
1995年、ローリング・ストーンズ二度目の来日の余韻にあやかって、彼らのビンテージ・ライブ音源が四タイトル程リリースされました。それらはすべて初CD化音源であり、例えば1969年アメリカ・ツアーの初日に1975年にエルトン・ジョンが飛び入りといった各年代のフォート・コリンズ公演といった貴重な音源を収録していたのです。90年代前半と言えば、レコードの時代には聞いたこともないようなサウンドボード録音の発掘というバブルと共にCDアイテムがリリースされたものです。しかし、そうした発掘が一段落するとLPで聞かれたオーディエンス録音のCDかも始まりました。72年のシャーロットや69年のバルチモアなどがその典型だと呼べるでしょう。その点、先の95年にリリースされたアイテムがユニークなのは、レコードの時代でも聞かれなかったオーディエンス録音をリリースしてみせたということ。先に挙げた69年や75年の音源の他に、ストーンズ絶頂の73年ヨーロッパ・ツアー・ツアーからも一アイテムがリリースされています。それが「HOW COME YOU TASTE SO GOOD」。そこに収録された1973年10月15日のアントワープ公演ですが、その後はアイテムが生み出されることはなく、何と未だに本アイテムでしか聞くことが出来ないという、これぞ見過ごされた73年の音源。それでいて「HOW COME〜」はピッチが激烈に低いという致命的なミスがあった上、「Angie」以降でカットが多く生じてしまうというのもマイナス・ポイントでした。それに加えて本タイトルを始めとして1995年の四タイトル・リリースですが、当時としては珍しい紙ジャケというパッケージではあったものの、現在のCDの紙ジャケのようなクオリティではなく、貧相な紙質で作られたものでもありました。よってジャケが傷んでしまいやすく、さしてレアなアイテムでないのにもかかわらず、現在は中古市場に出てくる頻度が低くなっていました。世界中のマニアの間で非常に人気の高い時期ですので、一見すると現存するすべての(聞けるレベルの)音源がリリースされてきたかのように思えるヨーロッパ73ですが、そんな中で完全に見過ごされていたのが「HOW COME〜」とアントワープだったという訳です。ところがこのアントワープ、音像自体は遠いものの演奏やミックのボーカルの輪郭はとてもくっきりしていて聞きやすい。もし「HOW COME YOU TASTE SO GOOD」の欠点をアジャストすれば、それだけで一気にアッパー感が増すのではないか。それをふと思いついたことが今回リリースへの運びとなった要因です。とうことから、まずは「HOW COME〜」のピッチを正してみたところ、あらびっくり案の定ストレスが一気に解消、俄然聞きやすくなってくれたのです。さらには「Angie」以降で散見されたカットで生じたノイズなども削除。いよいよ聞きやすいアッパー版へと生まれ変わりました。もっとも「Gimme Shelter」や「Tumbling Dice」の序盤で生じる波打ち状態などは解消できるはずもなく、また「Midnight Rambler」を始めとした、先のカット箇所を補填できる別音源も存在しません。その点では万人向け優良音源とは言えないのも事実。しかし一方で、マニアならばビックリするほど「聞き込める」音源だと実感できることも間違いないのです。ツアー最終日のベルリンなどもそうですが、優等生クオリティでなくともマニアなら大いに楽しめる音源がヨーロッパ73には数多く存在しますね。アントワープも今回のアジャストを施したことでそうした音源の仲間入りを果たせたのです。音質自体は厚みを欠いてヒスノイズもそれなりに聞こえますが、今回そうした箇所に関してはイコライズを施していません。このいかにも骨董品のようなアナログのオーディエンス録音はその味わいを活かした方がいい。それでいてピッチが正確になったものだから、意外なほど聞き心地よく楽しめるのではないかと。そして演奏の方ですが、何と言っても次があのブリュッセル。そんな歴史的なショーの前ということで、ストーンズの演奏は盤石も盤石。研ぎ澄まされたヨーロッパ73ならではの極上パフォーマンスが冴えわたっている。このオーディエンス録音はボーカルやギターだけでなく、73年名物のホーン・セクションの音もしっかりと捉えてくれているので、なおさらヨーロッパ73らしさが味わえる。演奏に切れ味やショウが進むほどに暴走するスピード感、そのどれもがお見事。ショー序盤において毎回のハイライトであった「Gimme Shelter」におけるテイラーのソロはここでも最高。前半はタメ気味のフレーズから始まって、最後は弾き倒すのが素晴らしい。さらに輝きを放っているのがミック。「Tumbling Dice」でシャウトは最高潮に達し、その後もヨーロッパ73らしい彼のハイパー・ボーカルが冴え渡っているのです。やはりヨーロッパ73は格別で、この日もキラリと光る演奏が目白押し。今となっては熱心なマニアでもスルーしていた人が大半であったであろう紙ジャケでカセット・トレード時代の副産物「HOW COME YOU TASTE SO GOOD」、それを徹底的にブラッシュアップして限定プレスCDに封じ込めました。むしろ今回のリリースで初めて73年のアントワープを聞かれるが多いかもしれません。世界中にいるであろうヨーロッパ73好きマニアなら絶対に楽しめる、まるで別次元に生まれ変わったアッパー版にてご堪能ください!
Live at Sportpaleis Merksem, Antwerp, Belgium 15th October 1973 UPGRADE (71:12)
1. Brown Sugar 2. Gimme Shelter 3. Happy 4. Tumbling Dice 5. Star Star 6. Dancing With Mr. D. 7. Angie 8. You Can't Always Get What You Want 9. Midnight Rambler 10. Honky Tonk Women 11. All Down The Line 12. Rip This Joint 13. Jumping Jack Flash 14. Street Fighting Man