歴史的なフジロック出演も記憶に新しいボブ・ディラン。その後も続いている最新ツアーの極上ライヴアルバムが登場です。本作に記録されているのは「2018年8月6日ドーバー公演」。日本を含めたアジア・ツアーの一幕です。現在、ディランは4年ぶりとなるオーストラリアをツアー中。まずは、そんな近況を確認する意味でも2018年の日程から確認してみましょう。
・3月22日-4月27日:欧州(26公演)・7月27日-8月6日:アジア(5公演)←★ココ★・8月8日-28日:オセアニア(11公演)・10月4日-11月20日:北米(31公演)
これが現在までに公表されているスケジュール。「アジア」ツアーは5ヵ国を1公演ずつ、韓国→日本→台湾→香港→シンガポールで巡りました。本作のドーバー公演はその最終日。7年ぶり3度目となるシンガポールでのコンサートでした。そんなショウを吸い込んだ本作は、実に瑞々しく端正なオーディエンス録音。先日のフジロック出演は野外フェスらしい反響ゼロの開放感が感じられましたが、本作は逆に屋内会場ならではの美しい鳴りが素晴らしい。現場となった“THE STAR PERFORMING ARTS CENTRE”は約5,000席のホールで、2012年に開設された比較的新しい会場。日本で言うなら東京国際フォーラム・クラスで、これまでデヴィッド・フォスターやDEEP PURPLE、エルトン・ジョン、JOURNEYなど、さまざまなバンド/ミュージシャンがショウを行ってきました。本作は、そんなシンガポールの名会場の美しい反響をほんのりと吸い込みつつ、ディランの歌声やピアノのタッチが細部までくっきりと届く。サウンドボード的というよりは、オーディエンスだからこそ成し得る現場の美を全身で味わえるサウンドなのです。さらに素晴らしいのが、しんと静まり返った現場の空気。もちろん、曲間では喝采が会場に広がり、シラけているわけではありません。しかし、そんな声援も遠くに捉えられており、演奏中に至ってはディランの一声も、ピアノの1音も聞き逃すまいと言う集中力が支配する。まるで来日自体が珍しかった頃のようなムードなのです。そのおかげで1音1音の立ち上がりから消え去る刹那に至るまで、すべてのヴァイヴが綺麗に描かれる。もちろん、録音自体が優れているのは確かですが、それ以上に現場の呼吸感までもが相まって実現した美音の世界なのです。そのクオリティで描かれるのは、歴史的なフジロックを更に拡大させたようなショウ。日本公演ではフェスだけにやや短めではありましたが、シンガポールではグッと増量。日本と同じ全曲を披露しつつ、さらに70年代の「Tangled Up in Blue」「Gotta Serve Somebody」や『TEMPEST』の「Pay in Blood」「Soon After Midnight」も演奏されるのです。おおよそ上記の「欧州」ツアーでも演奏されていた曲ですが、「Gotta Serve Somebody」だけは約7年ぶりの復活。日本でも全曲オリジナルという構成が話題になりました(欧州ではカバーも演奏されていました)が、そのコンセプトはシンガポールでも変わらず、20曲ものボリュームをロックに駆け抜けるのです。素晴らしかったフジロックからさらに増量された美味しいシンガーポル公演。その現場を極上のサウンドでじっくりと浸りきれるライヴアルバムの大傑作です。そして、日本公演と同じ曲も味わいはまったく異なるホール・ショウ。歴史的なフジロックの続編であり、拡大編であり、別バージョンでもある1本。
Live at the Star Theatre, the Star Performing Arts Centre, Singapore 6th August 2018 PERFECT SOUND
Disc 1(56:33)
1. Stu Intro 2. Things Have Changed 3. It Ain't Me, Babe 4. Highway 61 Revisited 5. Simple Twist of Fate 6. Duquesne Whistle 7. When I Paint My Masterpiece 8. Honest With Me 9. Tryin' to Get to Heaven 10. Make You Feel My Love 11. Pay in Blood 12. Tangled Up in Blue
Disc 2(53:19)
1. Early Roman Kings 2. Desolation Row 3. Love Sick 4. Don't Think Twice, It's All Right 5. Thunder on the Mountain 6. Soon After Midnight 7. Gotta Serve Somebody 8. Blowin' in the Wind 9. Ballad of a Thin Man
Bob Dylan - vocal, piano Stu Kimball - guitar Charlie Sexton – guitar Donnie Herron - violin, mandolin, steel guitar Tony Garnier – bass George Recile - drums & percussion