
ロック史上で避けては通れないピンク・フロイドの" THE DARK SIDE OF THE MOON "。その世界初演は1972年1月20日の英国ブライトン・ドーム公演でした。フロイド史上、いやロック史上でも大きな意味を持つこの最重要公演は昨年9月に『BRIGHTON JANUARY 1972 』として音質最高の頂上盤がリリースされ、世界中のファンから大きな反響を呼んだばかりです。一方その2ヵ月後にやってくるのがここ日本での2度目の来日公演で、この時の模様も当レーベルから音質と内容の充実した決定的なタイトルが幾つもリリースされています。時系列で並べてみますと、
・ECLIPSE OF THE SUN - 3月6日(東京)・TOKYO 1972 2ND NIGHT - 3月7日(東京)・ASSORTED LUNATICS - 3月8日(大阪) / 9日(大阪) / 10日(京都)・KYOTO 1972 - 3月10日(京都)・SAPPORO 1972 DIRECT REEL MASTER - 3月13日(札幌)
....等など、どれも72年日本各公演地での演奏を特上の音質で掴める決定的タイトルばかりです。1月の世界初演から約2ヶ月のパフォーマンス経験を積んでいるだけに曲の基礎構造やショウ全体像が或る程度固まってきた様子がどの日も実に興味深い訳ですが、しかしその反面で次の様な知識欲も同時に沸く筈です。「では1月の初演から3月の日本公演までのショウ全体の変化を、良い音で辿れる2月の公演はどれだろう?」お答えしましょう。その世界初演と日本公演を繋ぐ架け橋となるのが今回登場する最新作、72年2月17日・英国レインボーシアター公演の大発掘1stジェネレーション・テープによる音質特級盤なのです!!この最新作はつい先日ネット公開されたばかりのホットな1st genテープ原音を使用しているのですが、実はこのソース自体は以前登場した『RAINBOW DAY 1 』と同一のもの。しかし遂に出たこの1st gen版はその役目をいよいよ終らせるに相応しい圧倒的なものでした。というのもこのオリジナル録音はSteve Bなる人物が公演当日にレインボーシアターの最前列(!!)から録っている事が判明しており伝え切れていなかったフロント・ロウの音圧感と音の見通しが驚異的なまでに宿っている為なのです。大元は同一ソースなのに何故ここまで完全な別物と言えるクオリティの格差があるのか。ここで注目したいのは、1983年にSteve B氏がこの1st genテープを作製した際にTDK・SAシリーズ(※ TDK SA90)を使っている事でしょう。通常のデッキで録音・再生し易いノーマル・ポジションも選べた筈なのにあえてハイポジション・テープで第一世代を作製しているという事は、Steve氏は当時まだ対応が少なかったハイポジ録音(※ CrO2対応セレクタ)が可能なデッキを持っていた筈であり、音質にこだわってこの1st genテープを作製した事が容易に想像出来る訳です。そしてハイポジに音が落とし込まれているという事はマスターから吸い込んだ音の成分と情報量がそれだけ多いという事であり、実際このサウンドを聴くとノーマルテープで複製されたものらしい事がその音域の狭さや響きの質の劣化から自然と見えてくるのです。なので今回の音盤化にあたってはこの大発掘1st genの音像を徹底的に精査し、やや左側にズレていた定位と揺れたピッチをハイポジの特性を殺さないよう業務用機材と最新ソフトでパーフェクト・アジャストした最良の仕上がりを実現させています。正直言って音のクオリティではネット公開されたものより飛躍的に向上しているだけでなく、恐らくこれこそがSteve B氏のマスターに最も近い筈であり、かつてない高解像音で世界初演と日本公演のミッシング・リンクを繋ぐタイトルとなっているのです!!まずその音の立ち上がり約7秒長く収録された「Speak To Me」でハッと気が付く別格の透明感と音の見通しの良さ、そして「Breathe」でジュワッと滲み出す粘り強くて硬質なベースの響きが嫌でも耳にショックを与えてきますが、これにギターの鋭い音色が重なる事でリズムと旋律線の輪郭が別物の様にハッキリ出ている事が容易に理解出来ると思います。特にこの日は歌詞冒頭" ♪ Breathe, breathe in the air... "の節回しからギルモアが歌メロをテストしている気配が濃厚に出ていますから、そうした曲の形成途上にある音の拾い方・表現の生々しさも未体験の鮮明さで甦っている訳です。「On The Run」ではドライヴ感を抑えたこの時期らしい曲構造が抜群の解像度で現れ、終曲~「Time」までの繋ぎも潤いある静音の再生力にハイポジ・テープのポテンシャルの高さ(※ ノイズが少なくダイナミックレンジの幅が大きい)を感じ取れると思います。その「Time」では極端にスローテンポで演奏される姿が重量感満点サウンドで出てきますが、ここは既発盤同様に中盤3分33秒と36秒で元ソースに起因する音抜けが一瞬だけ生じています。修復は可能でしたが、そうすると1st genが持つ抜群の原音力と音圧感を逆に損ねてしまう事にもなり、それならばオリジナルに忠実な姿で残そうと思慮した結果です。「The Great Gig In The Sky」では演奏が消えて複数のモノローグSEがコラージュされる部分(※ 1分55秒付近~)が最前列録音ならではの、空間性溢れる透明音で甦ります。また「Us And Them」でも響きの立ち上がりと拡散が立体的に広がって、聴く者の知性をますます刺激してくれるでしょう。「Any Colour You Like」はギターの調べが非常に鋭く耳元に届く為、音色を重ねる事によってギルモアが得ようとしていた響きの質をより確かな実感で掴める筈です。終演に向かう「Brain Damage」でもギターを中心にして放たれる音の離合集散が一層理解し易い響きで出ていますので、既発盤との格の違いを実感出来るに違いありません。第2部の開始前の様子は恐らく同日の別録音補填によって約2分半以上のサウンドチェックが聴けますが、しかしこれも「One Of These Days」で音像が1st genに切り替わると音質のあまりの違いに唖然となる筈です。ベースの低音が序盤からラウドに響き、モノローグ手前にあるバスドラム連打以降は凄まじい低音域の威力が顔を覗かせ、ギターなど高音域に伸びる響きも一蹴する鮮烈さで出てきます。こうした原音の持つ音の鋭さが一層際立つのが「Careful With That Axe, Eugene」でしょう。ここで聴けるニックのシンバルワークやギルモアの出す奇妙な響きは鳥肌モノの音の際立ちが備わっており、既発盤では淡い色彩だったものが濃密な原色で塗られてゆく驚きに目を見張る筈です。「Echoes」では音色の瑞々しさにときめく様なアッパー感を感じる筈ですが、他日演奏とはニュアンスを異ならせるギターの響きがこれほど向上した音で聴ける喜びはファンならずとも無視出来ないと思います。アホウドリのシーンも初期独特の、まだ型にハマっていない控え目の鳴き声が繊細なニュアンスまで聴き取れますし、アンサンブル全体で見ても音の輪郭と肉厚さ、そしてこれはシンバル音の近さに顕著ですが、音像の硬質感も+2ほど向上している(=音像が引き締まっている)のも分かる筈です。アンコールとなる「Set The Controls For...」は1st genに描かれていた響きの大きな波動にダメ押しで酔って戴きたい一曲です。演奏開始前のサウンドチェックも生々しいですし、他日の演奏よりその運動性を急速に高めてゆく音楽的な瞬発力が過去最高の潤い豊かな音像で出てきます。1st genでしかあり得ない高い解像音の中で曲の表情がじんわり変わってゆく悦びと聴き応えを、この最新作で改めて噛み締めて下さい。試作期の" 狂気 "を録音した72年初頭音源は数あれど、録音機の前に遮るものが一切無いフロント・ロウの特別な音圧の中でこの時期の演奏を掴まえたものは恐らく本録音しか現存しません。言うなればこれはこの時の彼らが目指していた" 狂気 "の初期構想と音楽的な方向性を最も近い位置から受け取れる録音とも言える訳で、これは本作を手にした人に特別な充足感をもたらすでしょう。また演奏が細部まで固まりきっていないという事は、展開を知る曲の流れに身を委ねようとすればするほど様々な箇所で裏切られる嬉しさも備えている訳ですから、これもまた聴く側にとっては珍しい各シーンをストレス・ゼロの最上音質で聴ける本作の大きな魅力となっています。遂に登場した72年2月17日・レインボーシアター公演の真の姿。最前列1st genテープによる驚異のアッパー・サウンドで解き明かされてゆくその演奏表現のひとつひとつに発見!!
Live at Rainbow Theatre, Finsbury Park, London, UK 17th February 1972
Disc 1(45:39)
The Dark Side Of The Moon
1. Speak To Me 2. Breathe 3. On The Run 4. Time★3:33、3:35にギターソロのところにカットが入るのは元からです。(既発も同じ)5. Breathe Reprise 6. The Great Gig In The Sky 7. Money 8. Us And Them 9. Any Colour You Like 10. Brain Damage 11. Eclipse
Disc 2(66:36)
1. Soundcheck 2. One Of These Days 3. Careful With That Axe, Eugene 4. Echoes 5. Set The Controls For The Heart Of The Sun