄されてしまったか、いずれにしても所在は不明なままであった。ところが2005年暮れ、なんとその録音されたテープがオークションに出品されることになったのである。もはや新しい音源は難しいと言われていたビートルズにおいて、今まで文献だけでしか知ることが出来なかった音源が突如コンサートから40年の時を経て目の前に現れたのである。もちろんオークションなので、落札者しか聴くことは出来ないが、存在が確認できただけでマニアは期待に胸を膨らませたものである。そして、やはりというか、このリール・テープの元の所有者は、オークションに出品する前にバックアップをとっていたらしく、そのバックアップをイエロードッグに流し、それがHIS MASTER’S CHOICE(以下HMC)というレーベル名でリリースされてしまった。それが2006年の事である。しかし元の状態があまり良いものではなかったのか、ピッチは不安定なままで、ノイズもあり、ドロップアウトもあるなど、音源としては貴重なものであるかもしれないが、作品という観点で見たときに、あまりに欠陥の多いものであった。そして本作である。入手したものは、今だから書けることであるが、そのオークションでリール・テープの現物を落札した人から、さらにそれを高額で譲り受けた人からである。本人の弁によると、当初は世に出すつもりはなく個人の楽しみのつもりで購入したのだが、オークション出品前にこっそりコピーされたものからHMCで世に出たため、もう手放しても良いと思うようになったと述べている。そこでMクローデルにオファーが来たのであった。本作はバックアップなどのコピーからではなく、オークションに出品されたリール・テープそのものから新たに起こしたものなのである。インナーに掲載されている写真のリールが、その現物である。そして実際に本物のリール・テープを聴いてみると、HMCのものより音質が良いのはもちろんのこと、より長く収録されていることが判明した。何せ40年前のリール・テープなので再生環境によって音質に差が出るのは当然である。その点、簡易的なバックアップからではなく、スタジオで現物のリール・テープから起こしたものの方が音質的に優れているのは理解できる。しかし収録が長いというのはどういうことだろうか。いまだにその原因は不明だが、いずれにせよ本作が最長収録であることは間違いない。そしてこれ以上の収録がないというのも、現物のリール・テープを入手したMクローデルだからこそ断言できる事実である。ディスク1には当日の前座の様子を収録している。出演歌手それぞれに異なる司会者がついており、これが各々にとって一世一代の晴れ舞台であることが伺える。残念ながら聴衆はほぼ全員ビートルズが目的であったが、この人たちはこのような大観衆の前で演奏する機会など今までも、そしてこの後もなかったであろう。今となっては1965年当時のアメリカのショウビジネスの貴重な記録となっているのが興味深い。
【オーディオ・ディスク2】
そしてディスク2がビートルズのステージを収録している。前半は、先に紹介したように、オークションに出品されたリール・テープの現物そのものから新たに起こしてデジタル化したものが音源となっている。3本に分けて収録されたスコッチのリール・テープからアナログ・トランスファーを敢行。 HMCではその録音状態からカットされたと思われるショーのオープニングのアメリカ国家斉唱前のおよそ5分間のインターミッションのパートも含め、リール・テープの隅々まで余すところなく完全収録している。 素の音を聴いてみると、残念ながら40年前のリール・テープということで、経年変化によるマスターの疲労や、オリジナル収録時の機材の設定に因る録音レベルの昇降、リール毎のピッチの乱れなどが散見された。 それでなくともビートルズ自身によってボツになった音源である。今回そのような欠点を克服すべく、前述のニュー・トランスファーをプロ用スタジオに持ち込みテープの隅々までクリーン・アップ。 元々のマスターは、特にビートルズの出演パートのREEL#3に大きなピッチの狂いがあり、ノーマルな条件下での再生ではMCにおけるポールの声などに顕著にそれが現れていたが、 本作ではそれをプラスマイナスゼロに調整することから始まり、各トラックにおけるドロップ・アウトの補正、全体を覆う極端に強調された高音(音割れしている箇所もあり)と低音(利き過ぎてコモっていた)などのバランスを調整し、高額な費用と時間をかけてリマスタリングを行なった。その効果のほどは、これはもう、けして期待を裏切らないものとなっているので、ぜひ店頭で試聴していただきたい。セットリストは1965年USツアーの定型で、ジョンの「Twist And Shout」から始まり、ポールの「She’s A Woman」に繋がる前年とは異なるのはもちろん、最新の映画主題歌「Help」などを含み、新旧織り交ぜた新しいものとなっている。当時の稚拙な機材と悪環境の中での録音、さらに大観衆の絶叫を前にしたスタジアムでの演奏と、けしてビートルズ自身ベストの状況下での演奏ではないが、あふれる熱気と熱狂、悪ノリ気味のパフォーマンスは、スタジオ盤や他のコンサート音源では聴くことのできない素晴らしいものである。従来のシェアスタジアム音源は、例えば「TWIST AND SHOUT」はジョンの“カモン、カモン”の箇所がダブルトラックで聴こえるなど、最も修整を意識させる曲で、アンソロジー映像版ではハリウッドボウルの演奏が被せられていた。当然、ここでは本当のオリジナル音声で収録している。「SHE’S A WOMAN」は映像では完全にカットされ、従来聴くことができなかった曲である。ジョージのグレッチのチューニングが甘く、これはカットされるわけだ・・・。 「I FEEL FINE」はジョンのマイクがオフミックスのため、映像版では完全に演奏が差し替えられていたが、ここでは本当のオリジナル音声による収録。「DIZZY MISS LIZZY」は演奏こそオリジナルなものの、ポールがベースをオーバーダブさせたものが使われていたが、もちろんここではベースのミックス前の録音である。 「TICKET TO RIDE」は従来当日の演奏にポールのベースをオーバーダブしたテイクが使用されたとされていたが、 今回オリジナル音声と聞き比べる限り完全に新しく録り直したテイクが使用されていたことが判明した。「EVERYBODY’S TRYING TO BE MY BABY」も映像版ではカットされいたが、『ANTHOLOGY 2』に音声のみ収録された。本作で聴くことの出来る同曲は、そのアンソロジーのミックスともやや異なる印象だが、逆にアンソロジー収録に際してビートルズ側がかなり音処理を施したというのがわかる。「CAN’T BUY ME LOVE」と「BABY’S IN BLACK」も後にポールがベースをオーバー・ダブする前の音である。「BABY’S IN BLACK」は音源研究家ダグ・サルピーの『910ガイド』で66年の再録音源としてリストアップされているが、 今回のオリジナル音源とシンクロして比較すると、ボーカルトラックと基本的なリズムトラックは一致する。つまりオリジナルを基本として、ポールのベーストラックと、会場で弾き損じていたジョージの間奏部分にオーバーダブを加えたものがフィルム音声に採用されたというのがわかる。そして「ACT NATURALLY」は、映像版では完全にスタジオ録音バージョンに歓声を被せただけのものだった。本作でこのオリジナル音声を聴いたときは、意外とリンゴが真面目に歌っていることに驚いたものだ。しかしながらやはりリンゴの歌唱には音程に不安定なところがあったり、ポールのコーラス・パートが完全にオフミックスでフィルムのサウンドトラックとしては不備があったことから、オリジナル音声の採用は見送られたと思われる。 ツアー中にも関わらずリンゴのレパートリーが途中から比較的歌いやすい「I WANNA BE YOUR MAN」に変更になったのもリンゴの音程が原因だろう。「A HARD DAY’S NIGHT」は映像版ではインタビューが被っていたものしか出回っていなかったが、ここではもちろん被っていない純粋な当日の演奏のみである。「HELP」も映像版ではジョージ・マーティンの要請で完全に別テイクに差し替えられたとされていたため、今までオリジナル音声は聴くことができなかった。 オリジナル音声と聴き比べると、2番歌詞の途中でレコーディング自体がオフラインになってしまうため、作品としては使い物にならなかったことが想像される。そして最後は「I’M DOWN」である。映像版では、この元々の音声にポールがベースをダビングし、さらに肝心のオルガンの音まで再録音が行なわれていた。見る者に強い印象を与えるあのジョンのオルガン・プレイは、実は再録音されたものだったというのが驚きである。映像版アンソロジーではオリジナルと修正版とを巧妙にミックスしたものが使用されていたが、もちろんここに収録されているのはオーバーダブ無しのオリジナル音声である。このように、BBCで放送された映像付随の音源と聴き比べると、実に違いが顕著で、もう別物と言ってもよい。これぞ当日の演奏そのまま、未加工の生の音なのである。そして後半は、そのBBCで放送されたときの音声が収録されてる。本作の音源が出るまで、1965年シェア・スタジアム公演といえば、こちらの音源が収録されていた。そして前述のようにフェイクとまでは言い過ぎかもしれないが、当日の音や演奏とは程遠い様々な人為的な加工が施されている。逆に、こうして並べて聴くことで、どのような処理がなされているのか、その違いを楽しむのも一興であろう。もちろん歓声を被せたスタジオ録音がそのまま流用されていた「Act Naturally」も、SPANK盤などではカットされていたが、ここでは検証のため万全をきして収録している。
【オーディオ・ディスク3】
ディスク3は1965年シェア・スタジアムのステレオ音源を収録している。残念ながらリアル・ステレオは6曲のみしかないが、ディスク2の完全版と比べ、リアル・ステレオではこのように聴くことが出来る貴重な音源である。続いて収録されているのは、疑似ステレオにおける完全収録である。疑似ステレオとは言っても初期のビートルズのアルバムにあるような泣き別れではなく、かつ位相をずらしただけのヴォーカルが奥に引いた疑似ステでもない。音の広がりがあるまさにステレオ音源で、最新スタジオ技術を使ってミックスされたものである。おそらく今後はオリジナル・マスターによるシェア音源と言えば、こちらの疑似ステレオ・バージョンがスタンダードになるのではないか。そして最後に1966年8月23日のシェア・スタジアム音源が収録されている。ご存知の通りこの年のシェア・スタジアム公演は音源がなく、今まで聴くことが出来なかった。もちろん本作でもわずかな断片でのみしか聴くことは出来ないが、音源と映像の両方でマテリアルに恵まれている1965年シェア・スタジアム公演に対し、あまりスポットの当たっていなかった1966年の同会場のコンサートも、同じくらい大人数の聴衆を集めた巨大規模のコンサートとして記憶されるべきであろう。本作では初登場音源として、コンサートが始まる前の観衆のざわめきから、ビートルズがステージに登場して行なうチューニング、ポールの挨拶、そして一曲目「Rock And Roll Music」の途中までをオーディエンス録音で初登場収録している。オーディエンス録音とはいえ音質はすこぶる素晴らしいもので、仮にこの音質で全編があれば大ニュースになるくらいのものである。短い収録なのは残念でならないが、この1966年シェアスタジアムの「Rock And Roll Music」は久しぶりに聴くことが出来るビートルズの初登場音源である。ジャケットには、その後に、やはり1966年シェア・スタジアム公演から5曲クレジットされているが、こちらはファンのインタビューがコンサート中に行なわれていたため、バックにビートルズの演奏も収録されている音源である。インタビューがメインとはいえ、はっきりビートルズの演奏も収録されており、こちらも貴重な1966年8月23日シェア・スタジアムの音源と言える。
【AUDIO DISC ONE】
ORIGINAL ON LINE VERSION OPENING ACTS mono
KING CURTIS
01. Introduction 02. National Anthem
DISCOTECH DANCERS
03. Murray The K Introduction 04. It’s Not Unusual - Can’t Buy Me Love - I’m Telling You Now - A Hard Day’s Night
KING CURTIS
05. Scott Ross Introduction 06. What'd I Say 07. The Branch 08. Soul Twist
CANNIBAL AND THE HEADHUNTERS
09. WMCA Good Guys Introduction 10. Out Of Sight 11. Nau Ninny Nau 12. The Way You Do The Things You Do 13. Land Of 1000 Dances
BRENDA HOLLOWAY
14. Hal Jackson Introduction 15. Shake – Satisfaction 16. I Can't Help Myself 17. You Can Cry On My Shoulder 18. When I'm Gone
SOUNDS INCORPORATED
19. Cousin Brucie Introduction 20. America 21. Fingertips 22. The William Tell Overture 23. Instrumental 24. In The Hall Of The Mountain King
【AUDIO DISC TWO】
ORIGINAL ON LINE VERSION mono
01. Ed Sullivan Introduction 02. tuning 03. Twist And Shout 04. She's A Woman 05. I Feel Fine 06. Dizzy Miss Lizzy 07. Ticket To Ride 08. Everybody's Trying To Be My Baby 09. Can't Buy Me Love 10. Baby's In Black 11. Act Naturally 12. A Hard Day's Night 13. Help 14. I'm Down
1966 BBC BROADCAST VERSION mono
15. Ed Sullivan Introduction 16. tuning 17. Twist And Shout 18. I Feel Fine 19. Dizzy Miss Lizzy 20. Ticket To Ride 21. Act Naturally 22. Can't Buy Me Love 23. Baby's In Black 24. A Hard Day's Night 25. Help 26. I'm Down
【AUDIO DISC THREE】
ORIGINAL ON LINE VERSION true stereo
01. Dizzy Miss Lizzy 02. Everybody’s Trying To Be My Baby 03. Can’t Buy Me Love 04. Baby’s Black 05. A Hard Day’s Night 06. I’m Down
ORIGINAL ON LINE VERSION pseudo stereo
07. Ed Sullivan Introduction 08. tuning 09. Twist And Shout 10. She's A Woman 11 I Feel Fine 12. Dizzy Miss Lizzy 13. Ticket To Ride 14. Everybody's Trying To Be My Baby 15. Can't Buy Me Love 16. Baby's In Black 17. Act Naturally 18. A Hard Day's Night 19. Help 20. I'm Down
SHEA STADIUM, NEW YORK August 23, 1966
21. Applause 22. tuning 23. Rock And Roll Music 24. Opening Acts 25. Fans Interviews 26. She's A Woman 27. If I Needed Someone28. I Feel Fine 29. Yesterday 30. Paperback Writer