
思えば1988年、CDブートレグなるものが登場し始めてルネッサンスが吹き荒れたものです。ところがその頃に出ていたZEPはと言えば「JAPAN TOUR 71」や「IN THROUGH THE OUTTAKES」といったLPの音をトレースした安直なものばかり。またLPの世界ではマイク・ミラード音源のジェネ落ちピッチ上昇ロングビーチを収録したLP「HOW MANY MORE TIMES」がサウンドボード録音などと言われていた時代。そんな状況の中で彗星のごとく現れたのが「TOUR OVER EUROPE 1980」。各年代のBBCとフィルモアを除けば929とデストロイヤーしかZEPライブのサウンドボードが存在しなかった状況の中で突如、CDというメディアに乗せられて現れた1980年6月29日のチューリッヒ公演のサウンドボード録音という衝撃といったら!LPの時代には欠片も聴けなかったチューリッヒのサウンドボード録音が収録された「TOUR OVER EUROPE 1980」はZEPマニア以外のファンの間でも噂になるほどの衝撃作でした。もっとも、そうした話題をさらった一方でテープチェンジに当たった「Kashmir」の途中までの収録となり、ライブ後半を収めたセカンド・テープのパートが未収録のままでリリースされてしまうという落ちもあったのですが…。「SILVER COATED RAILS」でライブ後半が発掘されるのは「TOUR OVER EUROPE 1980」のリリースから一年以上先のこと。そうしたリリースアイテムとしての歴史的重要性はもちろんなのですが、この後で大量に放出されることになる1980年ツアー・サウンドボードの先陣を切ったのがチューリッヒ公演だったということは、何か運命のようなものを感じずにはいられません。何故なら80年ツアー最高の名演がこの日だったからです。これが7月のマンハイム辺りだったら評価が全然違っていたかもしれない。あるいはあれほどまでの話題を呼ぶことはなかったかもしれないのです。それほどチューリッヒは80年ツアーの中でも抜きん出た演奏であり、それが音質抜群のサウンドボード録音で聴けたインパクトはあまりに大きいものがあった。この日の演奏はブリュッセルにあった勢いや活気を成熟させたものだと言えるでしょう。80年ツアーは6月の出来が良い、ということは今回同時リリースとなるブリュッセルでも繰り返し述べた通りですが、その間には後の悲劇を予見させるような出来事も起っています。27日のニュールンベルク公演がボンゾの体調不良(かのバナナ食べ過ぎ事件)によってわずか三曲で打ち切られてしまうというハプニング。そこから一日のオフを経て劇的な復活を遂げたのがチューリッヒだと言えるでしょう。実際ここでのZEPもブリュッセルの時と同じように、一聴しただけで伝わってくる勢いや活気が溢れている。ニュールンベルクでの体たらくを絶対に挽回しなければならない…という気迫がひしひしと伝わってきます。それでいてブリュッセル以上に特筆すべきはプラントの声の調子の良さでしょう。このツアーにおけるペイジのプレイ・クオリティの降下と呼応するかのように、プラントもまたこのツアーで声が一段と老け込んだ印象は否めません。ネブワースの時と比べても、より一層ハーモナイザーの力を借りていることも、サウンドボード録音からはっきりと伝わってきます。そうしたプレイ面や肉体面の衰えに直面しつつ、それでもなお6月のツアーからはZEPが久々のツアーに戻れた喜びがあふれていました。その頂点がチューリッヒだったのではないでしょうか。とにかくプラントのゴキゲンぶりがリアルに記録されていて、この日繰り返された「eye thank you」ポーズを観客に促す様子などは聴いていて本当に微笑ましい。それでいてバンド全体が発する演奏の力強さも本当に素晴らしいものがあります。やはりこの日も「All My Love」は大人気ですし、ペイジがグイグイと弾きまくる「Since I’ve Been Loving You」は名演。それを横で見ていたプラントが演奏後に彼を称えている程で、ペイジがマイクの前で「どうもありがとう」と応えているのだからまた微笑ましい。こうした余裕と力強さの同居がチューリッヒ・パフォーマンスの魅力でしょう。そして微笑ましいと言えば何といっても「Kashmir」の大迷走。一度迷い出したらさあ大変、ジョンジーが何とかして舵を取ろうとしても、誰かが別の方向に行ってしまう。80年ツアー屈指の名演の中でこんな傑作なハプニングが起きてしまったのも奇跡といえるかもしれません。そうしたパフォーマンス面だけでなく、音質面においてもチューリッヒは80年ツアー・サウンドボードの中でも一番のクリアネスを誇る名音源でもありました。それ故に近年はオーディエンス録音で「Kashmir」欠損部を補ったアイテムが当たり前となっていましたが、その割にサウンドボード本編のピッチが狂ったアイテムがリリースされるなど、80年ツアーにおける基本中の基本と呼べるチューリッヒが意外なほどおざなりにされていた点は残念でなりません。そこで今回は安心のWinston Remastersバージョンから改めて収録。Winston Remastersのイコライズ・センスとチューリッヒ・サウンドボードのクリアネスは相性が抜群で、文句なしの決定版と呼べる仕上がり。ピッチの正確さは当たり前ですし、例のオーディエンス録音アジャストも完璧。もはやZEPマニアだけでなく、すべてのロックファンにZEP最後の躍動と呼べる名演をじっくりと味わっていただきたい極上のチューリッヒに仕上がりました。そして今回はボーナス的な存在なDisc-3も付属。そこではアメリカのラジオ局Westwood Oneがチューリッヒのサウンドボードを抜粋放送した番組を収録しています。実をいうとWestwood One「TOUR OVER EUROPE 1980」の高音質に衝撃を受けており、同盤のリリース以降何度もチューリッヒを公共の電波に乗せて堂々と放送していたのです。しかもWestwood Oneがアメリカでの放送権を獲得していた1969年や71年のBBCライブと抱き合わせでの放送を繰り返していました。例えば「RARE BROADCASTS」なるブートレグが過去にリリースされたことがありましたが、それもWestwood Oneがチューリッヒ込みで放送した番組を収録したものだったのです。今回は2000年にWestwood Oneが放送したバージョンを収録しており「Stairway To Heaven」のみ71年のBBCテイク。他にもBBCテイクが放送されていましたが、それらをカットして一枚のディスクに収録しています。この放送が面白いのはBBC音源との格差をなくすため、チューリッヒ音源に激烈なイコライズとフェイクの歓声を被せていることでしょう。そんな扱いからも、むしろチューリッヒ・サウンドボードが卓越した音源であることを再認識してもらえる面白音源が同時に収録されるのです。やはり1980年チューリッヒは別格の名音源!
Live at Hallenstadion, Zurich, Switzerland 29th June 1980
Disc 1 (74:44)
1. Intro 2. Train Kept a Rollin' 3. Nobody's Fault But Mine 4. Black Dog 5. In The Evening 6. Rain Song 7. Hot Dog 8. All My Love 9. Trampled Underfoot 10. Since I've Been Loving You 11. Achilles Last Stand
Disc 2 (50:03)
1. MC 2. White Summer / Black Mountainside 3. Kashmir 4. Stairway to Heaven 5. Rock and Roll 6. Heartbreaker
Disc 3(39:58)
FM Broadcast Westwood One Broadcast DAT Master
1. WXRT Intro/J.J. Jackson Intro 2. Trampled Underfoot 3. Since I've Been Loving You 4. Achilles Last Stand 5. Stairway To Heaven 6. Outro.