当店が数年前にリリースした「MERCY FOR POUGHKEEPSIE」はディランの復活作「OH MERCY」リリース後の初のツアーとなった1989年秋のアメリカからの名盤として世界中のマニアから高い評価を受けました。先のような名盤をリリースし、同アルバムからの収録曲を初めてライブで披露したというエポックメイキングな時期のツアーでありながら、今までアイテムの数が極めて少なく、さらに高音質なオーディエンス録音での収録が待たれていた時期。それだけに内容面と音質面の両方において充実した「MERCY FOR~」はマニアにとって待ち焦がれたアイテムとなったようです。今回はそれ以来となる1989年ツアーからのリリースとなるのですが、実はこの一年はディランの長いライブ史をみても稀にみる極端な変化にとんだ年。元々89年は上半期を「OH MERCY」のレコーディングに費やしており、この時期のディランとしては珍しくライブ活動の開始が遅かった。しかしツアーがいざ始まってみれば変化の連続。5月末から6月にかけてのヨーロッパ・ツアーだけは何故か昔からアイテムが多く存在するのに対し、夏から秋にかけてのアメリカになった途端にアイテムが少ないのは1989年における長年のジレンマと言っていいレベルでした。おまけに夏のツアーから変化が極端に激しくなり、音源として収集したり聴いたりする時期としてはこれほど面白い時期はないのでは?と思えるほど。1988年にGE・スミスを中心として組んだ新たなバンドが、今やディランのどんな要求にも応えらえる頼もしい存在へと成長し、変幻自在のパターンを可能にしてみせた…それが1989年の夏から秋にかけてだったのかもしれません。今回リリースする1989年16日のアトランタ公演というのがまた凄まじいセットリスト。いきなり一曲目が「Trouble」となっていて、さて「どのアルバムからの曲?カバーか?」と錯覚する人がいたとしても全然おかしくありません。これは1981年のアルバム「SHOT OF LOVE」に入っていた曲。「じゃあなおさら解らない!」と言ったあなたも間違いじゃありませんよ(笑)。そんな激シブ・ナンバーをライブのオープニングで演奏してしまうディランの方がどうかしている。とはいえ、アルバムでもルーズに演奏されていたブルース・ナンバーのテンポを少し上げてロック調で演奏するアイディアはなかなかのインパクト。カッコいいけど知名度ゼロなオープニングから雪崩れ込むは「Trail Of Buffalo」。マニアの方には1988年ツアーのアコースティック・レパートリーとして有名な曲ですが、ここでは何とハードなエレクトリック・アレンジにて演奏。これまたインパクト十分なのはもちろん、こんなエレクトリック・アレンジが施されたのは後にも先にもこの日だけ。数か月前のヨーロッパで演奏されたバージョンともまるで雰囲気が違う。そしてとどめは「Queen Jane Approximately」。世界中のディラン・マニアからすれば夢のセットリストだと言ってもおかしくない。こんな極端にレアなレパートリーが冒頭から平然と演奏されてしまうのが89年ツアーだったのです。さらに「Just Like A Woman」を聴けば解るように、ディランのコンディションはエンジン全開。GE・スミス率いるグループの武骨な演奏とガンガン押しまくるディランのケミストリーの壮絶さ。それは89年夏のステージにおいてもこの日が特に抜きんでた一日であることは、今回の音源を聴いてもらえればいとも簡単に理解してもらえるでしょう。またこの日のオーディエンス録音の音質が極上。とにかくクリアネスが抜群で、まるで2016年に録音したかのような鮮度も素晴らしい。それでいて絶好調なディランとバンドの演奏が聴けてしまうとなれば、これほどCDに向いた初登場音源はありません。 ライブの後半もディランは飛ばしまくり。いつもの「Silvio」からガラリと雰囲気を変えてスローなバラードが始まったと思いきや、何とヴァン・モリソン「One Irish Rover」のカバー。1986年のモリソンのアルバム「NO GURU, NO METHOD, NO TEACHER」に入っていた曲ですが、ディランは89年を通して好んで歌っていたレパートリーでもあります。しかし予備知識なしで通常のディランのライブを期待していた当日のオーディエンスからすると「???」といったところでしょうか。こんな風に驚きのセットリストに最高の演奏、そして最高の音質で収録されたアトランタ公演ですが、二枚目にはボーナス・トラックとして二週間後のイングルウッド公演から前半の6曲が立て続けに収録されているのですが、これが何と…アトランタとは一曲もダブらないのです。しかもオープニングはインストゥルメンタルから始めるという斬新なパターンが導入された時期。こうなると曲が被らないどころか、まるっきり別のライブに聴こえてしまうという驚きの構成。二週間で普通ここまで変わりますかね?オーディエンス録音の音質はアトランタと違い丸びを帯びたアナログチックな音質であると同時に、音像はアトランタよりも近いオンな状態。本編アトランタと聴き比べれば、89年夏のディランとバンドがどれだけ変化に富んで自由なライブを繰り広げていたかがわかるというもの。自信作「OH MERCY」のリリースを目前に控え、よりアグレッシブにライブを繰り広げられていた時期の極上音源かつ極上ライブが遂にリリース。89年のディランの凄まじさを存分に味わってください!
Troy G. Chastain Memorial Park Amphitheatre, Atlanta, Georgia, USA 16th August 1989 TRULY PERFECT SOUND
Disc 1 (62:26)
1. Intro. 2. Trouble 3. Trail Of The Buffalo 4. Queen Jane Approximately 5. Just Like A Woman 6. You're A Big Girl Now 7. Highway 61 Revisited 8. Love Minus Zero/No Limit 9. Gates Of Eden 10. Lakes Of Pontchartrain 11. Girl From The North Country
Disc 2 (57:10)
1. Silvio 2. One Irish Rover 3. Like A Rolling Stone 4. It Ain't Me, Babe 5. All Along The Watchtower
Bonus Tracks
6. B-Thang 7. Positively 4th Street 8. Seeing The Real You At Last 9. Masters Of War 10. The Man In Me 11. Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again
Bob Dylan (vocal, guitar, harmonica), G. E. Smith (guitar), Tony Garnier (bass), Christopher Parker (drums)