
初期3部作の完成形にして、ドゥームロックの始祖たる大名盤『MASTER OF REALITY』。その英国オリジナル・サウンドを復刻させた1枚がリリース決定です。先日、英国オリジナルの1stプレスLPから復刻されたデビュー作『BLACK SABBATH』。今までに聴いたこともない原点サウンドはセンセーションを巻き起こし、大人気を博しております。本作は、そのシリーズ第2弾。3rdアルバム『MASTER OF REALITY』編です。今回のサウンドもまた驚異的。実は、本作も先日の『BLACK SABBATH』と同じオーディオ・マニアが同環境・同行程で制作したもの。英国ヴァーティゴの初回盤LP『6360 050』をミントクオリティ盤を発掘し、現在望みうるハイエンド環境でデジタル化したものなのです。そのクオリティは、そんじょそこらのアナログ起こしとは次元が違う。デジタル化した後に一切の手が加えられていないにも関わらず、針パチ1つなく、回転ムラもまったく感じられない。オフィシャルの盤起こしでさえ、デジタルにしてから補正・修復作業をするものですが、それナシでもまるで欠点のない奇跡のようなクオリティなのです。そうして引き出された英国1stプレスLPの無加工サウンドは、実にリアル。『BLACK SABBATH』の解説でも触れましたが、現在のリマスターはアメリカ系(RHINO盤)と本国系(SANCTUARY盤)があるわけですが、本作は本国系の最高峰。特に現在の世界標準となっているRHINO盤リマスターCDに至ってはまったくの別世界。ゴツゴツと立体化されたRHINO盤は一聴してド迫力ですが、ピークが強烈でドラム打音も耳に突き刺さり、低音もリミッターがかかったような詰まりが感じられる。SANCTUARY盤はかなりオリジナルに近いのですが、それでもリマスターCDはピンセットでピークだけひっぱり上げたような不自然さがある。そうした現行リマスターに対して本作はアナログ起こしのために音圧は低めなものの、ヴォリュームを上げても音が潰れず、フォルテッシモからピアニッシモまで極めてナチュラルで滑らかなヴァイヴが連続するのです。そんなオリジナル・サウンドで甦った大名盤は、とにかく深い。デビュー作とは違って60年代センスはなりを潜め、重厚なアンサンブルを追及するようになっており、その厚みの手応えが素晴らしい。迫力とインパクト重視で凸凹させているリマスターCDとは異なり、あらゆる音域が滑らかだからこその手応えが圧倒的なのです。後輩ドゥームロック群はただひたすら引きずるような重さを追及しますが、本家BLACK SABBATHはそれと同時に整然とした構築感も描き出す。リフ1つ、パーカッシヴなドラミング1つずつを積み上げられた建築物のような重量感、その音の建築物の壁を手でなぞるような現実感。オリジナルのマスターテープに吸い込まれた“質量を持った音”が再生されるのです。スタジオジャム的だったデビュー作から楽曲と個性を磨き上げ、ロジャー・ベインと生み出した『MASTER OF REALITY』。セルフ・プロデュースや海外録音、多彩な楽器の導入……そうした数々の実験を始める『VOL.4』以降とは異なり、純粋なSABBATHサウンドを完成形の域にまで突き詰めた大名盤です。本作から流れ出るのは、そんな歴史的な刹那にロンドンのアイランド・スタジオで鳴っていた“本物の音”。そのサウンドを現在までキープし続けた唯一無二の英国オリジナルLP。
Taken from the UK original LP (Vertigo, 6360 050) *Best Ever Sound (34:37)
1. Sweet Leaf 2. After Forever 3. Embryo 4. Children Of The Grave 5. Orchid 6. Lord Of This World 7. Solitude 8. Into The Void